「怪盗Gさんっじょー!」

そこでは子供たちの一人が椅子の上に立ちポーズをキメていた。
本人が面していたテーブルを見れば食事は片付いていたが、

「こらフレド! 今は食事の時間でしょう!」
「シャーロッ、うわっ」

アルフレドは驚いて体勢を崩し、椅子から落ちて尻餅をついた。

「フレドは食べ終わってるみたいだけど、まだの子もいるでしょう。そういうことはあとで外に出ておやりなさい」
「だからやめとけって言ったのに」
「ホントだよ行儀悪い」
「なんだよー、みんなしてっ」

床にあぐらをかいてふて腐れるアルフレドはそっぽを向く。その肩を叩く小さな手はエリザベスだ。

「フレドがバカなのはいつもなのにね」
「……慰めてくれんじゃねーのかよ」

小首を傾げる愛らしい仕草にとどめを刺され、アルフレドは叩かれている肩を落とした。

「元気がいいのはフレドの長所だから落ち込むことはないよ」
「じいちゃん」
「場所や時間、状況をちゃんと見分けないといけないけれど」

穏やかにやわらかな声音で神父に諭され、アルフレドは唇を尖らせながらも頷く。
神父は節くれだった大きな手で赤毛に覆われた頭を撫でた。

「怪盗ごっこはシャーロットの言う通りあとでするんだよ」
「違うよじいちゃん、怪盗ごっこじゃなくて怪盗G!」
「こだわるなあ」
「だってGは正義の怪盗なんだ!」

力いっぱい言い切る様子に神父もシャーロットも苦笑するしかない。
怪盗Gとは世間で話題の怪盗、大怪盗とまで呼ばれている人物だ。

確かに悪い噂の流れる富豪や機関から盗みを働き善人からは盗らないと聞くが……
怪盗は怪盗、犯罪は犯罪。神に仕える神父に力説することではない。

「フレドはGに憧れているのかな?」
「オレだけじゃないって! ケヴィンとかリズとかだって――」
「アタシ犯罪者になりたいわけじゃないもん」
「そうだよフレド、何勝手なこと言ってんの。ボクらは勧善懲悪を」
「は? ケヴィンこそ何言ってっかわっかんねーし」

結局いつもどんな会話でも、たいていが何人かの他愛ない言い争いで終わる。内容なんてうやむやになってしまうのだ。
今回もまた、当たり前のように。

「リズはまだニンジンが残っているようだけど」
「あっ」
「好き嫌いは?」
「……しちゃいけません」

神父は子供たちがシャーロットに懐いていると言うが、やはり窘め諭し導くのは神父の方だ。
椅子に座りなおし皿の上を彩るそれとにらめっこを始めたエリザベスに、少年たちの言い合う声も止まっていた。
 
穏やかににぎやかな日々。
これが今のシャーロットの何気ない日常なのだ。

慌ただしくもあるが、充実している。子供たちと神父に囲まれて。

昔は思いもしなかった、想像なんてできるはずもなかった、そんな未来がここにある。

大切なひとたちに囲まれて。

いつまでも続きますようにと願うのは、神への祈りか、自分への誓いか。

「みんないい子ね」

孤児院に笑い声は絶えず、今日も平和な時間を刻む。ゆっくりと、ゆっくりと。

いつの日かすべてが崩れ去ってしまうことなど夢にも思わず、
カウントダウンが始まってしまっているなど知るよしもなく、

そこはひとときだけの小さな楽園だった――。





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