麗かな日差しの下、侍女たちが真白のシーツ類を洗濯しては干していく。青空に深緑と白が鮮やかに映える。

口を開けば噂話が誰からともつかず溢れ出てくるが、さすがに屋外とあっては人目も耳も気にしてか音量は控えめだ。
それでも時折興奮したように黄色い声が上がるので、少年は興味を引かれて顔を覗かせた。

「こんにちはっ」

唐突に声をかけたせいだろうか、驚いた彼女たちは手にしていたものを取り落とした。洗いたてのシーツが風を受けながら落下する。

「ごめんなさい、びっくりさせちゃった?」

無邪気に笑って少年がシーツを拾い上げようとすると、侍女は慌てて奪うかの勢いでもって回収する。

「レムルオ王子殿下」
「お洗濯ご苦労さま。邪魔するつもりじゃなかったんだけど、楽しそうだったからお話に交ぜて欲しいなって」

少年、このブリューエルの第三王子であるレムルオはまだ幼く人懐こい笑顔で小首を傾げた。
対する侍女たちは恐縮して頭を左右へ振ってみせる。

「王子殿下の楽しまれますようなことは何も」
「ええ何も」
「わたくしたち手は動かしていても口寂しかったものですから」
「お恥ずかしいことでございますわ」

かしこまりながらも口々に忙しく捲し立てるものだから、レムルオは思わず吹き出した。

「みんな働き者なんだね」

彼は楽しいことが好きであったし、彼女たちが懸命に働いていることも知っていたので、レムルオにとっては笑いこそすれ叱りつけるつもりなど毛頭ないことだった。

それでも侍女たちにしてみれば身分の違う相手、それも国を治める王の子だ。無邪気な子供にも恐れるように縮こまる。

と、レムルオが何かに気づき大きく手を振った。
つられて視線を転じた侍女たちはそちらを見るなり焦りをあらわに汚れたシーツを後ろ手に隠し、腰を折り深々と頭を下げてみせた。

「アンナに見つかっちゃったから僕もう行かなきゃ」

回廊からまっすぐとこちらを見ているのは、レムルオのとてもよく知る顔だ。
その場を離れ駆けて行けば、ブロンドの髪を綺麗に結い上げたドレス姿の少女がため息を落とした。

「王子、またお勉強を抜け出して。皆は忙しいのですから邪魔をしてはなりませんといつも申し上げているでしょう?」
「ごめんなさーい」

レムルオと身長の変わらない彼女は、しかし彼よりいくつか年上で、王家の親戚筋にあたる公爵家の令嬢ながら働き者であるためレムルオの目付け役を任されている。
今もまた自身の公務の空き時間を利用し、部屋に様子を窺いに行ったところだったのだろう。

「皆が許してくれたからといって甘えていてはいけません。ご自分のお立場を自覚なさってください」

甘やかされて育った第三王子を諭すのは、決まって彼女の役目だった。幼い頃より城に出入りし年下の面倒を見ていた彼女にとってそれは自然なことなのかもしれない。

叱られても何処吹く風とばかりに笑みのまま小首を傾げるレムルオに、みんな諦め気分で苦笑してしまうことも多いが、この日のアンナは眉を下げてレムルオを見つめた。

「レムルオ王子、お客様がお見えです」






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