彼が死んだ。


穏やかで真摯で、とてもまっすぐな人だった。
懸命で謙虚で、とても愛され慕われていた人だった。

突然の訃報に多くの国民が驚き、嘆き、涙した。
突発性の病だったのだという。部屋で倒れていたところを発見され、すでに手遅れだったのだと。

本来ならば立派な葬儀が執り行われて然るべきであろうに、病が他者に伝染する恐れがあるとして国をあげての式はなかった。
その恐れと立場があるとはいえ、最期の別れもさせてくれない国に皆は憤慨した。一部では暴動すら起きかねない勢いまであった。死者が望まないだろうとさすがに自粛されたが。

鎮魂の鐘が鳴り響く中、ただただ黙祷を捧げた。
示し合わせたわけでもなく、皆は一様に手を止め足を止め、頭を垂れて。

彼を失って世界は劇的に変わるかと思われた。
しかしそれは主観での予測でしかなかったのか、彼を敬愛していた幾人かがこれまでと道を違えることになっただけで、日々はまるで何事もなかったかのように続いていった。時間は淡々と流れ毎日を繰り返す、平常に、無情に。

私もまた、止まることない時の流れに飲み込まれる。彼を、忘れることはないけれど――。





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