額当てと意思






●●●は無事に卒業試験に合格した。
忍者学校に入学したときの同級生に比べるとかなり遅い卒業だった。
ガイやアスマ、紅、オビトやリンももう中忍。

卒業生が嬉しそうに額当てを身につける。

●●●は担任からもらった額当てを付けることなくじっと見つめていた。

下校時間を過ぎて生徒が少なくなると●●●は担任の元を訪れた。
話があります、と言うと教員室の隣の個室を用意してくれた。

担任と●●●は机を挟んで向き合って座る。

「●●●、合格おめでとう。お前もやっと卒業する気になったんだな」

「ありがとうございます」

●●●のいつもと違う雰囲気に担任は何かを感じた。

「それで、なんだ?話というのは」

●●●は目の前の机に、今日貰ったばかりの額当てを置いた。

「これは必要ありません」

「どういう意味だ?」


「実は、医療忍術を学びに里を出ようと思っています」

「……は?里を出る?お前が?」

担任は耳を疑った。
何かの冗談としか思えないが、
●●●の表情から真剣さが伝わってくる。

「まずは、砂隠れの里へ行きます。それからいろんな里へ旅をしながら知識を」

「ま、待て待て待て!」

担任は手のひらで●●●を制止する。

「里を出て医療忍術を学びたいのはわかった。応援しよう。だがお前はそれをいつ頃の事として話している?」

「カカシの上忍昇格を見届けたらすぐにでも」

担任は頭を抱えた。
カカシの上忍昇格は丁度一週間後。
このまま木の葉の下忍になる気は無いということか…。
机の上の額当てを見る。


「●●●、そんな焦らずとも木の葉の医療忍術を身につけてからでもいいんじゃねぇか?」

「木の葉の医療忍術の大半は忍者学校在校中に身につけました。それだけでは足りません」

その言葉に担任は驚いた。
学校の授業では医療忍術なんて高度なものは教えていない。

だが思い返せば●●●は同級生の中で異様な程チャクラコントロールが上手かった。
誰か隠れた師がいるのだろう。

「砂に身寄りもないだろ、まず木の葉から砂への道中1人で襲われでもしたらどうする。それに最低でも3日はかかるぞ」

「それは大丈夫です。一週間後に商人のキャラバンが砂の里へ行くそうなので一緒に乗せて行ってもらいます」

もう話もしてあります、と●●●は言う。

その真剣な顔に担任は息を呑んだ。

だが担任にとって●●●は、忍者学校を卒業したばかりの子どもなのだ。

「まだお前も若い。そう焦らなくても……」

「………だけど、カカシは!」

少し大きな声が出た。
●●●は膝の上の拳に力を込める。

「…カカシは5歳で下忍、6歳で中忍になりました。今は私と同い年で上忍です」

「……………」


それ以上担任は何も言わなかった。
●●●の思いには焦りも感じられる。


「額当ては持っていけ」

「え?」

「それを持ち帰ってよく考えろ。今と意思が変わらなければ、明日同じ時間に返しに来い」

一度返したらまた1年生から入り直しだからな、と付け加えておいた。

●●●は額当てをカバンにしまう。

「では先生、また明日」



担任は●●●の背中を真剣な顔で見送った。