「お疲れ様でした」
「お疲れ様、気を付けて帰ってね」
翌日、閉店の時間通りに店が終わり、アルバイトを見送りがてら外にある看板を店内にしまおうとしていると、若い男二人が店の前で立ち止まった。
「あ、すいません。もうお店終わっちゃったんです」
なつみが言うと、男達は「えー……」と言った後、金髪の男がジロジロとなつみを無遠慮に見た。
「じゃあ、これから一緒に飲みにいかん?俺らが奢るで」
時間帯もあり、二人とも結構酒が入っている様子だ。
「いえ、まだやる事があるので……」
嫌な感じがしたので、面倒になる前に店内に入ろうとしたのだが、なつみよりも早くもう一人の黒髪の男がドアの前に立ち、それを阻止された。
「ほんなの後にして、付き合ってよ」
「あの、困ります」
「“困ります”やって、可愛ええやん」
ほんとうに困った。見た目が少し質が悪そうな若者だし、変な事を言って逆上されても困る。恐怖を感じているのもあり、無言でどうしようか考えていると、金髪の男の手がなつみの肩に触れた。
「なあ、行こうや」
グイとその手に力が入る。
「止めて下さい。そこ、どいてもらえますか?」
「そうそう、どいてもらえる?」
不意に品田の声がした。
「ああ?……し、品田さんっ!?」
なつみがなつみを呼ぶ前に、二人の男が驚いたようにそのなつみを口にした。
「おいおい、困るなあ。この子が嫌がる事されちゃあ」
「え、この人、品田さんの知り合いやったんですか?」
どうやら、この二人と品田は知り合いだったらしい。突然の品田の登場に、なつみはホッと胸を撫で下ろした。
「そう、今から彼女と大事な話があるからさ、今日は帰ってもらっていいかな?」
「そうと知らんと、すいません。品田さん、今度、良い店紹介して下さい。ほんじゃあ」
品田は立ち去る男達に「おう」と手を上げた後なつみを見た。
「大丈夫だった?いや、悪いやつらじゃ無いんだけどさ。ごめんね」
「ううん、平気。寒いでしょ?中に入って?」
「あ、う、うん……」
急に品田が緊張しだしたので、それがなつみにも伝染してしまう。
「あ、ええと……どうぞ」
ドアを開け、先に品田を店内に通す。
熱い珈琲を淹れようと、カウンターへと向かうなつみを、品田は突然後ろから抱きしめた。
「わっ……し、品田さん!?どうしたの?」
「ああ、なつみちゃんだ……」
耳元で品田の息遣いが聞こえる。
「会いたかった……」
「…………」
「今日は君に渡したい物があって来たんだ」
そう言うと、品田はなつみの身体を反転させ自分に向けさせた。そして、向かい合ったままその場にひざまずく。
「ど、どうしたの?」
いきなり外国人のように、目の前でひざまずかれ、なつみは狼狽える。
そんななつみをよそに、品田は革のジャンのポケットから、ゴソゴソと何かを取り出しなつみへ掲げるように差し出した。
それは小さなジュエリーボックスだった。
まさか……となつみは思った。
「俺と、結婚を前提に付き合って下さい」
唖然とするなつみが、無言のままなのに、品田は不安そうに顔を覗き込む。
「駄目……かな?」
「ううん。いきなりでびっくりしちゃって……嬉しい」
「じゃ、OKって事?」
なつみが頷くと、品田は「やった」と小さくガッツポーズをつくった。
立ち上がり、なつみの左手をとる。
品田の太い無骨な指が、なつみの薬指へ指輪をはめていく。品田の手が、緊張のせいか、少し震えているのに気付いた。
「ありがとう。高かったんじゃない?」
なつみは視線を指輪から品田の顔に移す。
「いや、俺にとってはね。編集長に頼んで仕事増やしてもらって、工事現場でアルバイトしてやっと買ったんだ。ほんとは、もっといい指輪プレゼントしたかったんだけど」
「ううん、いいの。品田さんの気持ちが嬉しいの」
それでずっと連絡がつかなかったのか……。なつみは妙に納得した。
「今日、なつみちゃんの部屋行きたい……」
「うん、いいよ」
頷くと、品田は優しくなつみを抱き締めた。
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