「うー……寒っ!!」
錦栄町、某公園。
大きな背中を寒そうに丸め、ベンチに腰掛け缶珈琲をすする品田の姿があった。
神室町を出てもう二年の歳月が過ぎていた。
この季節になると、どうしても神室町で過ごした日々を思い出してしまう。
冬の冷たい空気のせいなのか。
ひと肌が恋しくなるこの季節のせいなのか……。
リンクスを出てから、彼女からの連絡は一切無かった。
きっと、黙って家を出て行った自分を怒っているのだろう。
何度か連絡を取ろうともしたのだが、どうにも勇気が出なかった。
電話越しに怒られるのはまだいい。泣かれてしまうのが怖かった。
そんな品田の思いは、日が経つにつれ“もう他に付き合っている男が居るかもしれない”にシフトしていった。こうなってしまっては、いよいよ連絡など出来ない。
一度、マリンから電話が来た。
お別れ会を楽しみにしていたのにと恨み言を言われた。自分の店を持ってからはリンクスには顔を出せないでいるらしく、なつみの近況は聞けず終いだった。
もう二度と彼女に会う事は叶わないのかもしれない。
「リンクスの珈琲…また飲みたいなあ……」
見事に晴れ渡っている青空を仰ぎ、大きなため息をつく。
「なんだあ?いい大人が平日の昼間にいい気なもんだなあ」
不意に背後から声をかけられ、品田が振り向く。
「高杉さん……」
そこには、品田がよく金を借りている闇金融の男が立っていた。
「何ですか?金ならこの間完済した筈ですけど?」
「わかってるよ、んな事は」
高杉は品田の言葉に少し嫌そうな顔をすると、その横に腰掛けた。
「お前、今日取材とか言ってなかったっけ?」
「無しになっちゃいました」
「ん?」
「取材するはずだった女の子、体調不良みたいで……」
「ああ……」
成程ねと小さく言いながら、高杉は煙草に火を点けた。
「……お前さ……」
ふう、と口から煙を吐きながら、高杉は品田を見る。
「以前だったらこんな時も、ツケにしてまで風俗行ってなかったか?別の取材だなんだって理由つけて」
「そうでしたっけ?」
とぼけるような品田に、高杉は怪訝そうに眉をひそめた。
「神室町から帰ってからだよな?お前がそうなったの。よく覚えてるぜ、あん時妙に肌の色つや良くなって帰ってきやがってよお。その割には覇気のねえ顔してたからなあ」
「……」
自分の心情を高杉に見透かされたような気がして、品田は目を伏せた。足元のコンクリートの灰色をじっと見つめる。
高杉の言うとおりだった。
神室町から帰って来て以来、あんなに好きだった風俗に仕事以外で行く気にならなくなってしまっていた。
理由はわかっている。
それまでは、彼女達に普通に感じていた高ぶりや興奮を、感じられなくなってしまっていた。
それどころか、他の女の肌に触れる度に、なつみへの気持ちが募っていってしまう始末で、心中仕事どころではなくなってしまっていた。
あれからもう、二年も経つというのに……。
空を見つめ、思い詰めたような顔の品田を見て高杉は「ま、いいけどよ」と、持っていた煙草を足元に投げ捨て磨きたてのようなピカピカの革靴で踏み消した。
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