「んー……」
ベッドの上で伸びをする。まだ覚醒しきれていない頭で、携帯電話の画面を見て時間を確認した。
“AM7:38”
品田はゆっくりと起き上がり、寝癖でぼさぼさの頭を掻いた。
パンの焼けるいい匂いがこの部屋まで漂ってきている。途端に腹の虫が鳴った。
すっかり朝起きるのが習慣になってしまった。
「…………」
どんな顔で彼女に会おう……。
最初に頭に浮かんだのはそんな事だった。
昨夜のなつみの告白が頭から離れない。
正直、嬉しかった。
ほんとうは、あの場で彼女を抱きしめたかった。
でも……出来なかった。
もっと相応しい男が世の中にはたくさんいる。若い彼女にはこの先出会いもあるだろう。
それを、こんな男と付き合って彼女に何の得がある?
自信が無いのだ……自分に。
はあ……と、力無く息を吐き出すと、品田は重い足取りで一階へと下りて行った。
「あ、品田さん。おはようっ!!」
一階へ行くと、品田に気が付いたなつみが明るく声をかけてきた。
「えっ?あ、う、うん。おはよう……」
昨夜の出来事はまるで無かったかのような表情に、品田は面食らったように目をしばたかせた。
テーブルに着くと、カリカリに焼いたベーコンと半熟に焼いたスクランブルエッグが用意されていた。フレンチドレッシングのかかったサラダの隣では、コーンスープが湯気をたてている。
今日はなつみが朝食を作ってくれたらしい。
「春樹、朝練だって早くから出かけちゃって、今日はパンにしてみた」
和食って苦手なんだよねえとこぼしながら、彼女はテーブルの上にクロワッサンとバターロールの入ったバスケットを置いた。
ふたり、頂きますと手を合わせて食べ始める。
対面のなつみをチラリと盗み見ると、目が少し腫れているように見えた。
「…………」
無理に明るく振舞っているのか。
いつも笑顔でいて欲しいと思っていたが、今は無理に明るくしようとする彼女が痛々しい。
「品田さん」
それまで無言で食べていたなつみが口を開いた。
「お別れ会、何か食べたいのある?リクエストあったら言ってね」
「あ……うん。考えとく」
品田の言葉に、なつみは「うん」と小さく頷くと、手に持ったパンの欠片を口の中に放り込み皿を片づけながら「珈琲淹れて来るね」とキッチンへと向かった。
「…………」
一人残された品田は、無言で自分の皿を見つめた。
────お別れ会……か。
彼女に言われた瞬間。
何故だろう。妙な寂しさが品田の胸にジワリと広がっていった。
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