砂の夜
●●●が木の葉から砂に来て数年が経った。
砂の国の気候にもだいぶ慣れて来たが、やはり夜は冷える。
●●●は厚手のマントに深く顔を埋める。
砂の国の医療忍術は●●●にとって真新しいものばかりだった。
●●●は医療忍術の実験、開発をしている師のところからの帰り道を急いでいた。
道中美味しそうな匂いのする出店屋台の誘惑に負けて熱々の砂肝を買った。
「どうも!またごひいきに」
出店の明るいおばちゃんが元気をくれる。
砂肝が冷めないうちに帰ろうと、●●●の足が速くなる。
曲がり角を曲がると街灯の下に顔を伏せてうずくまる赤髪の少年が見えた。
●●●は思わず足を止める。
その少年は鼻をすすりながら肩を震わせている
泣いているようだ。
周りに人もいないし空も暗い。
小さな少年をほっとけなかった。
●●●はゆっくり少年に近づいていく。
「ねえ、大丈夫?」
少年の肩がピクリと反応する。
けれど少年は返事もしないし顔も上げない。
「こんな所居たら寒いし風邪ひいちゃうよ」
「………………」
少年からずずず、と鼻をすする音がする。
●●●は泣いてるんじゃなくて寒いのかなと思い、自分の着ていたマントを少年の肩にかけてやる。
何をされたのか確認するように少年は顔を上げた。
すこし驚いているように見える。
その顔を見て、やけに濃いクマがあるなと●●●は思う。
●●●は少年の隣に座る。
「ねえ、お家帰らないの?」
「……………」
「……そのマントあったかいでしょう?」
少年が遠慮がちにコクンと頷いた。
「あ、そうだ。ねえ君砂肝好き?」
●●●は、袋から先ほど買ったばかりの砂肝を取り出した。
まだ十分温かい。
パックをあけて、中に入っていた爪楊枝で砂肝を一つ刺し少年の口元に運ぶ。
「食べてみて」
●●●はニッコリ笑った。
少年は砂肝を見つめてから首を横に振った。
「砂肝嫌い?」
また少年は首を横に降る。
●●●は我慢ならず、砂肝を一つ口に入れた。
コリコリと美味しい!
味付けも申し分ない。
おばちゃんありがとう!
そんなことを考えながら砂肝を噛み締めている●●●を、少年はじっと見つめていた。
その視線に気付いた●●●は、自分の口に運ぶ予定だった砂肝を少年に差し出した。
「すっごく美味しいよ、食べてみて」
少年は差し出された砂肝と●●●を交互に見たあとに あ、と口を開いた。
「あーん」
●●●は少年の口に砂肝を入れる。
少年の口からコリコリと可愛い音がなる。
そしてゴクリ、と飲み込んだ。
「……どう?美味しかった?」
●●●はもう一つどう?とまた少年の口元に砂肝を近づける。
少年はまた口を開けてくれた。
1人分の砂肝はあっという間になくなった。
「美味しかったね」
「……うん」
お、喋ってくれた!
●●●は嬉しくなった。
先ほどより夜が深くなってきてさらに冷え込んできた。
●●●は腕を抱えて肌を擦る。
「そろそろ帰ろうか?」
少年はすこし考え込んで、コクンと頷いた。
立ち上がった少年は●●●にマントを返そうとする。
「寒いから、もっとしっかり着なくちゃ」
●●●は返された自分のマントを少年にくるくる巻きつける。
サイズが大きくてすこし裾を引きずっているが暖かそうだ。
「お家はどこ?」
少年は何も言わずに黙っている。
どうしよう…
私の家に連れて帰る?
でも親御さん探しているだろうし…などと、う〜んと唸りながら考えていたとき…
「我愛羅様!」
●●●は、声がした方を振り返った。
そこには1人の男性の姿。
息を切らしながら、●●●と少年を見つめていた。
「…我愛羅様、急にいなくならないで下さい」
「………ごめん、夜叉丸」
男性は少年の親だろうか。
息を切らして息子を探していたんだな。
●●●は自分の親が生きていたら………と考えかけたがすぐやめた。
「では、私はこれで」
●●●は少年に笑顔で手を振る。
少年が振り返してくれたのを見て自宅へと走る。
寒い寒い寒い!
少年は●●●の姿が見えなくなるまでずっと●●●を見つめていた。
「我愛羅様、あの方は?」
「……知らない」
我愛羅の記憶に、●●●の深い髪色と笑顔が色濃く残る。
自分の体を温める大きめのマントの裾をぎゅっと握った。
20180307