品田のドアをノックするまで、約20分を要した。ノックしようか迷い、自室に戻り、また考え直して品田の部屋の前でまた迷う。
そしてやっとの思いで扉を叩いた。
品田の前に正座し、意を決して伝えたかった事を絞り出すように言った後、また品田を見ると困惑した表情の彼の姿があった。
「なつみちゃん……まさかと思うけど、それって俺と……その、セックスしたいって事?」
ストレートに訊かれ、一気に恥ずかしさが増す。さっきから、心臓が飛び出しそうなくらい煩く鳴っている。
品田の問いに小さく頷くと、彼は思案顔で頭を掻いた後「マジで言ってる?」と困ったように訊いた。
「責任とって付き合ってとか、そんな事言わないから……。品田さんじゃなきゃ、嫌なの。お願い……」
「……その、気持ちは嬉しいんだけどさ……」
「じゃなかったら、その辺の人で済ませる」
品田の言葉を遮るように言う。
脅しのようにも聞こえただろうか。少し彼の顔が険しくなった。
卑怯な言い方だと自分でも思う。でも、そのくらい必死だった。
「そんな事、女の子が軽々しく口にするもんじゃないよ。……俺みたいな仕事の奴に言われても説得力無いけどさ」
「…………」
そのまま、暫く気まずい沈黙が続いた。
「もういい。わかった」
動きを見せない品田に、溜め息交じりに言うと立ち上がる。そしてドアノブに手をかけた時だった。
「待って」
品田がなつみの背後から、ノブを回そうとする腕を掴む。
「まさか、本当にどうでもいい男と寝るつもりじゃ無いよね?」
少し厳しい口調で問われる。
斜め上にあるであろう、品田の顔が見られない。
扉を見つめつつ、吐き捨てた。
「ほっといて。品田さんにはもう関係ないでしょ」
「馬鹿っ」
初めて叱られ、肩がビクリと震えた。
「だって……」
背中に品田の熱が伝わって来る。それが更になつみの感情を高ぶらせた。
「品田さんじゃなきゃ、意味が無いんだもの……そうじゃなかったらもう……」
────誰が相手でも同じだ。
ポロリと涙が零れた。
それがはたりと足元に落ちる。
はあ、と大きな溜め息が聞こえ、品田がなつみの肩に自分の額を乗せた。肩に僅かにその重みを感じる。
「腕、離して」
「やだ」
抗議をしようと、肩の上の品田を見てドキリとした。
品田の前髪の隙間から、こちらを上目で見る彼の瞳と視線がぶつかる。
それが妙に色っぽくて、なつみは言葉に詰まった。
グッと品田の身体が前に出る。なつみの身体は押される形でドアに押し付けられた。
品田の顔が近付いてきた。
頭に手が伸びてくる。
そして、品田の唇が自分の唇と重なった。
あっという間の出来事だった。混乱するなつみから唇を離した品田は、その肩に手をかけ身体を自分に向かせる。
そして、両手でなつみの頬を包み込むようにはさみ再び零れる涙を、親指で優しく拭った。
「一旦始まったら、途中では止めないけど……それでもいいの?」
コツリと品田の額がなつみの額に当たる。
至近距離の品田に、身を固くしながらなつみは小さくコクリと頷くと、彼は再び自身の唇をなつみの口元に近付け「知らないよ?どうなっても」と囁いた。
熱い吐息が唇に当たる。
心臓が口から飛び出しそうなくらいドキドキして、息が苦しくなる。
また唇が塞がれ、今度は彼の舌が唇に触れた。初めての感覚にどうしていいか分からないなつみの唇を無理やりこじ開けるようにその舌が侵入してきた。
「は……んぅ……」
たまらず、品田のTシャツの裾をギュッと掴む。
「し、品田さん……待って」
「ンッ……駄目……。ほら、舌出して」
「は、あ……んくっ」
言われるがまま舌を絡めようと、口を開くと、更に奥に彼の舌が入って来た。
品田は深い口付けを交わしながら、ドアの近くのスイッチに手を伸ばす。手探りでそれを探し当てるとカチリと部屋の電気を消した。
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