パーティーの日程は一週間後に決まった。
堂島とマリンも来るらしい。

当日のメニューをどうするか、厨房でレシピ帳を眺めながら悩んでいる時だった。

なつみの携帯が短い着信音を鳴らした。そのメロディーでメッセージアプリのものだと分かった。
開くと、春樹からだった。テストが近いから友人宅で今日から土日、泊りがけで勉強をするとの事だ。
リンクスを心配するような事も書かれていたが、店の事は気にするなと打ち再びレシピ帳に目を通す。

「…………」

それから暫くそうしていたが、何かに気が付いたようにハッと顔を上げた。

という事は……。

「なつみちゃん」

「うわっ!!」

急になつみを呼ばれ、思わず大きな声が出てしまった。声の方を見ると、品田が驚いた顔でなつみを見ている。

「えっ!?あ、ごめん。びっくりさせちゃって……」

「あ、ううん。ちょっとボーっとしてたから……。どうしたの?」

誤魔化しつつ、品田に尋ねると急に珈琲が飲みたくなったとの事。

「ああ、すぐ淹れるから。座って待ってて」

嬉しそうにのそのそと、ホールへ戻る品田を意識しながらなつみは珈琲豆の缶に手を伸ばした。

今夜は、この家で品田とふたりきりだ。
意識すると同時に、以前マリンに言われた事が鮮明に蘇ってきた。


“初めては、本当に好きな人とする事”


あの時は、いまいちピンと来なかったが、今はわかる。初めてする人は、“この人”だと決めた男がいい。



「お待たせ」

「あ、サンキュー。そういや、春樹君まだ帰らないの?」

「今日から友達の家にお泊りだって」

「え……?あー、そうなんだ」

品田も何か気まずさを感じたらしい。そのまま無言で珈琲をすすった。





日付が変わり、そろそろ寝ようかと品田がベッドに潜り込もうとした時だった。

コンコン。

遠慮がちに、扉がノックされた。相手は一人しかいない。

「なつみちゃん?……どうぞ」

品田が怪訝そうに首を傾げながら、それに応えると、そーっと静かに扉が開いた。

「起きてた?」

その隙間からなつみがひょいと顔を覗かせた。

「うん、そろそろ寝ようかなーって思ってたとこ」

「ちょっといいかな……?」

「あ、うん。どうぞ」

少し緊張ぎみのなつみは、「お邪魔します」となぜかよそよそしい事を言いながら部屋に入る。
そして、品田の対面に改まったように正座で座ったので、品田も思わず同じく正座で座り直し姿勢を正した。

「…………」

なつみは俯いたまま黙っている。暫くそのままだったので、品田はその顔を覗き込んだ。

「なつみちゃん?」

声をかけると、彼女はグッと肩に力を入れ膝の上に乗せた手をギュッと握った。

「わ……私……」

「う、うん?」

上目づかいに品田を見るなつみの顔は耳まで真っ赤だ。そして、再び俯く。

「ある人に言われたの……初めては、本当に好きな人と……しなさいって……」

「……え?」

何を言っているのか分からない品田は、首を傾げながら身を乗り出す。

「だ、だから……。私の初めては……し、品田さんがいい……」

「です……」消え入りそうな声でそう付け足す。

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