「え?今から?」

その日の夜。無事営業を終えたリンクスの店じまいをしていると、品田がこれからどこかへ行こうかと提案してきた。

「うん。だって約束したでしょ?」

「約束って……あれはあのお客さんを断る為に……」

そこまで言うと、なつみは少し考えた後、仕方ないなと笑った。

「わかった。支度するから待ってて」

そう言うと、今度は品田が嬉しそうに目尻を下げながら「うんうん」と頷いた。





「で?どこ行くつもりなの?」

外の寒さに首をすくめながらドアに鍵をかける。

「あー……」

「まさか、ノープラン?」

「えへへ……」

目尻に皺を寄せヘラリと笑う品田を、なつみは呆れた顔で見上げた。
まあ、少し神室町を歩こうかということになり二人並んで歩きだした。
二人でこうして歩くのも、最後になるかもしれない。

「結構話せるもんだね」

「え?」

「意識して話せなくなるかと思った」

何の事だろうと考えた品田だったが、「ああ」と笑う。

「エッチしちゃったから?」

「ばっ……大きい声で言わないでっ!!」

「ごめん……」

顔を真っ赤にして、俯いてしまったなつみを見て品田は困ったように頭を掻いた。

「なつみちゃん」

名を呼ばれ、顔を上げると照れ臭そうにポリポリと鼻を掻く品田の横顔があった。

「手……繋ぎたい……」

「…………」

ポソリと遠慮がちに言うと、品田は様子を窺うようにチラリとこちらを見る。
なつみがそっと手を伸ばし、品田の指先に触れると、彼は一瞬驚いた顔をしたが直ぐに嬉しそうに笑いその手をギュッと握り返した。
ゴツゴツとした品田の大きな手は、なつみの手をすっぽりと包み込む。その温もりが妙に嬉しくなり、なつみも顔を綻ばせた。

周りから見たら、歳の離れたカップルにしか見えないだろう。


「あれ?」

暫くそうして歩いていると、品田が急に歩みを止めた。

「どうしたの?」

品田の視線の先を追うと、バッティングセンターの張り紙。

「1ゲーム10球ホームランで「韓来」お食事券?」

「なつみちゃん。今日、焼肉食べたくない?」

「え?挑戦するつもり?」

品田は片方の眉を上げて、悪戯っぽくなつみに笑いかけると「行こう」と繋ぐ手を引っ張った。

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