癒やしの温度



さあ、●●●…食事の時間よ

●●●姫様!ご機嫌いかがですか?

●●●は実に水の国の衣装がよく似合うな。

さすが、我が国の誇り高き姫よ。

我が国の、宝じゃあぁ…………


水の国の姫は拐われた赤ん坊。

俺たちの任務は、その赤ん坊を救出すること。




●●●、さあ……水の国に伝わる特別な歌を。

これで貴女は永遠に水の国の姫。

逃れるなどという考えさえも浮かばぬように。

さあ………





「っ……!!」


●●●はガバッと体を起こした。寝起きだというのに心臓がドクドクうるさい。
呼吸が苦しくて涙も出てくる。ふるふると震える自分の肩を抱くとしっとりと汗をかいていた。

頭が痛い……苦しい。

過去の思い出と昨日の出来事が一気に頭に流れ込んできたような悪夢を見た。

そうか、昨日…先輩に水の国の任務のことを聞いて……。この虚無感はそのせいだ。今の私には何もない。空っぽだ。腕一本動かすにしても何の為かわからないほど。









●●●は自分がいる見慣れない部屋を見渡す。生活感が無いほど片付けられた部屋。ふと枕元を見ると見たことあるような子どもの写真。このぶっきらぼうなマスクの少年は……


「俺の家だよ」


台所らしき所からカカシが湯呑みを2つ持ってやって来た。額当てもベストも着けていないが、マスクだけはしっかりしていた。

「よく眠れた?」
「ここは先輩の家…ですか?」
「…うん。まあ忙しくてたまにしか帰れてないけどね」

カカシはベッドの上の●●●に湯呑みを1つ渡して、ベッドに腰掛ける。

『同じ空間に誰かがいる』そんなごく当たり前よのうな事が今の●●●に安心を与えた。

●●●は手渡された湯呑みを両手で包む。
あったかい……
一口すすると体の中までポカポカしてくる。ガンガンする頭も少しばかり落ち着いた。



「…私は……なぜ先輩の家に?」

「●●●があの後門の前で倒れちゃったからとりあえず俺の家に運んだんだよ」

ずずず、とカカシはお茶を啜る。

「そうですか、すみません。ご迷惑をおかけしました」

●●●はすぐにベッドから降りようとする。

「まだ寝てなよ」

カカシはにっこり笑って●●●をベッドに戻す。●●●はハッとして自分の顔に手を当てた。面はつけていなかった。

ああ、もう先輩にはバレているのかな……。
私こそが、親の仇とともに笑って過ごした愚かで滑稽な水の国の姫だという事……。

信じるものを間違えて何もかもをなくした私。


「先輩…昨日の話は嘘ではないんですよね」

「……ああ」

「……そう、ですか」

「…………」

●●●の身体が震えている。

信じるものを失って、自分が何かわからなくなりそうだ。この名前も性格も全て親の仇によって………。
次また何かを信じてもまたこうして裏切られたら……


怖い。

身体が震える。

もう、何もなくならないで



そう思うと同時に●●●はベッドに座るカカシに後ろから抱きついていた。
●●●に抱きつかれた反動でカカシの持っていた湯呑みが床に落ちる。

「えっ?●●●っ?」

「離れないで……」


カカシの腹部に回された●●●の腕の力は微かに震えていた。
カカシは驚きながらも、自分の背中に顔を埋める●●●の手を強く握った。

「…………」

先輩はしばらくの間、何も言わず何も聞かずただ手を強く握っていてくれた。

大丈夫……って言ってくれてるみたい。

空っぽの●●●に温もりが流れ込んできた。
他人とこんな風にくっついたのはいつ振りだろう。喪失感が薄れていく気がする。

他人の温もりがこんなに安心感をくれるとは。




●●●はカカシの背中のぬくもりを頬で感じながら、自分の手を握るカカシの手を握り返した。それに驚きつつも大きな手が●●●の手を包む。

静かな部屋に2人の呼吸と時計の秒針の音が響く。どのくらいこうしていただろうか、ふと●●●は身体を離してカカシを見た。



この人も、裏切るのだろうか。



「照れるから…そんなに見つめないでよ」

そう言ってカカシはベッドから立ち上がり、ぽりぽりと頬をかく。そそくさと湯呑みを拾い台所へ向かおうとする。


待って、まだ…もう少しだけ

近くにいて



●●●はカカシのあとを追ってベッドから立ち上がり、すがるように背中から抱きついた。

「えっ、…」


あったかい。

●●●は再びカカシの腹部に手を回した。

顔が先輩の温かい背中に触れ、心臓の音が聞こえてくる。

先程のようにまた手を握ってくれるかと思っていたら、カカシは●●●の手を解いて、正面に向き合った。

いつも面で表情が見えない●●●が今にも泣き出しそうな海色の瞳で自分を見つめている。

そんなも顔するんだね…。

いつも強い思いを抱いた海色の瞳は今にも涙がこぼれ落ちそうに揺れている。


カカシは胸の中に●●●を優しく抱きしめた。
●●●の身体はこんなに小さかったのか。

●●●の匂いと温もりを感じ、カカシの中の何かが切れそうになる。落ち着け落ち着け。

「テンゾウは家帰れたかな…」
「……………」

咄嗟にテンゾウの顔を思い出して自分を鎮める。


あったかい……

カカシの大きなあったかい胸に包まれて、●●●は少し落ち着いた。
だが、それでもまだまだ足りない。もっと……

●●●はスッとカカシから離れた。



「先輩………」

「……えっ、●●●……ちょっ、と……」


自ら着ていた服をはだけさせ、素肌を露わにする●●●。
透き通るような陶器のように白い肌。その肌に付く痛々しい古傷たち。カカシは●●●の綺麗な身体に釘付けになっていた。
身体がカッと熱くなってくる。

目の前の人物は本当に、●●●…?
こんな大胆な……



『カカシ先輩、●●●のこと好きでしょう』


テンゾウに言われた一言がカカシの頭をよぎる。
ああ、好きだよ……
身も心も全部欲しいよ。けど、こんな…


●●●は、今一緒に居てくれて、抱きしめてくれる奴なら誰でもいいんだ…きっと俺じゃなくても。

こんな形は望んでないよ。



「●●●、風邪引くでしょ」
「いいんです」

カカシは足元に落ちた着物を拾って●●●肩にかける。

「服じゃダメなんです。全然あったかくない…」
「え?」

●●●はカカシの胸に飛び込む。肩にかかっただけの着物は当然のように床に落ちた。


「お願いします…今だけでいいから」
「………」


身体が冷えきった人間を助けるとき
急に温めるとショックを起こすから人肌でゆっくり温める必要がある。衝撃すぎる真実を知ってしまった●●●の心はいまそんな感じなのかもしれないな。


「今日だけだよ」
「…ハイ」

カカシは上の服を脱ぎ、ベッドの中に入った。その後に●●●も続く。

カカシは●●●をぎゅっと抱きしめた。小さな身体はひんやりしていた。滑らかで柔らかな●●●の肌に思わず指を沿わせる。

「く、くすぐったい…」
「ごめん」

●●●はカカシの胸に顔を埋めた。服を着てないだけなのにさっきよりも断然温かさを感じる。

●●●の指がカカシの背中を撫でるとカカシの中心が熱くなる。

まいったね、こりゃ……。


カカシが腕の中の●●●を見ると、もうすでに眠りに落ちていた。先程とは違い、スースーと安心したように眠っている。


カカシは●●●の顔にかかっている髪の毛を指で後ろへ流し、おでこに口づけした。


次…なんてのがもしあるなら、できれば俺の望んだ形で……。

誰でもいい、じゃなくて。