窓の外が薄っすら明けて来た頃。
品田は自分の腕を枕に寝息をたてるなつみの髪の毛を飽く事無く優しく撫でていた。
何だろう、この幸福感は。
何だろうこの充足感は。
鼻先を彼女の髪の毛に埋めるとほのかに甘い香りがした。
「……んー……」
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「…………!?」
寝ぼけ眼のなつみの顔を、品田が覗き込むと、それまで半開きだった彼女の目がびっくりしたように見開かれる。
そして、この状況下を理解したのか恥ずかしそうに毛布を自分の顔の半分までたくし上げた。
その仕草がたまらなく可愛く見え、品田は思わず抱き締めた。
「し……品田さん……」
二人ともあのまま全裸で寝ていた為、彼女の柔らかい肌が自分の肌に密着する。
「んー……なんかこれ、気持ちいいねぇ」
「……ん」
小さく返事が聞こえて来た。
「なつみちゃん……さ」
暫く、そんな小さな幸福感に浸っていたが、不意に品田が口を開いた。
「俺と一緒に、名古屋に来る気……無いかな?」
直後、なつみが息を飲む気配を感じた。そして、少しの沈黙の後。
「ごめん、それは出来ない」
申し訳なさそうな声。
「あー……うん。そうだよね、お店もあるしね……変な事言ってごめん」
予想は出来ていたはずだった。……が、なつみの答えは、品田の胃の辺りに何か重いモノを残した。
もうすぐ昼時。
リンクスの忙しさがそろそろがピークを迎える頃だ。
品田は二階の自室から、窓を開け煙草を吸いながら外を眺めていた。
なつみとのやり取りから、品田の心は沈みっぱなしだ。
この感覚は知っている。
失恋した時の気分によく似ていた。
はあーと大きくため息をつく。
煙草の煙なのか、寒さのせいなのかその口からふわりと白い息が吐き出された。
そう言えば、今日は春樹が不在だった。
なつみひとりでは大変だろうと、品田は重い腰を上げた。
満席の店内で、なつみは慌ただしく動いていた。外にも何人か行列もできている。
春樹の宿泊を許可してしまったのを、半ば後悔しながらオーダーをとる。
「ああ、いらっしゃいませ。今日もいつもので宜しいですか?」
オーダーを取ろうと、カウンター席の客を見ると最近よく来店する若いサラリーマンの男だった。
「うん、いつもの。……あ、と。それと」
「はい?」
追加の注文かと、なつみが男を見ると彼は少し照れたように笑う。
「今日、店終わるの何時くらいになるかな?」
「え?」
「終わったら、食事でもどうかなと思って」
一瞬ポカンとしたが、ハッと我に返る。
「すいません、今営業中なんで、そういう話しはちょっと……」
「いい店知ってるんだ。前から君を誘いたいと思っててさ」
駄目だ、こちらの話は聞いていない。
他の客も待たせている状況で、困った顔をしていると、男がなつみの腕を掴んだ。
「どうかな?きっと気に入ると思うんだけど」
「あの、困ります。離して下さい」
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