カラン……。
ウエルカムベルの音で我に返る。
「あ、すいません。オープンは明日から……」
そこまで言って、なつみは動きを止めた。
暖かった店内に、冷たい空気が入り込む。
冷気が頬をかすめて行くのを感じながら、扉を開けた人物が誰なのか分かり、なつみは息を飲んだ。
そこには大きな身体を折り曲げ、膝に手をつき息を整える男。「ゼェゼェ」と苦しそうに息をしながら、男が顔を上げた。
「はぁ、はぁ。……喉、乾いちゃった。アイスコーヒーいいかな?」
「品田さん……?」
ガタンと音を鳴らし椅子から立ち上がる。
会いたかった人物の突然の訪問に、なつみの頭は真っ白になった。
「あ……あー、いきなり来ちゃってごめん。知り合いにさ、この店の噂聞いていてもたってもいられなく……」
品田が言い終わる前に、なつみはその広い胸に飛び込んでいた。
一瞬驚いた顔をした品田は、戸惑ったように両腕を宙に泳がせる。
「あ、あの。全力で走って来たから、俺今汗凄いよ?」
「会いたかった……」
品田の言葉は構わずに、なつみは品田の背中に両腕をまわす。
背後で、扉が閉まる音がした。
冷たい外気と外の音が遮断され、静かになる店内。
「なつみちゃん……」
それまでどうしていいか分からず、宙を泳がせていた両腕を、品田は優しくなつみの背中に添えた。
「俺も、会いたかった……」
シャンプーの香りだろうか、甘い匂いが品田の鼻をくすぐる。
こうするこ事をどれだけ焦がれただろう。そう思うと、なつみを抱く腕に少し力が入る。
「あの、さ。なつみちゃん……」
「ん?」
「キス……したい……」
緊張のせいか、声がかすれる。
その言葉に、なつみの身体が強ばるのを感じた。
なつみが背中にまわしていた手を、品田の胸元に移動させる。同時にゆっくりと顔を上げた。
品田の大きな手が、なつみの両頬に触れる。外から来たばかりの品田の手はすっかり冷えていて、その冷たさになつみの肩がビクリとすくんだ。
その様子が可愛くて、思わず品田の頬が緩んだ。
そして、そのまま優しく唇を重ねた。
触れるだけの優しいキス。
それだけなのに、さっきから心臓がうるさい。それは、なつみも同じだというのが真っ赤に染まった耳を見ればわかった。
「えーっと……あ、アイスコーヒーだったね。ちょっと待ってて」
なつみは俯きながらそう言うと、小走りでカウンターの中に入る。
「ん……お願い……」
品田は頭を掻くと、カウンターの椅子に腰を掛けた。
「はい、お待たせ」
なつみが品田の前にグラスを置くと、カランと氷が音を立てた。
品田はそれを半分程飲むと、ふうと一息ついた。
「あの……確認するみたいであれなんだけどさ、君が錦栄町に来たのって、俺が居るからって認識で間違い……無いかな?」
自分のカップに熱い珈琲を注ぎながら聞いていたなつみは、サーバーを置くと品田を真っ直ぐ見る。
「うん、そうだよ。品田さんがいるからここに来た」
「そっか……。神室町の店はどうしたの?」
「ああ、あっちは春樹に任せて来たの。あの子、洋食の他に和食も始めてね、これが結構うけてるみたい」
「春樹君が?確かに春樹君のご飯美味しかったもんなあ……」
品田は春樹が作ってくれていた朝食を思い出した。
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