三話


しおりを挟む


 金属の鈍く少し高い音が鳴り響いている。
 中々止めてもらえない目覚まし時計がけたたましく存在を主張する。ようやく布団から腕を出し目覚まし時計を止めた。
 時刻は六時二分。許容範囲内だ。
 毛布を羽織り、いつもの組服スーツとワイシャツをハンガーからおろす。
 温かさが逃げないうちに素早く着替える。着るものが冷えているのだから無意味なような気もするが気持ちの問題である。
 朝食は着替えてから摂っている。組服スーツに染みがつく心配はあるが、朝食を食べた後はのんびり準備がしたい。今迄失態は犯したことはないため高を括っていると云われたらそこまでなのだが。
 何となく点けた電視機テレビの画面にはいつもと変わらないきれいなアナウンサーが今日の天気予報を話している。週間天気を見るとここ一週間は曇りと雨しかないらしい。
 窓の外を見れば予報は当たっていて曇り空が広がっている。そういえば賢治君も云っていたかもしれない。賢治君が云っていたのだから間違いはないだろう。
「こういう天気の日は何で気乗りしないんだろう」
 何となく袋を開けて咥えていたストローを噛んでいると呼鈴チャイムが鳴った。ストローから口を離し重い腰を上げた。覗き穴から見えるのは与謝野先生の姿。朝からどうしたんだろうか。
 ドアを開けるや否や、「此れは何だい?!」と薄い紙が眼前に示される。そんなに近いと何かが在ることしか判らない。
 その紙を受け取って書かれている文字を読むと、すごく高い訳ではないがそこそこの金額が示されている。
「如何したんですか、この請求書」
「朝郵便受を見たら其れが入っていたんだよ」
 「なんだい。太宰は居ないのかい」と与謝野先生は部屋の中を覗く。部屋の掃除をする前の状態だから見てほしくない。ストローの袋を捨てないで机の上に置きっぱなしにしていたことを思い出した。時機タイミングが悪い。
 与謝野先生は気づいていない振りをしているのか、将又本当に気付いていないのか、どうでも良いのか。与謝野先生は太宰が居ないことを確認すると「邪魔したね」と帰っていった。
 再び一人になった部屋に、電源を切られていない電視機テレビの音が響く。今週いっぱいは曇りと雨であることを思い出し少しだけ憂鬱になる。社員寮から探偵社までは徒歩で通える距離だが傘がいらない距離ではない。
 つい先日色々あって予備の傘すら壊してしまったから通勤路にあるコンビニで傘を買って行こう。
 窓の外に広がる灰青色の曇天に顔が顰めった。部屋の隅に立てかけた鞄を右手で取り忘れ物がないか確認する。いつもより早い時間だがコンビニに寄ることを考えれば少し遅かったかもしれない。
 朝食──サンドイッチを左手で掴み、一口食べた。今日は中々良い出来。
 ドアを開けた先にある空に見ない振りをして小走りでコンビニへ向かった。


3




TOP表紙目次