孤児院から教会へ。
距離はほんの数メートル。子供たちが外にいないとさすがにとても静かだ。
青空に映える白壁に取り付けられた勝手口を押し開け、裏手から中へと踏み込む。外の明るさが忍び込むがそれでもここは少し薄暗い。
整理されながらも積まれた物を避けながら進めば、表の聖堂へと通じる。
「――……だそうだ」
邪魔になってはいけないとそっと覗いてみれば、やはりそこには神父と新聞配達の少年ウィルの二人だけがいるようだった。
「そうか……」
「どうする?」
「まあ待て。時間までまだある」
会話の内容はわからないが、近づくほどに明瞭になる声。
一段落しただろうか、その声が途切れた隙に顔を見せる。すると神父が振り向いて笑み、ハンチング帽を頭から取った少年が会釈する。
「こんにちは、シャーロットさん」
「こんにちは。邪魔してしまってごめんなさい、大丈夫ですか?」
「ああ、食事かな?」
「はい、神父さまもそろそろいかがかと。よかったらウィルもどう?」
中肉中背といった体型の少年はおとなびた表情をしていて、ちょくちょく教会に足を運んでいるためにすでに顔見知りだ。
「ありがとう。でも俺はいいよ、すぐまた仕事があるから戻らなきゃ」
帽子をかぶり直し、ウィルは首を左右に振る。
「そう言っていつも断るんだから。あなたが来てることみんな知ってるのよ、ガッカリしちゃうわ」
「謝っておいて。またそのうちご馳走になるからって」
ウィルは苦笑して「それじゃあ神父さま、失礼します」と頭を下げ、二人に背を向けた。
隣を見れば神父はシャーロットの肩を叩いた。さあ食べに行こうかとブルーグレイの瞳が促す。
「神父さまは慕われていますね」
「ウィルのこと?」
「みんなです。みーんな」
小走りで扉から出ていく後ろ姿を二人で見送りながら、シャーロットは微笑んだ。
例えばウィルが来ている時、例えば子供たちが不思議と寝付けない夜、神父が出張に出ている時も、時折何か秘密めいた空気を感じて寂しくなることもある。
それでも彼を慕う。子供たちと同じに。親のようにとはいかないが、肉親よりも家族なのだ、ここにいるみんなが。
神父のもとへ誰かが訪れていると唐突にもそんなことを思う。
「さあ食事にしましょうか」
「みんなはもう食べ終わってしまっただろうか」
「早くしないとフレドやカミュが私たちの分も食べてしまうかも」
「ヴィスやケヴィンがいるからそれは大丈夫」
「ふふっ、信じてらっしゃるんですね」
「あの二人はわたしより君に懐いているけどね、他の子もそうだが」
「そんなことありませんよ」
あの日出逢った幼い兄弟。ヴィンセントとケヴィン。
彼らに出逢った、そのたった一つの出来事が、シャーロットの現在に繋がっている。
たくさんの子供たちに囲まれているのは以前の教職から変わらないが、ただ無機質に日々を過ごしていたのと今とでは全然違う。
「美味しそうな匂いがしてきた」
「みんなちゃんと食べてるかしら」
話していれば一人の行きよりさらにあっという間。辿り着いたドアを二人は開く。
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