ビー玉と盛夏
青空にかざした空色のビー玉は、夏の光を吸い込んでこれでもかときらめいている。
綺麗だなぁと見惚れていると、ビー玉越しに誰かが私を覗き込む。
それは見知った顔で、同じクラスで、私の密かな想い人。
「何してるの?」
私はビー玉を翳していた手を下ろして、瞑っていた片目を開いて彼を見つめる。
「ラムネを私の部活の顧問の先生からいただいて、ついさっき飲み終えてビー玉を取り出したんです。」
「なるほどね」
「まだあと一本開けてないから、不二くんどうですか」
「ありがとう、頂くよ。」
そう言って不二くんは私の隣に腰掛ける。
プラスチックの鄙びたベンチが少し軋む。
私はビニール袋からラムネ瓶を取り出し、彼に手渡す。
受け取った彼は冷たいと呟いて、手際良くラムネの蓋を開けた。
数回口に運んだ後、
「今日は本当に綺麗な青空だ」
そう言って彼は普段の微笑みを崩さず空を見上げる。
優しく夏の香りを孕んだ風が吹き抜け、彼の髪を揺らした。
ほんのりと香る不二くんの香りに、私は蕩ける。
「ほんとですね。それに応えるように、うだるような暑さですけど…」
くすりと、笑い声が隣で聞こえた。
「夏はいいね」
彼は呟く。
「そうですか?」
そう訊き返すと、彼は空を見上げていた目を開いて、青空をその目に映した。
「例えば、セミの合唱とか夏ならではだし、青空にいつまでも残る一筋の飛行機雲とか、一面の向日葵畑は写真に撮りたくなるよ。あぁ、ラムネもそうだね。夏に飲むのが一番だ」
「それには同意です。しっかりと冷やしたラムネを炎天下で呷る瞬間はなんとも言えないって思います。」
そう言って握り込んでいたビー玉を指先で弄ぶ。
2人の間に言葉はなく、ただ、彼がラムネを呑む音だけが耳に残る。
抜けるような青空はまるで彼のようで、いつまでもいつまでも見上げていたい。そんな気がした。
「でもやっぱり、何より君とこうして、ラムネを飲めたから、夏はいいよ。」
その言葉に全ての動きが止まる。
聞き間違えのような気がしてならない。聞き返したいけれど当の本人は残り少なくなったラムネ瓶を勢いよく呷って聞き返せる雰囲気ではない。
困ったことになった。
私の耳が都合よく聞き取ったとしか思えない。
そんな私の思考の暴走を他所に、彼はベンチに先程まで呷っていた瓶を置いた。
見遣った瓶は既に空で、中で透明なビー玉が置いたとき伝わった衝撃の余韻で微かに揺れている。
「御馳走様。」
そう言って不二くんは立ち上がり、私の掌から何故か空色のビー玉を拐い、片目を瞑ってビー玉越しに私を見下ろして不敵に笑う。
大人びた彼がする、年相応の遊びについ笑みが漏れる。
それを見届けたのか、ポケットにビー玉をしまいコートへと戻っていく。
その姿は広く高く広がる青空より輝いて見えた。
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