それから一ヶ月あっと言う間だった。
品田が宣伝してくれたようで、そこから口コミで広がり、今では時間帯によっては行列が出来る程になっていた。
流石に一人では大変で、アルバイトも二人雇い、この辺りの飲食店では、人気の店としてこの街では認知されるようになっていた。
「ふぅー、今日もお疲れ様。あとは私がやっておくから上がっていいよ」
今日も一日忙しかった。
既に閉店時間を過ぎていたのでアルバイトを帰し、残った洗い物を洗い終える。
時計を見ると、時計は九時半を回っていた。
明日は店が休みだ。
明日会えるか品田に電話をしようか、少し迷っていた。
というのも、この二ヶ月。品田に会えたのは最初のうちの数える程で、それからは電話を掛けても捕まらない事が多かった。
なつみは携帯を手に取ると、品田の番号をタップした。
暫く呼び出し音が鳴った後、留守番電話サービスに繋がる。
たまに会った時に仕事が忙しいと言っていたが、今も仕事の最中なのだろう。
品田の仕事の内容は知った上で好きになったのだから、仕方が無い。とはいえ、そう簡単に割り切れるものでも無かった。
「うわ……真っ白!!」
目が覚めて、カーテンを開けたら窓の外には真っ白な世界が広がっていた。
もうすぐ春も近いというのに、上空に広がり始めた寒波の影響で、深夜から早朝にかけて雪になるとニュースで言っていたのだが……。まさか、こんなに積もるとは思っていなかった。
雪を踏むと軋むような独特な感触。
なつみはわざと新雪を踏みながら歩いた。少し見慣れて来た錦栄町の景色が、まるで知らない街のようでなつみは少しワクワクしながら歩いた。
この道を、品田と一緒に歩けたら……そんな事を思いながら……。
買い出しを済ませると、なつみは最近覚えた品田の部屋へと向かう。
そこは雑居ビルの屋上のプレハブ小屋で、お世辞にも綺麗とは言えない外観だった。
コンコン。
扉を叩いてみる。
「品田さーん」
声をかけるが反応は無い。留守なのだろうか?何度か繰り返したがやはり何の反応も無い。
なつみは諦めて、最近賄いも食べに来なくなった品田の為の弁当や栄養剤が入ったビニール袋をドアノブに引っ掛けた。
すると、小さな白い粒がヒラヒラと落ちているのに気が付く。
上を見上げると、再び雪がちらつき始めている。首に巻いたマフラーを口元まで覆うように引き上げた。
引き返しながらなつみはふと思った。
────そう言えば、品田さんと付き合おうって話、ちゃんとしてないな……。
恋人関係だと思っていたのは自分だけだったのだろうか……。
そう思うと何だか虚しくなった。
なつみは足を止め、白い息を吐きながら、とめどなく落ちて来る雪を見上げた。
品田の部屋を訪れた後、リンクスで翌日の仕込みをする事にした。
そろそろ日が落ちようとする頃。なつみの携帯に着信があった。
画面を見ると品田からだ。慌てて出ると久し振りに聞く品田の声が聞こえて来た。
「あ、なつみちゃん?」
「品田さん、何か久し振りだね」
「あ、うん、久し振り。ごめんね中々連絡出来なくて」
申し訳なさそうな声。
「今日、俺の部屋来た?ドアに色々入ったビニール袋が掛けてあってさ。もしかしてなつみちゃん来てくれたのかなって……」
「うん。品田さん居ないみたいだったから」
という事は、部屋に帰って来たのだろうか。その事を訊いてみる。
「ああ、記事まとめる為に一旦ね。またすぐ取材に行かなきゃないんだ」
「そうなんだ、忙しそうだね。身体、大丈夫?」
「うん、なんとかね。それでさ、なつみちゃん」
少し言い辛そうに品田は続けた。
「明日、リンクスが終わる頃行っていいかな?」
「あ、うん。いいけど」
「話があるんだ。あ、ヤバい。時間無いからこれで。じゃ、明日ね。今日はありがとう」
「えっ?ちょ、品田さん?」
呼びかけた時には、既に通話は切れていた。
「話があるって……」
品田の改まった様子から、何か大事な話であるのは間違い無さそうだ。
────やっぱり、私とは付き合えない……とか?
今の二人の状況を考えると、ネガティブな想像しか出来ない。
この日は、モヤモヤした気分で一日が終わった。
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