薬箱と桜餅
「カカシ先生、今日はいつにも増して遅いってばよ!」
「ホントよねぇ……まったく!いつも何やってんのかしら」
「…………フン」
「わ、わ、わわ!」
いつもより1つ多い声に3人は一斉に声のする方を向く。
そこには重そうな木製の箱を持った●●●がいた。
フラフラしており、今にも倒れてしまいそうだ。
「おい!姉ちゃん!?大丈夫か?」
金髪の少年が思わず駆け寄る。
どこかで見たようなつんつんの金髪だ。
「だ、大丈夫!」
●●●はなんとか堪えて態勢を立て直したのもつかの間、箱ごとよろけてドシンと尻もちをついた。
いてて、と自分のお尻をさする。
お尻は痛むがゆっくりはしてられない。
早くこの場から立ち去らないと…。
落としてしまった重い箱に手を伸ばす。
「なあなあ!姉ちゃん!その箱どーすんだ?」
「えっ……と、そこの角のアパートに運んでるの」
「それなら俺が任務前の準備運動がてら運んでやるってばよ!」
ポカンとしている●●●を無視して金髪の少年は荷物をひょいと持ち上げた。
「ちょっと、ナルトォ!カカシ先生来ちゃうわよ!」
「カカシ先生がくる前に戻って来るってばよ!」
さっきからずっとこの子たちはカカシ先生と呼んでる。
私の知ってるカカシの事だろうか…。
この子たちのそばを通ったとき、カカシって名前が聞こえて思わずバランスを崩してしまった。
この子たちはカカシ先生を待っているようだから、もしそのカカシならここに居たら会ってしまう。
会うのが絶対嫌なわけではないけど、今更会えないし、向こうも会いたくないんだから、
早くこの場を立ち去りたい。
「5分もあれば終わるってばよ!」
「あ、ありがとう」
ナルトは軽そうに箱を肩に担いで歩く。
私より全然力があるな…。
●●●はナルトの額当てに気付いた。
「君たちは、下忍のチーム?」
「いずれ火影になる男!うずまきナルト様が所属する第七班だってばよ!」
そう言って空いた方の手で●●●にVサインをしてみせた。
「ナルトくんね!私は●●●!火影とは大きな夢だね」
ナルトはまぁな!と鼻で指をすすった。
「なあなあ、●●●の姉ちゃん!この箱の中何が入ってんだ?」
「これはね薬箱なの。いつもはリュックみたいに背負えるんだけど使い込んで肩紐が切れちゃって」
確かに背負うなら簡単に運べそうだが抱え込むとかなりの重さだ。
それに前も見づらい。
「薬箱てことは姉ちゃん、薬屋か?」
「んー、正式な忍者じゃないけど医療忍者!」
「どーゆー意味だってばよ?」
ナルトと●●●は喋りながら歩いていた。
大きな箱を持ったナルトと横を歩く●●●がアパートの角を曲がり、姿が見えなくなってしばらく…
「やーおはよう諸君。今日は…………ん?ナルトはどうしたんだ?」
「ナルトならすぐそこのアパートまで荷物を運んでいるわ」
「………荷物?」
「女の人が重そうな箱を持っててそれを、あ!帰ってきた」
アパートの方向を見るとナルトが勢いよく駆けてくる。
「お!カカシ先生ェ!遅いってばよ!」
「いーや、今日はお前のが遅かったでしょ」
「俺ってば人助けしてたんだってばよォ」
カカシはふとナルトの手の中に目をやった。
その数分前…
「ありがとう、ナルトくん」
●●●とナルトはアパートの前にいた。
ナルトは担いでいた薬箱をドスン、と置く。
「あのさ!あのさ!よく分かんねーんだけど、結局姉ちゃん忍者なのか?」
「うーん、医療忍術しか使えないけどね」
「ふーーん……」
よく分からないというような顔をしてナルトは両手を頭の後ろに回した。
「ナルトくんこれ」
●●●はそう言って小さな箱に入った桜餅を差し出した。
「私の得意料理なの。食べてね」
「くれんのか!?」
●●●は笑顔でコクコクとうなづく。
「あーー!俺ってば行かねェと!じゃあな、姉ちゃん!コレサンキューな!」
ナルトは勢いよく駆け出していく。
「ありがとーーー!」
ナルトに聞こえたかは分からなかったけど●●●は大きな声で見送った。
「ナルト、その手に持ってんのは何だ?」
「これってば桜餅!さっきの姉ちゃんがくれたんだ」
ナルトは早速箱を開けて桜餅を食べ始めた。
カカシは懐かしい気持ちになった。
甘いものが嫌いな自分が桜餅を間違って食べてしまった日のことを思い出す。
その時隣にいた人物のことも……。
ズキリと胸が痛んだ。
「カカシ先生?」
サクラがカカシの顔を覗き込む。
カカシはハッとして記憶をしまい込んだ。
「いきなりだけど、お前らを中忍選抜試験に推薦しちゃったから」
「またまたぁそんなこと言っても騙されな」
「志願書だ」
「カカシ先生大好きー!」
ナルトはカカシの首元に飛びかかって抱きしめた。
その後試験の事を軽く説明し、解散。
いつかと同じ気持ちのいい風が吹いている。
もうすぐ、この里に桜が咲く。