桜花爛漫〈飲み屋編〉
「店、適当でいい?」
「うん、お任せします」
カカシはいきつけの店なのか慣れた感じで居酒屋の暖簾をくぐって行く。
夜も遅いのに店内はまだまだ賑やかだ。
壁と垂らし布で仕切られた個室に通された。
「●●●は2件目でしょ、飲める?」
「飲む!梅酒ロックで」
「何かつまむ?」
「や、お腹はいっぱいです」
カカシはメニューもあまり見ず店員にあれこれ注文する。
●●●は、慣れてるなあよく来るんだなあ、と思いながら見つめる。
「ここ前に同期と来たことあんのよ」
「そうなんだ」
いろいろと話す間も無く、次から次へと頼んだお酒や料理が運ばれて来る。
「結構頼んだんだね」
「そ、俺夕飯まだだから」
カカシも飲み会来ればよかったのに、と言いかけたが飲み込む。
飲み会に来られてたらきっと気まずかった。
アスマも悪酔いしていたし……
「●●●、数十年ぶりのおかえり」
そう言ってカカシはお猪口を上に掲げる。
それを見た●●●も梅酒のグラスを掲げた。
ほんとは3年ぶりだけれど、それは内緒だ。
「ただいま」
カチン、とお猪口とグラスがぶつかった。
あんなに会う会わないと自分の中で葛藤していたのに、会ってしまえばなんのその。
昔話に花が咲く。
一緒に住んでたときのこと…
忍者学校での話…
図書室での話…
オビト、リンの話…
ガイ、アスマ、紅との話…
「ね、私たちが初めて会った日の事覚えてる?」
「あーお前泥だらけの顔して家番してたね」
「そっちこそ眼つき悪かったよ」
ハイペースでお酒が進む。
「カカシ先生、ナルトくん桜餅食べてくれてた?」
●●●は、5杯目の梅酒に口をつける。
頬は真っ赤に染まっている。
「食ってたよ、うまそーに」
「あれ、いちから手作りしたの!楽しかったあ」
「●●●、結構飲めんのね。大丈夫?」
「平気です!カカシはもう終わり?」
「付き合うよ」
●●●は、飲んでるときは平気だが
後からドカンと酔うタイプ。
言うまでもないが後から来る酔いの大きさは飲んだ量に比例する。
7杯目の梅酒を飲み終えて2人で店を出る。
いつもは3杯程度なのに倍以上飲んでる。
梅酒は意外とアルコール度数が高め。
カカシは結構熱燗、冷酒と飲んでいたが
酔ったようなそぶりは無い。
ズボンのポケットに手を突っ込んでいる。
「じゃあ、私こっちだから」
「……………そ」
●●●はカカシの家とその隣に建つ自分の家とは正反対の方向を指差す。
「今日はありがとう!たのしか」
「ポストにさあ」
最後まで言い終われなかった●●●はカカシを見つめる。
「ポストに●●●んちの鍵が入ってたからちゃんと月一くらいで風通ししてるよ」
「…………そういう意味で入れたんじゃないんだけどなあ」
春になりたての風が酒で火照った2人の間を通り抜ける。
この里は本当に風が気持ちいい。
「ちゃんと、家は俺が守っておいたから一緒に帰ろうよ」
「……………」
●●●の目頭が熱くなる。
お酒のせいで全ての感情がいつもより大きく膨らむ。
こんなときなんて言うのかはお酒に酔った頭では考えられなかった。
「帰ろうよ。俺らの家でしょ」
「……………私の家だよ……」
●●●の視界が突然ぐらりとした。
酔いが来たみたいだ…。
頭と視界がぐるぐる回っていく。
街灯にもたれかかって、大きく深呼吸する。
「●●●、はい」
そう言うとカカシは●●●に背中を向けてしゃがみこむ。
「ええ…、恥ずかしいよ……」
「街灯と抱き合ってる方が恥ずかしいでしょうよ」
「………………そうかな…」
●●●はゆっくりカカシの肩に手を回す。
身体がぴったりくっついて暖かい。
●●●の顔の前にはカカシの耳。
いつも近くにいた懐かしいカカシの匂いがした。
カカシは●●●をおんぶして歩き出す。
さっきまで飲んでいたのにしっかりとした足取りだ。
「……●●●」
「………ん」
「俺酷いことしちゃったけどさ、ずっと会いたかったよ…お前に」
「……………わたしも」
カカシは心の底からほっとした。
頬が勝手に緩くなる。
しばらく歩くと、背中からスースーと規則正しい寝息が聞こえてきた。