「どんな人間かも分からない奴なのにさ」

「まあね。……でも、品田さんは大丈夫だと思うんだ」

「根拠は?」

「うーん。女の勘?」

「全くあてにならないな。……そろそろ時間だろ?後は俺がやっとくから、姉ちゃんはもう行けよ」

「うん、じゃ後よろしく」

なつみはエプロンを脱ぐと、テーブルに置いた。





風呂から上がり、濡れた頭をタオルで拭きながら自室に戻ると、ベッドの上に洗濯された自分の衣類が綺麗に畳まれて置かれていた。

品田は、ベッドの上にダイブしてみた。洗濯物のいい匂いがふわりと香る。

「うーん……いいなぁ、こういうの」

三食ちゃんとしたご飯が食卓に並び、洗濯物もいつの間にかされている。長く一人暮らしをしている品田は、この至れり尽くせりの状況になんとも言えない幸福感を感じていた。

妻や、恋人が居ればこれが普通になるのだろうか?

下の階の、食器を洗う生活音がやけに心地よく聞こえる。


「借金かあ……」

昼間、笹山達から聞いた事を思い出していた。何とかしてあげたいのは山々だが、如何せん金の事に関しては全く役に立てそうもない。

「…………」

暫く何かを考えていたが、いい案が浮かばなかったのかガバリと上体を起こし頭をガシガシと掻くと、煙草を手に取り窓を開けた。冷えた外気が部屋の中に入り込む。

カンカンと外の階段を降りる音がした。品田が窓から顔を出すと、なつみが階段を降り切ったところだった。そして、そのまま建物の向こう側に消えて行った。

夜はキャバクラで働いているとも聞いていた。きっと出勤の時間なのだろう。

品田は複雑な表情で、なつみが行ってしまった先を見ていた。





翌朝、品田が一階に下りると春樹が朝食の準備をしていた。

「ふぁー……おはよう……」

「……おはよう」

あくびのせいで涙が出た目をこする品田を、春樹は一瞥するとぶっきら棒に挨拶する。

「あれ?なつみちゃんは?」

「寝てる。俺が休みの日は、開店準備俺がすることになってるから」

「ふーん、え?これもしかして鰤大根っ!?」

品田はテーブルの上に並ぶ食器の一つを覗き込み、目を輝かせた。

「昨日、魚屋の大将が余りものだって鰤のアラ持ってきたんだよ」

トンと大盛りのご飯茶碗を品田の前に置きながら言った。

「いただきます」と言うと、大根を口の中に放り込んだ。

「んーっ!!美味いっ!!これも春樹君が?」

「まあね」

「和食、得意なんだねぇ」

「……俺、将来は料理人になりたいんだ」

ボソリと呟く春樹に、品田は箸を止め彼を見た。

「高校卒業したら、和食の店で修業していずれは自分の店持ちたいんだ」

「へぇ……」

感心したように言うと、もう一度大根を頬張る。

「うん、きっと春樹君ならいい料理人になれると思うよ」

「……適当に言ってるだろ?」

「酷いなあ。俺、こんなに美味い鰤大根食ったの初めてだったのに」

「……そいつはどうも」

そんな話をしていると、なつみが眠そうな顔で階段を下りてきた。

「ふあぁぁ、おはよう。……あれ?春樹なんか顔赤くない?」

熱でもあるのかと心配するなつみに「何でもねぇよ。ご馳走様」と言うと、春樹はそそくさと自分の食器を片づけ始めた。

「あはは。君の弟君は可愛いねぇ」

「……?」

そう言って笑う品田に、なつみは首を傾げるしか無かった。

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