02

気配を追っていけば男の声が数人。手負いなのか、息が荒い。
5つの気配のうち、何人同士で戦っているのか確認すれば十分だろうと思っていた。
追いつく直前、目の前を走る利吉が止まれと合図を出す


「…あれは、」
彼の瞳は見開かれまさか、とでも言っている表情をしている。

4つの影は深緑色の忍装束を身に纏いクナイや忍刀を構えている
そして、その4人と対峙しているのは1人の大男。

「…忍術学園の6年生だ」
「忍術学園学園?優秀な忍がいるとは聞いていたが…いや、それより相手の男の様子がおかしい」

雪は目の前の状況から4人が1人に押されている事や、利吉が忍術学園の6年生を目にした時の今までに見た事のない同様を感じ取っていた。
「……知り合いか?」
雪が視線はそのままにしながら懐に手を入れて何かを取り出す
「…まぁちょっとね」
利吉も背負っていた忍刀を手にして鞘から静かに刀剣を抜く

深緑色の忍装束を着た4人は連携しながら大男の攻撃をかわしながら足元に罠を張っているが、大男の力がそれを上回ってしまい足止めになっていない。

負傷した1人が片膝をついた瞬間、大男が振り上げた刀の腕に向かって利吉が忍刀を投げつけた

クナイを投げなかったのは、利吉が相手が負傷して動けなくなり、なおかつ撤退を決める程の怪我を負わせようとしたからだ
雪が利吉が刀を投げた瞬間横を見たが既に姿は消えており片膝をついた忍者を抱えて大きく飛び退いたのが見えた。



「(…今のは正直私でも見えなかった)」

雪が背筋がゾクッと震えるような感覚を覚えた。本気の奴の実力は、私が思っている以上に高いのだと思ってしまう程に


利吉が投げた忍刀は鋭く空を切り、大男の振り上げた腕を貫通するように刺さる

その瞬間、血飛沫と断末魔を上げながら大男が暴れ出す


利吉がその様子を見ながら自分が助けた忍に声を掛ける
「…大丈夫か、食満留三郎くん」
「り、利吉さん…?!なんでこんな所に」
戸惑う留三郎に駆け寄る3人も同様に利吉の名前を呼んで困惑した表情を浮かべる。
「ちょっとこの近くで仕事中でね。怪我はないかい?善法寺伊作君、立花仙蔵君、潮江文次郎君」
3人は所々から切り傷が見えるがどれも致命傷や大怪我ではなさそうだ

「さて、この状況…どうやって切り抜けよう」
「一通りの足元への攻撃、罠、煙玉による錯乱は行いましたが、どれも効果がありませんでした」
そう言ってこれまでの状況を説明する仙蔵に、利吉はそうか。と一言返す。

「…そうなると、1人が足止めで残るしかない。私が間を稼ぐから君たちは急いで学園に帰るんだ。」
利吉がクナイを構えて4人にそう告げた瞬間、頭上から声が聞が降ってくるのと同時に小さな悲鳴が聞こえたが、この際気にはしない。

「あの男、多分痛みを感じてない。やるだけ無駄よ」

雪は音もなく利吉の前に着地すれば口元を布で隠して視線を大男に向ける


大男は痛みというよりも腕が自由に動かせない事に苛立っているようにも見える

「…手元に催眠効果がのある香がある。奴は私に任せてほしい。」

「危険すぎる。せめて私と君の2人でやらねば無理だ」

「利吉さん、この者は」
クナイを構える仙蔵と雪の登場に腰を抜かした伊作に門次郎が手を貸して引き起こす。

「…敵ではないよ」
「でも味方でもない」
雪は利吉の言葉にピシャリと言い返す。


「…その4人がこの領地から無事に抜け出せるにはお前の殿(しんがり)が必要だ。私はこの領地を支配する城主から雇われている以上、敵の侵入をこれ以上手助けする訳にはいかない」

「……勝算は」
利吉が低い声で雪に聞く
「……忍者が勝算なんて考える訳ない。生きてればまた会える。それだけだ。」

雪はその瞬間、煙玉を使い「行け!」と声を上げる

その声に利吉は舌打ちして4人に声を掛けてその場から走って遠ざかる


「(くそっ、話は終わってないっていうのに)」

利吉は雪の強行なやり方にイラつきながらも六年生4人の殿をしながら忍術学園に向かう

忍術学園には昼には到着するだろう。
学園に4人を送り届けたら戻ろうかとも考えたが、学園長がこの領地に6年生を送り込んだ理由も聞き出し、あの大男の情報を調べてから雪を探そうと考えながら走る速度をあげた