しかし、男は離してくれるどころか更に力を込めて来た。
なつみが少し恐怖を感じた時だった。

背後からヌッと腕が伸びて来たかと思うと、それが男の手首をグッと掴んだ。

「すいませんね、お客さん。今夜は彼女、俺と約束があるんですよ」

声と同時に、大きな身体が男となつみの間に割って入る。

「なので……」

ググッと品田の手に力が入り、たまらず男がなつみの手を離した。

「この子の事は諦めてもらっていいっスか?」

更に力を込めたのが、品田の手に浮かぶ血管で予想がついた。

「……ね?」

「い、痛いっ離せっ!!」

品田がパッと手を離すと、男は転がるように椅子から立ち上がると、そそくさと店から出て行った。

「大丈夫?」

呆然と事の成り行きを見ていたが、品田に心配そうに覗き込まれ、なつみは我に返ると曖昧に笑った。

「う、うん。ありがと……」

「ホールは俺がやるから、なつみちゃんは厨房お願い」

品田に言われ、「え?」と顔を見返す。

「お客さん待ってるよ?ほら、早く」

「あ、うん。じゃあお願い」

促されるまま厨房に入る。
次々に運ばれてくるオーダー表のメニューをこなしながら、本当に大丈夫だろうかとちょっと覗いてみると、品田は馴染みの客とにこやかに談笑を交えながら注文を訊いていた。

ガタイとは裏腹の人懐こい彼は、案外こういう仕事も向いているのかも知れない。

先程、男から助けてくれた品田の背中は、頼もしく思えた。

────一緒に名古屋……か……。

品田の言葉は正直嬉しかった。それが出来たらどんなにいいか。
一瞬、脳内に品田と暮らしているイメージが浮かんだ。
が、直ぐに頭を振り甘い妄想を吹き消す。


あっという間にお昼のピークが過ぎて行き、客の入りも緩やかになってきた頃。

「オムライスのセット二つと、あーっと……ビーフシチューのパンセットお願い」

ぐったりした顔の品田が、オーダー票を厨房に持って来た。

「大丈夫?品田さん。げっそりしてるよ?」

「うん、さすがに疲れた。これ、いつも一人でやってるの?」

「まあね。そろそろアルバイト募集しようか検討中」

そんな会話をしていると、品田の腹の虫が盛大な音を立て空腹を訴えた。

「あはは。お腹空いたよね?何食べたい?」

「オムライス!!」

パッと顔を輝かせ、即答する品田になつみはフフッと笑うと「オッケー」とフライパンを手にした。




このオムライスもそろそろ食べ治めか。

トロリとした半熟卵とソースを纏ったバターライスを頬張りながら、品田はそんな事を考えていた。

先程、男の客を追い出した時に気が付いた事がある。

自分のなつみに対する独占欲。

それは、一線を越えたからなのか。もっと以前からあったものなのか……。
自分が思っているよりずっと、彼女の存在は品田の心に深く食い込んでいた。こうなってしまうと、中々取り除けるものではない事は容易に想像できる。

────まいったなあ……。

品田はソースの付いたスプーンを眺めながら苦笑いした。

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