春の眠り





日が一番高く昇る昼下がりの午後。
火影顔岩の上を木の葉の風が吹き抜ける。
長く深い色の髪がその風になびく。
市女笠を深めに被り、首から足の爪先まで隠れる大きなマントを羽織った女がひとり里を眺めていた。



数年ぶりの木の葉の里。
ほとんど変わっていないようだ。



里をしばらく眺めてから、仲間たちの眠る 慰霊碑の前に行く。
途中、目に入った花屋で花を買った。




しゃがみこんで刻まれた名前を一人一人指を沿わせながら確認する。
慰霊碑の前には誰かが供えたであろう花が風に揺れていた。
その隣に自分の買った花を供える。


あの人の名前は刻まれていない。
生きているだろうと安堵する。



会いに行けばいいのにそれをしない
否、できないのは、
2人の間の出来事がしつこく尾を引いていてそれ以降会っていないから。



もう彼も自分の生活があるだろうし、家族なんかもいるかもしれない。


いま、生きていて、幸せならそれでいい。


会いに行って、彼の幸せに歪みが生じるかもしれないと思うと会う気は失せた。


家が隣同士なので久しぶりに木の葉に帰省しても自分の家には寄らず、宿で過ごしていた。

今回は調べてきた全てを本にまとめる為、木の葉に帰省した。
次の出立の予定はなく、里の隅にアパートを借りた。


気持ちのいい風が市女笠ごと髪をかき乱す。
女は青い空を見上げた。

太陽も高く気候も暖かい。


木の葉の里
この里の空気、風、雰囲気の中にいると、
記憶が勝手に呼び覚まされる。


ああ、昔に戻ったようだ。



市女笠を取って慰霊碑の側の木の幹にもたれ掛かり、ぽかぽかの日を浴びていると眠気を誘われる。
故郷にいる安心感と太陽のせいだ。



なんの気配も感じないし、すこし眠ろうかな。



そう思ったと同時にか、私は眠りについていた。





「先生、トイレに行ってきまする」

「....あのなあ、今は授業中だ!」

さっきの授業中も行っただろう、と担任が続ける

「でも....」

●●●は下唇を噛みながら小さな声を出す。

「............か・な・ら・ず!帰ってこいよ」

「........」

●●●は返事も頷きもせず教室を飛び出していった。
おい、返事!という担任の声が届く前に。


「....まーたあいつ帰ってこないんじゃないの」

●●●の斜め後ろに座る銀髪の少年が机に頬杖をつきながらぼそりと呟いた。

「ったく.......カカシ、悪いが15分くらいして帰らなかったらまた見てきてくれるか」

「はい」

いつもカカシが●●●の確認に選ばれるのは学年トップな事とは別にもう一つ理由があった。

カカシは授業そっちのけで時計ばかり見ていた
案の定、●●●は15分過ぎても教室に帰ってこなかった。
カカシははあ、というため息と同時に席を立つ。

「先生、●●●見てきます」

「あ?もう15分か、悪いなカカシ」

●●●がどこで何をしてるか
担任もなんとなく分かっている。
だからあまり強く言わない。

カカシが教室を出て、トイレとは逆方向の廊下を進んでいく。

ついたのは図書室。
少し開いたままになっている扉に手をかけ中を覗くと、椅子に座ってぶ厚い本とにらめっこしている●●●がいた。
図書室にはぽかぽか暖かい日が差していた。

●●●はカカシの目線にはまるで気付いていない。
カカシがガラッと扉を開ける。
その音でようやく●●●が本から顔を上げカカシの方を向く。

「あれ?まだ授業終わってないよね」

「はあ?お前もでしょ」

「..........」

「...........」

「腹痛でトイレから出られないでござる」

「...お前ね....」

カカシとの会話もそこそこに
●●●はまたぶ厚い本に目を落とす。
その本は主に薬草学や医療忍術の事が詳しく載っているものだった。
内容と●●●の真剣さに負けて、カカシは担任にウソをついた。

●●●はひとつのことに集中し始めると
なかなかとまらない。
それが長所でもあり短所でもある。
自分の席に戻ったカカシは本日何度目かの
ため息をついた。

カカシは明日、●●●や同級生達を置いて
一足先に下忍となる。