カカシの勝算*
俺は●●●と病院で会ってから
崖登りの修行に来ていた。
子供のときからこの修行は欠かさない。
が、思ったより体が鈍っている。
頂上に着き、景色を眺める。
吹き抜ける風が気持ちいい。
まだ日は高いけど今日は帰るか…と崖を降りる。その足で繁華街をうろついて、夕食のおかずを探した。
●●●はまだまだ仕事だろうから今日も俺が作るかな と考えて魚屋をのぞいて見ると、ちょうど2匹だけ秋刀魚が売っていた。
季節外れだが…夕食は秋刀魚にしよう。
「これ、ください」
「あらあら、はたけさん。いつも1匹なのに今日は2匹?」
「ええ、まあ」
「あらっ!もしかして所帯持ったのかい?いつのまに!めでたいねぇ」
早とちりする魚屋の店主に苦笑いを浮かべて代金を払う。
俺だってね…もう所帯持ちになってもいいかなって思ってるのよ。相手はあの女しか考えられないし、年齢的にもね。…でもなかなか上手くいかないんだよねーこれが。
「今度、会わせてね」
そう言われて返事が出来ず、ハハハ…と誤魔化して魚店を後にする。
そうだよな…もう●●●しか考えられないんだからちゃんと自分の気持ちを伝えよう。
再会して飲みに行った後…伝えたんだけど…伝わってないみたいだし。
俺のために各国を周り旅に出た●●●。
俺の生死を確かめるために帰国後すぐに慰霊碑に来ていた●●●。
家の鍵を俺に託してくれた●●●。
昔俺と2人で花見した思い出の丘に花見に来ていた●●●。
●●●の行動は全て俺に精通してる。
俺は…好かれてるって思ってもいいでしょ?
俺は敵と戦うとき、自分にとって不利な敵でも戦略を練り勝つ為に戦う。
勝算がなければ一旦引いて立て直す。それも勝つために必要なことだ。
職業柄とはいえ、こんな言い方いやだけど
●●●に対して勝算は……………あるとみていいだろう。
俺と●●●の歴史は誰と過ごした時間よりも長い。お互いの両親よりも長い。カカシにとってそれもおおきな勝算の一つだ。
カカシは一度家に戻って魚を冷蔵庫にしまってから、父親 はたけサクモの墓の前に来た。
しゃがみ込んで、墓石の上に落ちている埃を手で払う。
「…父さん。今日は命日じゃないけど…話があって…」
「……●●●と…本当の家族になろうと思う。……」
『いやあ…めでたいね。父さんは最初からカカシと●●●ちゃんはこうなるんじゃないかなっておもってたんだよ』
今にもそんな声が聞こえてきそうだ。
カカシは1人サクモの墓石を見つめた。
カカシは静かに立ち上がり、●●●の両親の墓石の前に移動した。目を閉じて手を合わせる。夫婦2人が一つの墓に共に眠っている。
「おじさん、おばさん。お久しぶりです………」
カカシの記憶の中の●●●の両親は、いつも共に居て仲が良さそうだった。
俺も●●●とそんな夫婦になりたい。
そしていつか眠りにつくときは…●●●と共に。
「俺に●●●を……」
忍たるもの先を読んで行動しろ、とはいうけれどまだ●●●の返事も聞いていないのに両親に報告するなんて…早すぎるか。
「……また来ます」
カカシは墓参りを済ませ、再び繁華街に出た。
夕食の買い物をする女性や子供で賑わっている。
カカシの目の前を小さな男の子と女の子が手を繋いで走り抜けて行く。
その姿を見て幼き日の自分と●●●を思い出した。幼い頃は気が付けばいつも●●●がそばに居た。それから時は過ぎて●●●はまた俺のところへ帰ってきてくれた。
もう、俺は十分待った。我慢した。
ふと目についた出店屋に●●●の瞳の色に似たカンザシが売られていた。
特に記念日とかでもなかったが
『●●●に似合いそうだな』という理由だけでカンザシを買った。
高かった日も傾いて空は茜色。
家に帰って、先ほどの秋刀魚で夕食を作る。
崖登りをしたせいかすこし腕がツンと張る。
ホント…身体がなまってる。
季節外れのサンマと茄子の味噌汁。
俺の好物ばかりだが●●●は喜んでくれるだろう。カカシが作った料理を美味しそうに頬張る昨日の●●●を思い出してカカシの頬も緩む。
料理が出来上がり、本を開いて●●●を待つ。
窓から外を見ると茜色だった空も暗くなり、街灯の明かりが灯っている。
料理から出ていた湯気もすっかり消えていた。カカシは読み終えてしまった本をパタンと閉じる。
もうそろそろ帰って来てもいい頃なのに
家の外にも●●●の気配はまるでない。
医療の現場は急患やら急変やらで時間通りにいかないのは分かってるつもりだ。
忍の世界もそうだ。予定通りになんていかないことばかり。
チッチッチッと時計の秒針の音が静かな家に響き渡る。
●●●が帰ってこないまま日付が変わろうとしている。そろそろ大人でも何かあったのかと心配になる時間帯だ。
カカシは家を出て、病院に向かった。
夜も遅いし●●●を迎えに行こう。
「●●●さん?もう随分前に帰られましたよ」
病院の受付にそう言われた。
アパートとやらに帰ったのだろうか。
けれどカカシはアパートの場所を知らない。
生家に帰って来てと言ったのに…。
昔のように俺と過ごすのが嫌なのか?
はぁ…傷つくね…。
追跡は俺の十八番。
ストーカーみたいに思われても嫌だったから使わなかったが…時間が時間なので心配だった。無事にアパートにいるなら……………ま、それでもいい。
「パックン…隣の家に住んでた●●●、覚えてるでしょ?…匂いでどこにいるか追える?」
「ああ、●●●の匂いはよく覚えとる。…木の葉に帰って来とんのか」
パックンは鼻をヒクヒクしてから素早く移動してすぐに見えなくなった。
カカシは追跡をパックンに任せて1人●●●の生家に戻った。
作った料理もすっかり冷めてしまっている。
●●●は…もう夕食 食べたのかな。
「…危ない目にあってなきゃいいけど」
カカシはソファに深く腰掛けた。
数刻後、パックンが帰ってきた。口には何かが入ったビニール袋を咥えている。
「……あの小娘…化けたな」
「……どういうこと?」
「えらい美人じゃ。見違えたわい」
パックンは●●●を見つけたようだ。
パックンは咥えていたビニール袋の中を漁る。
出てきたのは白い粉と砂糖、練りあん、食紅、桜の葉と少量の砂。
これは…桜餅の材料か。
「●●●の匂いを追ってる途中に見つけたんじゃが…これにも●●●の匂いがついとる。あと血の染み込んだ砂の匂い…」
「……これはどこで見つけたの?」
「里の外れの桜の木の下に落ちておった」
「●●●もそこに?」
そこにいるなら今からでも迎えに行こう、とカカシは立ち上がる。
「いや…●●●はアパートの一室で嫌な眼つきの赤髪のガキと会っとったぞ」
立ち上がったカカシの肩がピクリと反応する。
「抱き抱えられて口づけまでしておった。あの小娘も隅におけねーな……終いには」
「…パックン……もういいよ」
「このまま放っておくのか?」
「………」
懐かしいこの感覚。カカシの中に真っ黒い感情が溢れてきた。
おそらく●●●と会っているのは砂の我愛羅…。●●●にとってはかなり特別な存在のようだが…『我が子みたいな弟みたいな存在』それは口づけを交わすような存在なのか?
だから俺と昔のように同じベッドで眠るのは後ろめたいのか?
『終いには…』の続きは男女の情事だろうか?
時間も時間だし、相手はあの夜の俺と同じくらいの歳…。そんな情報聞きたくない。
『我愛羅』と寝言で呟いた●●●。
『我愛羅』と聞いたときの●●●の喜んだ顔。
なぜ、我愛羅なんだ。
一番長い時間を過ごしたのは俺だ。
やっぱり、砂へなんて行かすんじゃなかった。
他の男のものになるくらいなら
あの夜無理矢理にでも…………!
考え込むようなカカシを見て、パックンは足で耳をかく。
サクモのやつも不器用な奴だったが…カカシもあやつそっくりじゃ…。
こういう人間の色恋沙汰はワシの出る幕じゃないでな…。
「ワシは帰る。●●●の所在地はここじゃ」
パックンは壁に貼ってあった木の葉の地図に足跡をつけて消えた。
カカシはしばらく考え込んでいたが、●●●の元に向かうことなく隣の自分の生家に帰った。
●●●の気持ちが分からない。
勝算は…完全になくなった。
●●●は…我愛羅が好きなのか?