再会






もうすっかり日が落ちて、街の明かりに包まれる木の葉の繁華街。


●●●は病院からの帰り道を歩いていた。
夕食時の繁華街は賑やかで歩いているだけで気分が踊る。


繁華街を歩いていると魚屋が目に入った。
鱗を取る前の大きくてキラキラした魚が並んでる。
その中に秋刀魚はないかと探したが時期じゃないので置いてないようだ。
カカシ…秋刀魚すきだったよね。残念だ。


あ!そういえば、ナルトくんが桜餅をリクエストしてくれたんだった。
仕事が忙しくてすっかり忘れてた。
●●●は問屋で桜餅の材料を買い込んだ。

桜の葉っぱ以外の材料は揃ったので、カカシと再会した桜の木のある丘に向かった。
あの桜の葉っぱを使おう。


丘に着くと、桜の花びらが散って地面にピンクの絨毯が出来上がっていた。
見頃を終えた桜はほとんど緑になって、ライトアップもされていないし、花見をする人は誰一人いない。

満開の時にカカシと十数年振に再会したなあ…
でも実はその前に慰霊碑で会ってたんだけどね…。

「桜さん。ちょっとだけ葉っぱをちょうだいね」

●●●は荷物を置いて、月明かりだけを頼りに桜の木に登る。
桜の木は毛虫が多いので細心の注意を払う。

足の裏にチャクラをためてすこし幹を登ればすぐに葉っぱに手が届いた。
毛虫とは会わなくて済みそうだ。
取った葉っぱに毛虫がいないか確認して袋に入れる。いい葉っぱがたくさん取れた。あとは家でこれを塩漬けする。

さあ帰ろう。

そう思って一歩足を踏み出した瞬間、
昼間と同じゾクリとした視線が●●●を捉える。

「まただ……」

●●●は回りを見渡すが、暗くてよく見えない。月も雲に隠れてしまった。
暗闇に包まれていると、昼間より何倍も怖い。

誰…?どうして…私を見るの?私…なにかした?

●●●は日が落ちてから暗いこの場所へ来たことをすこし後悔した。



●●●はハッと耳をすませた。

自分の立つ全方位からザザザザと這うような音が聞こえてくるのだ。
感じた視線はひとつだけだったのに…複数人なのか?
●●●は完全に逃げ場を失った。

ザザザザという音がどんどん大きくなり近づいて来るのがわかるが、人影は見えない。
這うようなそれは人の足音ではないのか?

その瞬間、何かに足をガッと掴まれた。

「いやっ…なに!?やめ」

●●●は驚いて、桜餅の材料を地面に落としてしまう。取った葉っぱがひらひらと舞う。

足を掴まれて動けなくなると、身体中を何かが生き物のように這って締め付けてくる。
足、腰、腹、胸…と順に登ってくるサラサラとしたこれは……砂?
ついに●●●の身体は身動きが取れないほど砂に絡め取られてしまった。


「……やっと……捕まえた…●●●」

●●●は暗闇から聞こえた聞き覚えのない声に目を向ける。
暗くて姿は見えないが●●●を見ていた視線の主だろう。

「だ.誰…ですか」

●●●は恐怖で声が震えた。
雲から顔を出した月が2人を照らす。

「…もう…逃がさない………」

「………が、我愛羅…くん…?」

●●●の感じていた視線の主は我愛羅だったのだ。
真っ赤な髪と真っ黒な目の隈…綺麗なスカイブルーの瞳。
最後に会った時よりも、かなり背が高くなっていて●●●とあまり変わらないくらいだ。

我愛羅の成長した姿を見て嬉しくなると同時に、自分に対しての反応が 小さい頃と大きくなった今とで違いすぎて●●●はどうすればいいのかわからない。

昔の我愛羅なら、嬉しそうに●●●の胸に飛び込んできてくれたのに。
見覚えのない額の文字と問答無用に●●●の身体を締め上げる砂。
これは本当に我愛羅くんが操っているの…?

我愛羅は静かに身動きの取れない●●●に歩み寄ってくる。

「我愛羅…くん…久しぶりだね」

「………」

「何から話せばいいのか…元気だった…?」

我愛羅は何も答えないまま●●●のすぐ前まで来ると、●●●の心臓の音を聞くように●●●の胸に耳を当てた。

恐怖と戸惑いでいつもよりドキドキ鳴っている鼓動を聞かれている…と思うとさらにドキドキする。

「ど、うしたの…?我愛羅くん…」

我愛羅は何も言わずしらばらく胸に耳を当てたままにしていた。
その間も我愛羅の砂は●●●の身体を拘束し続けている。

「我愛羅くん…この砂…外してくれない?」

「そしたら…お前はどこに行く」

「え?どこにも行かないよ…」

「……お前は嘘ばっかりだ」

「…え?」

我愛羅の砂が浮いて●●●の身体を持ち上げる。

「もう2度と俺から逃げられないように…その足を折ってやる…」

「えっ!?いやっ!やめてっ!」

●●●の足を包む砂に力が入り、血が止まりそうだ。骨がミシ…と嫌な音を立てる。痛い。

たしかに、我愛羅に何も言わずに砂の里を出てしまった。だけどそれは私の意思じゃない。

「我愛羅くんっ…話を聞いて!…私…嘘はついてない!」

「………」

●●●の真剣な表情を見て
我愛羅は砂の力を緩め、●●●を解放した。
砂が我愛羅の瓢箪の中にサラサラと戻って行く。

我愛羅と●●●は桜の花びらで出来た絨毯の上で向き合った。
この桜の木の下では懐かしい人間と再会する運命なのかな。
まじまじと我愛羅の顔を見ると、目つきは鋭いがやはり幼い頃の面影が残っている。
小さい頃の我愛羅より…ずっと男らしくなった。

●●●は我愛羅に歩み寄って、静かに手を伸ばした。
我愛羅の短い髪をサラと撫でて、そのまま我愛羅の頬の傷に青白い光を当てた。
我愛羅は一瞬ピクリとしたが、抵抗はして来ない。浅い傷は瞬く間に塞がっていく。

●●●は両手で我愛羅の手を取り、手の甲に負った傷にも光を当てる。

●●●と手を繋ぐ…今は我愛羅の手の方が大きくて昔のようにはならないが、懐かしい感覚に我愛羅の瞳が揺れる。

懐かしい●●●の優しい匂いが風に乗って我愛羅を包む。

「何故……俺を置いて里を出た」

●●●は我愛羅の手を握ったまま向き合った。

「……あれは、私の意思じゃない」

●●●は我愛羅を真っ直ぐ見つめた。

「…俺を殺すための術式が露見しそうになったから逃げた…だったか?」

殺すための術式…?
もしかして…守鶴鎮静術のこと?

「私は…我愛羅くんを殺そうなんて思ったこと…一度もないよ」


「………」


「私が我愛羅くんに使ったのは、守鶴鎮静術で我愛羅くんの睡眠を助ける術式なの…それを使ったことが風影様にバレてしまって…それで…風影様に砂の里を追い出されちゃったの」

「………」

「…だから、家の荷物も服も大切なものも全て持って来れなくて……我愛羅くんにもお別れが言えなかった。ごめんね…」

少しうつむきながら話す●●●を我愛羅は真っ直ぐ見つめて静かに話を聞いていた。
玄師は風影に色々口止めされてると言ってたが●●●はされていないようだ。
我愛羅と●●●がもう会うことはないと思っていたのだろう。

「我愛羅くん…まだ今も十分眠れてないよね?…もうすぐ本戦……」

自分で『本戦』と言って思い出した。
重傷を負ったリーくんのことを…そしてその対戦相手が目の前の我愛羅くんだったという事も。

…いや…忍の世界なら仕方のないことなんだ。
下手したら我愛羅くんが重傷を負っていたかもしれないし、それもイヤだ。
こんな状況の為に自分には医療忍術があるだろ!とモヤモヤする自分に喝を入れる。


「●●●…全て話せ」

「…そうだね…此処じゃなんだから…私のアパートに来ない?」

「…………ああ」

「我愛羅くん時間大丈夫?」

「……子供扱いするな」

●●●は笑ってごめんね、と謝った。
我愛羅の心が揺れた。
今の我愛羅に笑いかけてくれる人間など●●●以外には誰一人いなかった。

我愛羅にとって他者とは…殺すことで生を実感できるただそれだけの存在。
それは今も変わらないし、これからもそうだろう。

●●●に手を握られて感じたこれは何だ?
人を殺す…それとは全く違う充実感。
人を殺す事以外に自分の存在を…『生』を実感できるようなこれは……。



我愛羅は●●●のアパートに入る。

「座っててね、いまお茶入れるから」

そう言って●●●は台所に消えていく。
我愛羅は立ったまま部屋を見渡す。
整頓された部屋は生活感がまるでないように感じられた。

●●●がお茶を机に置き、我愛羅に椅子をすすめ対面に自分も座る。
お茶を飲みながら向き合うのはいつもカカシなのに今日は目の前に我愛羅がいる。

お茶から上がる湯気を眺めて、
さて、何から話そうか…と●●●が考えていると我愛羅が口を開いた。

「さっきの話…本当か」

「…うん。全部本当だよ…お別れ言えなくてごめんね。」


夜叉丸か●●●か…どちらかが嘘をついている。
我愛羅は自分にクナイを向けた夜叉丸より、ネックレスを自分に託した●●●を信じたかった。

「本当に大きくなったよね…」

そう言って●●●は我愛羅に笑いかける。
我愛羅は表情を変えることなく●●●を見ていた。

「昔はよく姉弟に間違えられたりしたのにね。あとよく砂肝も食べたよね!…また食べたいなあ…あ、師は元気?」

●●●はお喋りな方ではないけれど、昔のことを次々と思い出して我愛羅に話しかける。
誰にでも殺気を放つ自分を少しも警戒せずに話す●●●は昔のまんま。我愛羅の記憶そのままだった。

その●●●を見て、我愛羅は改めて父親である風影を恨んだ。
何度も我愛羅に暗殺を仕掛け、
我愛羅と●●●を引き離したという張本人…。

我愛羅はポケットの中から自分が握り潰した●●●の母親のネックレスを取り出し、●●●に渡した。
割れた石の先が鋭く尖っている。


「……俺が壊した…」

「……壊れても捨てずにずっと持っててくれてたの…ありがとう……怪我してない?」

●●●はネックレスを受け取って大切そうに手の中に包む。

激情に任せて●●●の大切なネックレスを握り潰し壊した俺を、責めも咎めもしないのか。

我愛羅はネックレスを手で包む●●●を見て、まるで自分の砕けた心が包まれているような錯覚をした。

粉々になった●●●への想いが蘇ってくるようだ。



「……●●●…」


名前を呼ぶと●●●は顔を上げて我愛羅を見る。

「……●●●はさっき…嘘はついてないと言った…」

「うん…ついてないよ」

「…ならば…あの約束も守ってもらう」


約束…?なんの…?
●●●は我愛羅との記憶をあれこれ探るが思い出せない…。
我愛羅は無表情で●●●を見つめる。
約束を覚えてないなんて言えない…言える雰囲気じゃない…。

●●●が黙っていると我愛羅が口を開いた

「一生を共にする男女の契約…」

「…一生を…………………えっ?」

「…………」

「が、我愛羅くん、それ意味分かって…いるの?」

「……お前は俺の所有物として…俺と一生を共にしろ」

「…………」

●●●は苦笑いを浮かべる。
『男女の』って言うから結婚とか…プロポーズとかされるのかと思ったけど…所有物とは…。
そもそもそんな約束した…?
もしかして…我愛羅くんが私の守覚鎮静術や医療忍術を認めてくれて、そばに置いておきたいってことかな!
それなら、純粋に嬉しい。

「でも…我愛羅くんは試験が終わったら砂に帰っちゃうでしょう?」

「…ああ……お前も連れて行く」

「あ…あの、私…最近木ノ葉に帰ってきたばかりで…もうすこし居たいって言うか…」

カカシとも再会したばかりで今日も……あ。

〈 ●●●、ちゃんと俺らの家に帰ってよ。じゃ 〉

我愛羅くんとの突然の再会ですっかり忘れてしまっていた。
カカシ……家で待ってるかな……。
悪いことしちゃったな。

「一緒に来ないなら…手足を折ってでも連れて行く……お前ならすぐ治せるだろう。…それに砂には玄師もいるんだ……」


我愛羅の瓢箪から砂がサラサラと出てきた。
部屋に砂が舞っている。顔や手足に砂が触れる。息をすると一緒に吸ってしまいそうだ。


「ま、待って待って、我愛羅くん!契約というならお互いの合意が……」

「………好き合ってする合意だ。…昔お前は俺を好きだと言ったな……」

「い、言った…けどそれは!」

「……俺も真実を知ってお前を許した。想いも昔と変わらない。……」

『好きだよ』『私も好きだよ』これだけで成立してしまう契約が『一生』という重みを持ってるわけない…。もっててたまるか。

そもそも…

「…我愛羅くん、『好き合ってする合意』って…誰から聞いたの…?」

「…………玄師……」


師……我愛羅くんになにを教えたのですか…。
ちゃんと説明しないとこのまま手足を折られてしまいそうだ。

「玄師は……こうも言っていた……」



***




「一生を共にする男女の契約」

「一般的にはお互いが好き合ってする契約だな……まあ、約束な」

「約束破ったらどうなるの?」

「…………そうなぁ…破ったら…」

玄師は我愛羅に耳打ちをする。

「ぶっ殺されても文句は言えねー」



***


師………………。
医療忍術以外はテキトーなあなたを今初めて恨みました。

我愛羅は静かに●●●に歩み寄る。
その顔は俯いていてよく見えない。


「●●●……俺を…孤独から…救ってくれ……」

そう言って顔を上げた我愛羅の顔はひどく歪んでいた。手で片目を覆い、酷い痛みに耐えているような顔だ。

●●●は感情を露わにする我愛羅から目が離せなかった。


「俺の存在を……認めてくれ…」


懇願するような我愛羅に●●●の胸は締め付けられた。
私が居なくなってから砂で何が起きたの?
何がここまで我愛羅くんを変えてしまったの?
我愛羅が昔と違うのは、心身共に成長したからという理由だけでは無さそうだ。

●●●は我愛羅の髪をサラリと撫でた。


「…私…どうしたらいい…?」


我愛羅は自分の髪を撫でる●●●の腕を掴み、そのまま●●●の唇に自分の唇を押し当てた。

驚いた●●●は固まった。顔は真っ赤に染まる。目の前には我愛羅の顔があってふらりと後ろによろけてしまう。よろける●●●の身体を我愛羅が支えた。

「……ご、ごごごめん。びっくりして…」

昔はよく我愛羅を抱きしめたり、共に眠ったりしたけれど…くくく口づけは………。
●●●は耳まで真っ赤だ。


「●●●……俺と、砂に帰ろう……」

口づけの瞬間、我愛羅に充実感が溢れた。
『生』を強く実感できた瞬間だった。
我愛羅が●●●にもう一度口づけをしようと顔を近づけてくる。
●●●のなかには、
受け入れてあげたい…と思う自分と、
やっぱりカカシ以外とはできないと思う自分がいた。
あれ…カカシ…?いや、カカシも恥ずかしいからダメだけど!

その瞬間、アパートの窓ガラスを割ってクナイが飛んできた。
●●●はびっくりして固まった。
この驚くと固まる自分の癖をどうにかしたい。

「我愛羅!」

割れた窓から部屋に入ってきたのは、砂の額当てを付けた3人。

「何してる!作戦会議の時間は過ぎてるぞ」

「………邪魔をするな…殺すぞ」

部屋中に散らばっていた砂が、3人の元へ集まる。

「風影様の伝令を伝える。……来い、我愛羅」

現れた3人の中の片目を布で隠した一番年配の忍がそう伝えると我愛羅の身体はピクリと動いた。

我愛羅の砂が静かに瓢箪の中に帰っていく。

「………また来る…」

我愛羅は●●●にそういうと、割れた窓から外に出て行った。

3人は驚いたように●●●と我愛羅を見ていたが、我愛羅に続いてさっさと外に出て行った。

アパートには立ち尽くす●●●と、割れて飛散している窓ガラス。
昨日…がんばって掃除したばっかりなのにな。



「…我愛羅、あの女……知り合いか?」

「……………」

「………まあいい。風影様から木の葉崩しの作戦伝令が届いた…宿に帰って説明する」

「……………」


我愛羅は木の葉崩しなどどうでも良かったが
●●●に会って気持ちが変わった。


木の葉隠れの里が無くなれば……●●●、お前を砂に縛っておけるだろう。