嬉しくなりながら、斜め前を歩く品田の顔を見上げる。品田は肩越しになつみをチラリと見ると「うん」と小さく頷いた。
「なつみちゃんって結構変な奴に襲われやすい体質じゃない?」
品田が話す度、白い息が煙のように帯を引いていた。
「なにその体質……」
今夜は妙に冷え込む。冷たい指先にまた息を吹きかけていると、品田が不意に振り返る。
「寒いの?」
品田が手を伸ばしなつみの手を取る。
「冷たい……」
ポソリと品田が呟いた。
「あ……あはは。手袋してくれば良かったよ」
予想外の彼の行動に、笑って誤魔化すなつみの手を握ったまま、品田はまた歩き出す。
彼のゴツゴツした手の感触と、温もりが直に伝わる。その温かさがじんわりと胸に沁みこんでいくような感覚を覚え、なつみの口元が無意識にほころぶ。
不思議だ。この男と居ると優しい気持ちになる。
「そういえば、キャバクラのバイトはどうしたの?」
「ああ、リンクスも忙しくなりそうだし辞めちゃった」
「……そっか」
品田の声は、どことなく安心したように聞こえた。
「足……具合どう?まだ安静にしてなきゃないんじゃないの?」
歩き方がまだぎこちない品田をなつみが気遣うと、彼は「平気平気」とわざとらしく膝を高く上げて歩いてみせた。
が、まだ痛むらしく少し顔をしかめる。
「ああ、もうっ!!無理しないでっ」
「はは、もうちょっとかかりそうだね」
はらはらしながらも、もう少しの間この怪我が治らなければと思う自分がいて、なつみは軽い自己嫌悪に陥る。
「ん?どうしたの?」
怪訝な表情のなつみに気付いた品田は、窺うように見下ろす。
「……ほんとに帰っちゃうの?」
「え?」
なつみが歩みを止めた。
「なつみちゃん?」
「正直言うと、帰って……欲しくない」
品田を見上げる。
影っていた月が顔を出し、二人を照らした。
「私……品田さんが好き」
品田の目が大きく見開く。その後、微かに困惑の色を見せた。
「……それ、本気で言ってる?俺、君よりかなり年上だよ?」
「年齢は……関係ないと思う」
「え、ああ、まあそういうカップルも居るからねえ。でも……」
そこまで言うと、品田は空を見上げた。その口から、ゆっくりと白い息が吐き出される。
品田は、顔を元に戻した。先程までとは違う、珍しく真剣な表情だった。
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