四話


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「……うっ」
 倦怠感と共に腹部に云い知れぬ痛みが走る。不定期にやってくる痛みの正体は当の昔に諒解している。
 異能の副作用だ。
 異能をある一定数、若しくは、一定量使うとこの症状が表れる。ただ、その基準は未だ分かっていない。治し方も分からない。
 異能という人知を超えた力によって起こされている現象だが、胃薬を呑んで気を紛らわせるしか方法がない。運悪くここには一息つくような場所がなく、薬を丁度切らしていた。それに加えて生理。後回しにするんじゃなかった。
 倦怠感のせいか痛みのせいか、気が遠くなりそうなのをなんとか堪える。痛みがいなくなるのを待つことしかできない。立っていることすら難しくなり、壁に背を預けて滑らすようにしてお腹を抱えその場に座りこんだ。周囲の眼だ何だ機にしてられない。この道は人通りが少ないから多分大丈夫。
 遠くから足音。その音は徐々に大きくなっていく。
「おい、大丈夫ですか?」
 ぼんやりとした視界に映ったのは黒っぽい服を着た人。応答する声が出ず、代わりに出たのは肺に溜まっていた空気。空気が抜けたことで張りつめていた意識が消えた。瞼が下り、気が遠くなっていくように感じた。
 遠くで黒い人が呼び掛けているがどうしようもない。抗うこと無く私は気を失った。



 目が覚めると体が横になっていた。
 何が起きているのか分からなかったが、痛みに苦しんでいたことを思い出して体を起こした。痛みはもうない。
「目が覚めたようですね」
「あ、えっと?」
「急に倒れたので失礼ながら私の家に運ばさせていただきました」
「ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございません」
 目の前の小柄な男性はそれなりに礼儀正しく話してくれた。太宰もこれくらいだと可愛げがあるのに。
 小柄、と云っても私よりは少し高く、襟衣の袖から見える腕は逞しい。橙色の髪に、澄んだ青色の瞳。高級そうな
スーツを身に纏い、手にはタオル。ちぐはぐなところはあるが、最初から彼の一部であったのかのようだ。
 彼はタオルを私の額に置き、「お粥を持ってきますので少し待っていてください」とこの場から去っていった。
 見ず知らずの人間をここまで介抱できるなんて、懐が宇宙のように寛大でなければできない。あのとき、周囲には他に人がいなかったから何もせず立ち去るという選択肢もあったはずだ。にも拘らず助けていただいた。感謝してもしきれない。



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