そんなわけで二期。クロノストーン編。これここで願望ちゃんのオリジナル入れるか迷うんだけど、もし入れるとするなら5の力と6の力の間くらいかな…。
以下書きたいところだけ頑張る流れ。基本は試合描写は飛ばす。主に願望ちゃんの一人称視点。でもめんどくなったり飛ばしたいところは三人称。自分しか見ないから甘える
ホーリーロードから早いもので三か月。今に至るまでの間、聖帝とその側近を演じていた修也お兄ちゃんと虎丸お兄ちゃんともやっと無事に再会できたし、また皆で集まってサッカーできたし、サッカー界も響おじさんが聖帝の後釜に座ることで前に比べれば全然平和になった。それに神童君の容態も順調に回復して、霧野君から聞いていた全治一か月、という話よりも一週間早く退院して全快したというのだから流石としか言えない。さて、そんな私からすれば良い事尽くめな期間といっても過言ではない日々を送っていたのだがそれは数日前に終わりを告げた。「今…なんて言った…?」「だからうちの学校にサッカー部は存在しないよ?」至極当たり前のようにそう話した彼女は私の影響でサッカーに少し興味を持っていたはずの友達だった。こうなった話の流れはなんだったか…確かお弁当を広げながらした体育の話だったかな。そろそろ球技の授業が始まり、サッカーかバスケットボールのどちらかかを選ぶというのが決まりで私が何となく「やっぱりサッカー部の神童君たちはサッカーを選ぶのかな」と話したのが始まり。けれどそれに対して友達の返答は「楓花ちゃん何言ってるの、うちにサッカー部は存在しないよ」思わず聞き返してしまう言葉。「サッカー部がないって…だって、ホーリーロードは…」「あ!わかった。楓花ちゃんもしかして寝ぼけてる?さっきの授業寝ちゃったんでしょ」「別にそんなんじゃ」「隠さなくてもいいよ、実は私も寝ちゃったから。それとお寝ぼけ楓花ちゃんに一応言っておくけど、神童君はサッカー部じゃなくて音楽部だよ」「え…」完全に私が寝ぼけていると勘違いしている友達の言葉は私の思考を止めるのには十分すぎた。神童君が音楽部?いや、いや、そんなわけない。だって私はフィフスセクターと戦う神童君の姿を見てきた。それが違うなんてことはない、特に彼に向けて好意の矢印をむけてる私なら見間違ったなんてこともない。でも友達であるこの子がこんな冗談を言うはずもない。何も言えなくなった私を見てしょうがないとでもいうように彼女は笑った。「まだ意識があいまいになってるならもう本人に聞いちゃえば?」「…うん、ごめん。そうしてくる」彼女の勘違いにわざと便乗しつつ、出された案に従うようにして神童君が座る席に向かう。一歩一歩近づくたびに嫌な予感が頭を過って冷や汗が出てくる。その考えを払うように小さく深呼吸すると何やら難しそうな本を読む神童君に声をかけた。「し、神童君…」「どうしたんだ今井?」「あのさ、突然で悪いんだけど…神童君が入ってる部活って…」「本当に突然だな。俺が入ってるのは音楽部だよ、それがどうかしたのか?」相変わらずきれいな顔に少しの困惑を混ぜつつも答えてくれた神童君の答えは、正直聞きたくないものだった。もしかして、こここそが夢の世界なのではないか…なんて考えてはみたものの、今までの流れから無意識に握りしめていた後ろ手の鈍い痛みがこれは現実に起きていると警告した。 何も答えられない私に神童君はどうしたのかと心配してくれる。あぁ、こんな時でもその優しさは変わらないのか…動くことをやめた頭の片隅でおもいつつ、なんて答えればいいのかを必死に考える。けれどそんな鈍い頭になってしまった私よりも先に見かねてか友達がごめんね、と神童君に謝りつつ私の腕をつかむ。「楓花ちゃん今寝ぼけてるみたいなの。前の授業で寝ちゃったみたいで」「今井が寝落ちするなんて珍しいな」「それは私も思った。しかも寝ぼけすぎて神童君がサッカー部に入ってたっていうもんだからびっくりしちゃった」「俺が?確かにそれは驚くな」「でしょ?」二人の楽し気ともいえる会話がどんどん私の立っている足元を崩していくのがわかる。神童君に言ってほしかった言葉は出る機会を失ったかのように姿を現す気配はなくて、なんだか場違いともいえるこの思考を抱えて逃げ出したい気分だった。でも現実なんてそうはいかなくて「次の授業では寝ないようにな」そう言って眉を八の字にして笑う神童君に私は「気を付けます」と反省した様に笑うことしかできなかった。本当はそんな表情を作るより本当にサッカー部の記憶はないのか、そう叫びたかった。けれどそんな勇気は私にはないし、これ以上二人を困らせるような言葉は言いたくなかった。昔から持つ周りに迷惑をかけたくないという考えは今になって私の行動を制限する。席に戻るころには昼休みの時間はなくなりつつあって友達はいつの間にか食べ終わったようでお弁当箱をしまい始め、私はもはや勇気とともに消え失せた食欲からまだ少し残っているお弁当箱に蓋をした。「それじゃ、そろそろ予冷もなるし私は帰るね」「うん…」「神童君が好きだから夢に出すっていうのはいいけど、今度からはちゃんと夢と現実の境目ははっきりさせるんだよ」別れる間際こそこそと小さい声で助言をする友達に思わず驚きと少しの怒りを混ぜて名前を呼んでしまうが、彼女にとってはやっぱりそんなもの毛ほどもいたくないようでへらへらと笑うと自分の席へと戻っていった。そんな友達の背中を見送った後抑えきれなくなったため息が口から溢れ出る。一体私の周りで何が起きているのか…。もしかしておかしいのは私自身なのではないかと思考するほどの得体のしれない違和感と恐怖に教室の中だというのに泣いてしまいそうになった。
そして現在。結局あれ以来恐ろしくて誰にも言えずに笑って誤魔化しながら過ごしている。もちろんサッカー部が存在しないことで雷門に来ることがない守お兄ちゃんたちにも聞いてない、あの人たちがサッカーをやっていないと聞いた日にはさすがに立ち直れないと判断してのものだった。もしかしたら神童君以外の誰かであれば覚えているかもしれない!そんな希望も残念なことに一昨日すべて消え失せてしまった。何とか人伝いに集めた情報で目にした霧野君たちはみんなそれぞれサッカー部ではない部活や趣味に没頭していて、幼少期唯一サッカーにだけ心を開いていたと瞳子お姉ちゃんが話していた狩谷君すら輝君くんと仲良く軽音部。剣城君に至っては所在不明。あと残りは雷門が革命を起こすきっかけとなってくれた天馬君だけれど、サッカーを忘れてしまう前の神童君から修也お兄ちゃんが設立した「サッカー教育プログラム」の一環で沖縄に行って子供たちにサッカーを教えに行っているらしいと聞いたから、まずいつ帰ってくるかなんてわからない。最早そこの問題なので状況は結局絶望的。今日もそんな違和感と何かが書き換えられて行っている恐怖におびえながらまた一日が始まった
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結局今日も状況が何一つ変わらないまま学校が終わってしまった。部活があるから!いつもより慌てた様子でそう言って走り去ってしまった友達に慌てて別れの手を振ろうとしてけれど、もう姿は見えない。そんな忙しない友達に思わず苦笑いしてしまいそうになるものの、それはたまたま目が合った、それだけで明日やる授業の手伝いを頼んできた先生の言葉に消え失せた。 見た目とは違い、意外にも人使いが荒すぎた先生から解放されたときにはもう空は青からオレンジに。教室に戻って、荷物を持って、外に出る。あの日から変わってしまった野球部が使っているグラウンドの横を通って正門へと向かう、その道中でかすかに聞こえるピアノの音に思わず足が止まった。もしかしたら神童君が引いているのかもしれない。そんな考えをしたら最後、サッカー部が本当に消えてしまったのだと思い知らされて音色が凶器のように私に刺さる。もし音が視覚化でしたらきっと私の体はハリネズミみたいに棘だらけだろうな…なんて全く笑えない冗談が浮かびつつ止めていた足を動かした。あと少しで正門。けれどその門の前に肩を落としたように力なく立ちすくむ少年の姿にまたしても足が止まった。私から見えるのはその後ろ姿だけだけれど、風を現したような特徴的な髪形と夕日に染まった茶色はやっぱり見覚えがある。もしかしたら、もしかしたら彼は。「…天馬君?」期待してはいけないとささやかれ、できる限り何もないかのように名前を呼んでみる。すると天馬君は勢いつけて私の顔を見ると少しの怯えをかき消すように駆け足で
近づいてくる。そして距離がある程度近づくと足を止めて恐る恐るとでもいうかのように私に名前を呼ぶ天馬君に、やっぱり彼は…と確信が持てない希望が見えてくる。言葉を出すのはまさに同時だった。「サッカー部ッ」私と天馬君の言葉が綺麗にかぶる。小さな風が希望に変わった瞬間で、ここ数日感じていた絶望に似た恐怖は立ったこの一言で消え失せていく。嬉しさと何とも言えない感動がせりあがり、自然と口元が緩んでいく。それはもしかしたら天馬君も同じなのかもしれない。さっきまでの落ち込んだような力のない顔から一変して、きらきらとしたエフェクトが見えそうなほどの満面の笑顔へと変わる。「やったーー!!」「うわわっ」自分とほぼ同じ身長の男の子が飛びついてくるのはさすがに驚くし、なんだか気恥ずかしいものだけど、その嬉しさが私にも分かるため何とか踏ん張る。やった、やった!といまだハグを続ける天馬君は吹きこぼれるような喜びを抑えきれてないようで、なんだかこの姿に犬を連想してしまう。いや、人を犬に連想してしまうのはちょっとどうかと自分でも思うけど…。だからその考えを振り払う目的と、一応ここは学校の敷地内で公共の場ですよ、という注意喚起の二つの意味を込めて背中をポンポンと叩いた。私が伝えたかったことがちゃんと伝わったようで、天馬くんは少し大袈裟な素振りで慌てて身体を離してくれた。夕日の色とは違う若干の赤が頬を差している天馬君の顔はなんだか保護欲が湧いてくる。...いやぁ...でも危なかった...もしこれが天馬君じゃなくて神童君だった暁には私はきっと身体を保てなくななっただろうな...。物理的に。「す、すみません!楓花先輩がサッカー部のこと覚えていてくれたのが嬉しくてつい…」「気にしないで、私も天馬君の気持ちすごく分かるから」この数日間はもしかしてこの日のためにあったのではないか...なんて、考えてしまいそうになるほど、やっぱり私も嬉しさから浮かれてしまう。覚えている人が私だけじゃなくて良かった...。思わずそう零すと天馬君も「俺もです」と頷いてくれた。状況なんて何一つ変わってはいないけれど、自分は1人じゃないんだ。そう思うだけで俺かけていた心が持ち直し始めているのは人間の性なんだろう。「楓花先輩、今回の事について少し話しませんか?俺、何が何だかまだ全然理解できなくて...」「うん、そうしよっか。でも取り敢えず場所移動しよ?ここじゃあきっと落ち着いて話が出来ないから」「そうですね」天馬くんと話す事で解決するなんて思ってないけど情報を整理して、これが現実だと受け止める事はできる。それはきっと天馬くん自身も分かっていることだと思う。お互い足取りが重くなりながらも、「取り敢えず河川敷の方に行きませんか?」と天馬くんが提案してくれた場所へと向かい始めた。
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階段の上に座ってお互いに話したはいいものの結局、問題が問題のため流れる空気は1層重くなる。まさか天馬くんが葵ちゃんと一緒に書道部に入っていた事になってたとは思わなかった...。この状態が数日前から起きていると私が説明した時から顔を俯かせる天馬くんに何か声をかけようとするものの、今の私に天馬くんを元気づけるような言葉をかけることなんて出来ない。それに確証のない話も。河川敷にあったサッカーグラウンドは影も形もなくて、天馬くん達がホーリーロードを勝ち進むために練習した記憶も、私が守お兄ちゃん達とサッカーをした記憶も、まるで最初から存在しなかのようだった。「一体どうなってるんだ...サッカー部が無くなっただけじゃない、皆サッカーの事を忘れてしまっている...。なんで、皆サッカーの事あんなに好きだったのに...」「天馬くん...」あまりにもに非常で不可解な現実に天馬くんはうっすらと涙を浮かべ、それが流れる前に制服の袖で拭う。その仕草も言葉も見ているこちらの心を強く締め付けた。なんで私と天馬くんだけがサッカーの事を覚えているのか...いっその事私達もその他大勢のように忘れてしまっていたら楽だったのかもしれない。そう思うのは悪いはずだと言うのに消えることはなくて、逆に黒い染みとなってこびりつく。「なんでサッカーを忘れられるんだよ。......サッカーが、消えた...」「NO。サッカーは消えていない」天馬くんに何か言葉をかけようとした私よりも先に、別の声が天馬くんの言葉を否定した。後ろを向けば現代では見慣れないグレーを基調とした服を着た男の子が無表情のまま立っている。見慣れない男の子からは何故か異様な雰囲気が醸し出されていて少し、怖く感じた。「サッカーの消去は、不完全だ」「君は...?」「松風天馬、今井楓花、これよりお前達からもサッカーを消去する」「サッカーを、消去...?」「あなた何言って...」無感情で機械的に話すその内容に、私も、天馬くんも言葉を失う。会った覚えもないのに、なんで私たちの名前を知っているのか。サッカーを消去するとはどういう意味なのか。あまりに突然の事に頭が着いていけない。ぼんやりとする思考を動かして、男の子が立つ土手に私達も移動する。アルファと名乗った男の子は自分の使命はサッカーを神童する事で、残る痕跡は天馬くんと私だけだと話す。その話で脳裏に過ぎるのはサッカーを忘れてしまった神童君達の姿。もしかして、いや、もしかしなくてもこの原因は彼が仕掛けたものなのではないか。「...それじゃあ雷門の皆が変な風になったのは、貴方のせいなの?」「そうだ」「許せないサッカーを消すなんて…!皆を元に戻せ!サッカーを元に返せ!」天馬くんは敢然とアルファに対して全てを元に戻すように要求するけれど、アルファはそんなもの意に介さないようで素早く片手を私たちの前にかざすと「NO」とたった一言で拒否をしめした。自分たちの使命はその逆、サッカーの消去だと言い切るアルファに思わず眉を顰める。きっと彼に何を言ってもこの状況を戻してくれるなんて事はない。「そんな事させない!」「拒否は出来ない」私達にかざしていた手のひらからマジックのようにコイン状のチップを取り出し空へと投げる。反射的にチップの飛んでいった空を見上げれば、チップはその形状を変えるとサッカーボールのような何かに変わり地面へと落ちていく。現代技術じゃ絶対に再現出来ない近未来的技術に目を見開くしか無かった。ボールが地面に接したと同時にアルファは上面につけられた赤い模様を足で踏見つけると、何かが作動し始めたのかボールが赤く光り始める。一体何をする気なのか、そんな考えが浮かぶよりも早くアルファは私達に向けてボールを蹴りつけた。「え、ちょっ、」「ッ、天馬くん!」なんの前触れもなく蹴り付けられたボールに私は反射的に顔を腕でガードするような体制をとるが、隣に居た天馬くんは驚いた拍子に足を滑らせ階段下に落ちていく。スローモーションのように見えた光景に体が勝手に動き出す。自分も巻き込まれたらケガをかもしれないとか、ただじゃすまないとか頭の片隅では冷静に私が私を止めようと説得してくるけれど、そんなものはすべて無視して手に持っていたカバンを投げ捨てると重力に唯一逆らうようにして伸ばされた天馬君の腕をつかんだ。それでもひ弱な人間がそこから華麗に助け出せるわけもなく、天馬君とともに中を浮くようにして落ちていく。そして地面と衝突する前に私たちはアルファの手によって光に包まれた。
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いつまでも来ない衝撃と、目を閉じてはいるけれど靴底越しに感じる地面の感触に恐る恐る目を開けた。最初に飛び込んできたのは澄み渡るほどの青空を優雅に泳ぐカモメたち。イナズマ町でカモメって見れたっけ…。照り付ける太陽の強い日差しと、その暑さに頭がぼーっとするがすぐに思い出す。そうだ…私たちはあの時…。そこまで来てハッと天馬君のことを思い出して彼は無事なのかあたりを見渡そうと横を見れば、天馬君もまた空を見上げて突然変わってしまった景色に頭が追い付いていないようだった。その姿に怪我はなさそうだとホッとしつつ、今度は違う理由で辺りを見渡した。ここはどこなんだろうか…全くわからない。でも目の前に広がる広大な海を見て少なくともイナズマ町ではないということだけは理解できた。全く記憶にない景色に頭を悩ませていると天馬君がもしかして、と反応を示した。聞けばなんと天馬君は幼少期沖縄で過ごしていて、ここはその沖縄なのかもしれないと説明してくれる。木でできた手すりから下を見下ろすと小さな小屋とその周辺にハイビスカスのような花。知識が浅いため申し訳ないが確かにその可能性が高い。けれどそれだけじゃなかった。「ねぇ天馬君…あそこにいる子って…」「っ…そんな、」奥から歩いてくる親子と思わしき女性と子供。それだけなら特に何も問題はない、けれど浮き輪を持って楽しそうに話す子供の顔は天馬君そっくり。いや、天馬君が思わずこぼした言葉を拾う限りあの子供は本人そのものだった。そしてもう一つ。「サスケ」聞きなれない名前に天馬君の目線の先を私も見る、よく目を凝らしてみればあの小さい小屋に所狭しと並べられた木材に挟まっている小さな子犬。もしかして今天馬君が飼っている犬なのだろうか…。私は天馬君のことをよく知らないため犬のことも、この沖縄で何が起こるのかもわからない。けれど天馬君の反応を見る限りここは天馬君の過去そのままを映しでしているようだった。現実ではありえないことが連続で起こり、まるで夢でも見ているかと錯覚しそうになる…。「これって…夢、なのかな…」「…いや…いや!これは夢なんかじゃない!」「理解しなくても良い」またこの声。いつの間にか私たちの後ろにボールを持って立っていたアルファは「受け止めるんだ、目の前で起こる現実を」と話す。そして「松風天馬、これよりお前にとってのサッカーは消滅する」とも。それはいったいどういう意味なのか、そう問う前に天馬君の母親の慌てるような声に私たちはまた小屋のほうに顔を向けた。子犬を助けたらしい幼い天馬君、けれどその拍子に数本の木材がバランスを崩し天馬君と子犬のほうに倒れてくる。私よりも大きい木材だ、当たったらひとたまりもない。そんな時、視界の端でサッカーボールが見えた。すぐにその方向を視界に移すとフードを深くかぶった少年が倒れる木材に向けてボールを蹴り付ける。そのフォームを私は知っていた。修也お兄ちゃんだ。昔から見てきたんだから間違いないし、何よりここが過去なら昔聞いた修也お兄ちゃんが一時的に沖縄に身を隠していたという時期とも当てはまるんじゃないか…。何となく天馬君がサッカーを好きになったきっかけが見えてきた。蹴られたボールは一直線に木材の法衣と向かっていく、このままいけば木材をはじいて天馬君が助かるかもしれない。けれど私はアルファの言った言葉の重さを理解していなかった。修也お兄ちゃんが蹴り飛ばしたボールはアルファのシュートで弾き飛ばされる。大きな音を立てて倒れた木材。その下敷きとなってしまった小さい体はピクリとも動かない。天馬君の母親の絶叫ともいえる叫びが、辺り一帯に響いた。その残酷ともいえる光景に言葉を失い、同時に気づく。空を飛んでいたカモメも、さざめいていた波も、天馬君を助け出そうとしていた母親も、この場にいる私たち以外何もかもが動いていなかった。「心配は無用だ、死んではいない。全治一か月…そんなところか」「なんだって!?」「そんな問題じゃないでしょ…!」「だがこれによってお前の中のサッカーは消えた」アルファが言い終わった瞬間、突然天馬君は膝をつくと苦しそうに頭を抱えてうめき声をあげる。慌てて天馬君の元に寄ってアルファに何をしたのかと叫べば「頭から不必要なものが無くなる、それだけだ」と淡々と返される。サッカーを消去するというのは今こうして目の前で起こったことのように、サッカーを好きになるきっかけの出来事をそのまま無かった事にするということなんだと今更ながらに気づく。植物のように根元を断てばそれ以上は成長しない、今の天馬君はその根っこすら立たれてしまった状態だった。「松風天馬の任務完了、続いて今井楓花の任務を遂行する」「…私にも天馬君と同じことをするの?」「…NO。お前の場合はいささか特殊すぎる。面倒ではあるが、まずは周りを消していかなければならない」「っ!」周りというのは十中八九守お兄ちゃんたちのことを指しているとすぐに分かった。確かに私がサッカーに出会う始まりは守お兄ちゃんからで、そこから縁が伸びて枝分かれをして修也あ兄ちゃんや有人お兄ちゃんとも出会うことができた。それをすべて今みたいに何もかも白紙に戻されてしまうかもしれない…。私の人生の半分以上の彩が正体もわからない彼の手で消されてしまう恐怖に天馬君の背中に添えていた手が小さく震える。「待てよ…!」頭を抱えていた腕を地面について天馬君はふらふらとしながらも立ち上がる。そして天馬君はサッカーに対する思いを根元から消し去られてもサッカーを忘れることなく「俺はサッカーが好きだ、大好きだ!大好きなものは絶対に守らなくちゃ!」そう宣言した。その言葉はアルファにとっても意外なものらしく、ここにきて初めて小さく動揺という感情を見せる。きっと想定していたよりも天馬君がサッカーに対して感じる思いが大きく、強く根付いていたんだろう。手すりに寄りかかり、足に力が入らないのか片膝をつく天馬君。それでもその目はまっすぐとアルファを捉えていた。けれどアルファは頬につけられた通信機器で誰かと通信を取り一つ返事をすると私を見て、そのあと天馬君のほうへと目を向ける。「この事態を解決する新しい方法が提案された。…場所を変えよう」それだけ言うとアルファはその不思議なボールに触れる。今度は青く光り始めたボールを軽く蹴り上げ、丁度私たちとアルファの距離の中間まで来たボールはぴたりと空中で止まり、またしてもボールは強く光ると遂には私たちもろとも包み込んだ。眩しさに顔を腕で隠せば次に感じたのはちょっとした浮遊感。腕をおろせばさっきとあまり変わらない景色、でも立っている場所は沖縄のどこかにあるサッカーグラウンドだった。「ここは…」「サッカーグラウンド…?」「実に適切な場所だろ」戸惑う私たちにアルファはそう言葉をかける。するとそんなアルファの後ろから突然何人もの人が現れた。私も天馬君も揃って驚きの声も漏らす。何もない空間から瞬間移動のように姿を見せた彼らの服装は一人の色違いを除けば全員アルファと同じ。場所といい向こうの人数といい、もしかしてと察したも尾はやっぱりあっていた。サッカー。「お前たちはサッカープレイヤーなのか?」「そんな次元の低い存在ではない。我々は時間に介入することが許された、ルートエージェント。タイムループし、サッカーというものがこの世から消えていくルートを生み出すのが我らの指名。」「サッカーがこの世から消えるルート…」「YES。サッカーは、我々が消去する!」言い終わると同時にアルファは天馬君に向かって強烈なシュートを蹴り付ける。天馬君はサッカーは消させないためにも、このボールを止めようと自分の化身「魔人ペガサスアーク」を出現させて真っ向から挑んだ。けれど化身はそれを受け止めきれずにかき消され、天馬君は吹き飛ばされてしまった。しかもあっさりと。天馬君は確かに化身使いになって日も浅い。でもホーリーロードに通用するほどの強さを持っていたし、有人お兄ちゃんの練習メニューで基礎の部分も申し分ないほどだったと思う。唖然とする私を残てして、アルファをはじめとするルートエージェント達はフラフラと立ち上がった天馬君を素早く囲む。そして天馬君を的にするようにしてサッカーという名前を被りボールを使った暴力が始まった。次々といろんな方向から天馬君を襲うボールを蹴るアルファ達はまるでパス回しでもしているよう。ボールが当たるたびに痛みからか声を上げる天馬君の姿は見ていられない。止めさせなくちゃ。「もうやめて!」天馬君を助けようと輪の中へ入ろうと走る。でも私が天馬君の場所へたどり着く前にアルファの蹴り上げたボールによって阻止されてしまった。私の顔すれすれを通るような軌道を描いたボールを前に私の足は反射的に止まる。邪魔をするようにボールを蹴ったアルファをにらむように見れば、感情を映さない瞳は「今はお前の番ではない。黙って見ていろ」とでも言いたげだった。それべも何とか天馬君の元へと足を動かすものの悉く他のルートエージェントに邪魔をされる。そんなことで足止めを食らってしまった間に天馬君は力なく地面へと倒れてしまった。そんな天馬君にどう感じたかとアルファが問えば、それが引き金になってまた天馬君は苦しみ始める。アルファの狙いはサッカーという名の暴力を天馬君にする事で、楽しいものという気持ちを恐ろしさで塗り替えてしまうことだと気づくがもう遅い。サッカーへの気持ちを強制的に塗り替えられそうになっている天馬君にアルファはとどめの一撃を喰らわせようとする。これ以上黙ってみているわけにはいかなかった。意識が二人に向いているルートエージェントのスキをついてその隙間を縫うようにして走り出し天馬君の前へと立つ。アルファのシュートを受け止めきれる自信はないけれど、私が壁になって別の方向へ飛ばしちゃうくらいはできるはずだという謎の自信は沸いてくるんだから、これには流石に私自身に呆れ返ってしまう。アルファは間に入った私を見ても動じることはない、もしかしたらこのまま二人ともいっぺんに相手したほうが効率がいいと計算したのかもしれない。振り上げられた足に覚悟を決める。けれどボールは私たちの間をすり抜けるようにして現れた少年に奪われたため不発に終わった。「サッカーは必要だ!そうでしょ?これは君の言葉だよ天馬」「え…」「あなたは…」「僕の名前はフェイ・ルーン。天馬達と同じサッカーを必要としているものさ」黄緑色でツインテールのような髪形をし、これまた近未来的な服を着た男の子はそう名乗る。そしてアルファに向かってサッカー勝負をしようと提案して、それに少しばかり食いついたアルファにフェイ君は指を鳴らした。パチンという音とともにフェイ君の服は赤を基調としたユニフォームに変わり、その背後には同じ柄のユニフォームを着た仲間が一瞬で現れる。またしてもな登場に天馬君と同じように目をぱちぱちと瞬かせることしかできなかった。その光景にアルファはフェイ君の提案を飲む。あれ、でも、フェイ君と天馬君を合わせても11人いかない気がする。そんな疑問にフェイ君を見れば目が合って笑顔を向けられた。無邪気な笑顔の裏に隠された真意にもしかして、という予感がよぎった。
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それぞれのベンチへと別れた後、またフェイ君が指をパチンと鳴らせば天馬君と私の制服が赤色のユニフォームへと変わった。自分がメンバーの1人になっていた事に嫌な気持ちになったり、なんで自分が...なんて思ったりもしなくて、ただあの笑顔はやっぱりこれだったか...なんて少しの納得感。ただ、足手まといになってしまうんじゃないか…っていうのが悩みくらい。そんな私以上に私がサッカーの試合に参加するということに驚いているのが天馬君で、私も参加するのかと心配そうな表情で聞いてきた。もしかして私の悩みのことを心配しているのかとドキリとしたものの、続いた言葉は私が怪我をさせられてしまうのではないかという私自身の安否に対する不安。こんな時に自分じゃなくて他人の心配をする天馬君の優しさに感動してしまう。なんて優しい子…このままの心で成長してほしい…思わずそんな親戚のおじさんのような視点で見てしまうが心の中だけなので許してほしい。大丈夫、一緒に頑張ろう。そう返すと天馬君はそれでも心配そうな、でもなんだかにじみ出てくるうれしさが隠しきれてない、なんだか感情がごちゃごちゃになった笑顔を見せる。「天馬なんだかすごい変な顔してるよ?」「え!?あ、いや…こんな状況だけど、楓花先輩とサッカーができるのが嬉しくて…」「そういえば前に約束したもんね」「なるほど」その約束は天馬君たちがまだホーリーロードで革命を起こしているときまで戻る。士郎お兄ちゃんのせいで神童君たちと、途中で偶然合流してしまった天馬君たち一年生に屋上で尋問という名の質問攻めをされてた時。その延長線で天馬君をはじめとする素直組としたものだ。革命の最中で、しかも決勝戦前後は問題も多く、こんな口約束は忘れているものだと思っていた。けれどこうして覚えていてくれた上に、嬉々な気持ちを表に出してくれるというのは私としてもなんだか嬉しい。それと天馬君の気持ちに同調して私たちとサッカーができてうれしいと話すフェイ君はまだあって数分程度の中ではあるもののアルファのように悪い人には見えない。「そういえばフェイ君は私がサッカー出来るって知ってたんだね」「うん。楓花さんの事もちゃんと調べたからね」減らりと笑ったフェイ君に思わず流されそうになったが、私はフェイ君に対しての信頼が大きいため喉元までせりあがっていた疑問を飲み込む。そんな私の気もちは伝わることなんて無く「準備もできたし行こう」とグラウンドへと入っていくフェイ君たちを私と天馬君は追った。その時に一応保険のために二人に向かってそっと心の中で伝えておく。化身なんてすごい物出せないからあまり期待しないでね。
それぞれが担当するポジションへと立つ。私のポジションはMFだったがそこを担当するデュプリが居ないのを見るとやっぱりフェイ君が言った言葉は本当みたいだ。アルファはサッカーの試合にはこういうのも必要なのだろうと、どこから連れてきた一般人の男性をグラウンドに召喚した。どこから拾ってきた知識なのか知らないがこういうのとは実況だったらしく、握らされていたマイクを通してブレインジャックをされてしまったらしい男性は最初の戸惑いが嘘のようなテンションで実況役を引き受ける。アルファは自分たちのチーム名は「プロトコル・オメガ」と名乗り、選手たちの名前も合わせて男性の頭にインプットしたと話す。たぶん自分の意識はないとは思うけれど、好き勝手付き合わされている男性には同情しかない。「お前たちのチーム名は?」「あ、そっか。即席のチームだからまだ名前がないんだよね。うーん…僕たちは…じゃあテンマーズだ!」「え!?」「て、てんまーず…?」「天馬のチームだから、テンマーズ。ぴったりじゃん!」どうしよう…フェイ君のネーミングセンスが想像以上になかった…。その独特とも言えるセンスにこんな状況だというのに、なんだか気が抜けそうになる。けれど過ぎにそれを引き締めて、初めての本気試合に深呼吸。フェイ君は天馬君に黄色いキャプテンマークを渡し最後の準備を整えれば、試合開始の合図の笛が鳴った。
化身を鎧のように身にまとって自身をパワーアップさせる化身アームドという化身すら出せない私にとっては正直勘弁してほしいとさえ思えるほどの力をアルファは使い、先制点を奪取されてしまった。一応これでも守お兄ちゃんたちとサッカーをしてきた身ということで、相手のスピードや、テクニック、あとそこそこパワーの方面でもMFとしてカバーできてはいたものの流石に化身をまとったアルファには敵わない。けれど圧倒的差がわかってしまったというのに、諦めや怖さよりも悔しいと思えるのは私がお兄ちゃんたちのような思考に染まっている証拠だろう。フェイ君のキープしていたボールがはじき出されたことによって試合は一時止まる「やっぱり、デュプリ8人はきついか…」「どうすれば…!」「大丈夫、間もなくだ」「え、うん…前半はもうすぐ終わるけど…」「それもそうだけど、僕が待っているのは別の事さ」別の事?フェイ君の言葉に私も天馬君も首をかしげるが「来るよ」と空を見上げたフェイ君。真似をするように私たちも不思議に思いながら上を見上げた。フェイ君はカウントダウンを口に出す。3,2,1…空に波紋が広がったかと思えば青と白のキャラバンのような車が登場。まって……。ここまでくると脳が処理をしようとしなくなる。がんばれ私の頭…。しかも追い打ちをかけるようなものがもう一つ。浮かんだキャラバンの運転席側の窓が開いたかと思えば、姿を現したのはもはや人の金地をなしてない生き物。いや、やっぱり生き物は撤回します。あれは多分ロボット子ぬいぐるみの類だと思う、なんで運転できてるのかとかそんなことはもう考えない。「えぇ!?」「わー…」「おぉ!天馬君に楓花ちゃん!ごきげんよう!」「熊!?や、やっぱり夢を見ているんじゃ…」「私もそう思う…」そして喋って、やっぱり私たちの名前を知っていたことについてももう考えません。この下手なSF映画よりSFし始めてきた現実に、昔河童はいたんだよと教えてくれたヒロトお兄ちゃんを思い出す。ヒロトお兄ちゃん私はそれを聞いたとき「わたしもカッパさんにあってみたい!」なんて言ったけど、なんか河童以上の何かに遭遇しちゃったよ…。見た目からはあまりイメージしづらい低い声で私たちに声をかけながら手を振る一見かわいらしい水色の熊(?)を見ながら私は現実逃避をするかのようにそんなことを思った。
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キャラバンから出てきた熊はどうやらフェイ君と知り合いのようで、二人は目の前の出来事に驚きが隠せない天馬君と理解することを半ば放棄した私を置いて「首尾のほうはどうだ?」「ちょっと苦戦中…」と会話を弾ませる。熊が流ちょうに話している事がいまだに信じられない天馬君にこっそり呼ばれあれは熊なのか何なのかとこっちもこっちで会話してみるが、やっぱりどう考えても熊がなぜ喋れるのか、そもそも熊じゃなくてぬいぐるみなのか、という問題は解決することはなかった。「やはりこの大監督、クラーク・ワンダバット様が居ないと駄目みたいだな」「え、監督なの…?しかもぬいぐるみだし…」天馬君は驚きを隠すことなくワンダバ(フェイ君がそう呼んでいたので、私もそう呼ぶ)のほうを指さして同意を求めるように私を見る。それにうなずく私。そしてデュプリの意見もと彼らのほうを見るとフェイ君が鳴らした指が合図となって彼らは登場とは違い、光の粒になって跡形もなく消える。さっきまで一緒に戦っていたチームメイトがまさかの人外であったことに私も天馬君も声に出して驚くしかない。ま、まさかこの調子でいけば、フェイ君も…?と疑心暗鬼に落ちかけるものの、フェイ君の話では彼らデュプリはどうやら化身のような類らしい。化身アームドといい化身の用途がこんなにも多いだなんて知らなかった。誰なんだろ、化身は都市伝説とか言った人…すごい実用性満載なんだけど…。
そしてワンダバは大げさな動きをして驚きを表現していた天馬君に、天馬君とサッカーの出会いの歴史は修正しておいたから安心してほしいと告げる。あの一連の流れを見ていた私にとってもその言葉は実感はないもののホッとする。どうやら過去を修正することは怪我の治療と同じで早ければ早いほうがすぐに治るらしい。当の天馬君は難しい話にあまり理解できてないみたいだけど。「ああ!それと頼んできたやつとってきてくれた!?」「もちろんだ。このワンダバ様に不可能はない!」「ほんと!?すっごいじゃん!早く見せて見せて!」うきうきとしたフェイ君に慌てなさんな!とワンダバは言うと素早くリュックのようなカバンを背負い、そこから伸びる+と-の模様がついた二つの銃をそれぞれ両手に持つ。そして-のほうの銃を誰もいない場所へと打つと出てきたのは弾ではなく強い光を放つ光線。打つ前に捕まえるのが大変だったと言っていたあたり何か生き物が出てくるのではないかと、感覚がマヒして慣れてきた脳で思う。けれどそこに姿をあらはしたのは生き物というにはあまりにも巨大で獰猛な生物。「こ、これって…」「恐竜!?」「ティラノサウルスだよ!」「ではフェイ!ミキシマックスだ!」「OK!」嬉々として両手を広げたフェイ君にワンダバは残ったほうの銃を向けて引き金を引いた。恐竜が出てきた時よりも強い光に思わず顔を覆てしまう。そして何が起こったのか確かめるために無理やり目を開きながらその行く末を見た。吠えるような叫びをあげた後のフェイ君の見た目は光が消えると同時に変わる。あの黄緑色の髪色も、青い目の色も、髪形も変わり、まとっている雰囲気もどこか変わった気がした。これがミキシマックス…。「ミキシマックスガンによって、僕の個性とティラノサウルスの個性が合わさったのさ。それがこの姿」「そ、そうなんだ」「なるほど…?」「そういうことなんだ」なんだかもっと深く突っ込みたいことはあるけれど実際今のフェイ君にはさっきまで目の前に存在していたティラノサウルスをどこか発想させるような見た目になっている。まぁ多分すごい物なんだろうな、なんて雑な理解をしておく。そろそろ試合をしなんと川。なんていうこの人本当にコントロールされてるのかと疑いにかかりそうな、冷えるギャグが入った指示でまた私たちはそれぞれのポジションにつき、フェイ君は枠埋めのためのデュプリを召喚させた。
正直あんな雑で大雑把な理解しかしていなかったため、まだいまいちミキシマックスの効力を分かっていなかったが今目の前で起きているものを見る限りミキシマックスは私が思っていたよりもすごい物だった。フェイ君のキックオフで後半戦が始まると早々にデュプリ同士の素早いパスでボールはまたフェイ君の元へと運ばれる。そしてミキシマックスしたフェイ君は相手チーム3人をいっぺんに吹き飛ばしたのだ。さっきまでの動きとは格段に違うものだった。フェイ君はいったん天馬君にパスをする。最初は敵チームの動きに翻弄されていた天馬君も心を落ち着かせて集中しろと助言したフェイ君の言葉のおかげか、敵の間をすり抜けるようにかわし、一瞬奪われたボールも必殺技で切り抜ける。「凄いじゃん天馬!」「うん!」けれどこのままボールを持ち続ければ天馬君のほうに敵は固まり始めるし、今フェイ君に対しても守りが固い。なら私のほうにいったん経由させてそのすきにフェイ君には抜け出してもらおう。「楓花先輩!」前へと走る私に気づいて天馬君は敵チームに囲まれる前にパスをして渡してくれる。あとからそっちにパスを送るから、という意味でフェイ君に一回目配せをしてから前から走ってくる敵を見据える。大丈夫、私ならできる。お兄ちゃんたちから教えてもらったことを頭に浮かべながら私は久しぶりに必殺技を使った。ダンッと力強くボールを踏めば、ボールは不思議なことに地面に潜っていく。私たちの周りはいつの間にか青空が消え、緑が消える。代わりに現れたのは不気味な色をした空と下からせりあがってくる岩肌、その光景にあっけにとられている自分が立つ地面に亀裂が入り、光が漏れ始めていることに気づいてない。「クルキガル・イル・カルラ」地面からボールと幾本もの赤く輝く光の柱が敵選手を吹き飛ばしながら勢いよく飛び出し、空を貫く。自分がやったものであるにしてもやっぱり毎回痛そうだな…と思いながらも空高く舞うボールを足でゲットして地面へと着地する。フェイ君を見れば、私の意思が伝わったのか、敵を振り切るようにゴールへと向かう姿それに安堵しつつも素早くフェイ君へとパスをした。ボールを受け取ったフェイ君は、ティラノサウルスとミキシマックスしたからか、前半では見せなかった新しい必殺技「王者の牙」でシュートを打ち、遂に同点へと持って行った。ホッとした安心と嬉しさ。けれどそれはすぐに落ち着かせる、まだ試合は終わっていないしきっと向こうはまた化身アームドをしてくる。
私が予想していた通りアルファは試合開始早々に化身アームドをして攻めてくるし、さらに言えば止めに入ろうとした私や天馬君を他選手の必殺タクティクスで動きを封じた。アルファが放ったシュートを止められるはずもなく同点だった点数はまたしても離れていく。試合がまた止まった時、フェイ君は地面に片膝をついた。その表情は疲れ毛にじんで見える。「大丈夫?」「デュプリ8人はさすがに消耗が激しいんだ」「そっか、化身を出しているようなものだもんね…」「うん。…でもやるしかない」立ち上がったフェイ君の
覚悟のある言葉に、彼の心配がありながらも私たちはうなずいた。笛が鳴り試合が再開される。天馬君からボールを受け取ったフェイ君は勢いをあげながらドリブルして前にどんどん出ていくが、それを化身アームドしたままのアルファが止めに入る。ミキシマックスと化身アームドの力のぶつかり合いは両社とも互角で、ボールは二人の間にルーズした。そのままにらみ合う二人だったが、アルファが突然また誰かと連絡を取り合うようなしぐさを見せる。一体誰と通信しているんだろう…。それが終わるとアルファに近づいたチームの一人と何かを会話したかと思えばプロトコル・雨がは試合の最中だというのに全員どこかへと歩いていく。「どうしたんだアルファ」「この試合、中止する」突然の中止発表に私たちもコントロールされていた審判も驚くが、審判はどこかに消され…いや、きっと元居た場所に戻されたと信じたい…。そしてミキシマックスを解いたフェイ君だけは「棄権ってことで僕たちの勝ちだな」なんてにこやかな笑顔を作りながら言う。それにアルファ達が返事を返すことはなく、いつの間にか現れたUFOのような円盤へと消えると、その円盤もまた空に穴をあけるようにして消えていった。さすがにもう円盤関連では驚かないが、今新たにもしかして実は宇宙人だった説が出てきてしまった。…ここでリュージお兄ちゃんたちを思い浮かべた私はきっと悪くない。「フェイ!ねぇ教えて。今何が起こっているの?サッカー部は、サッカーはどうなるの!?フェイ!」「私からもお願い…」私たちの問いにフェイ君は頷くととりあえず場所を移動しようと言い、グラウンドから人目のつかない海岸へと場所を変えた。そこで聞いた話はやっぱりSFといっても差し支えない内容で、まず最初の一つ目で自分たちは今から二百年後の未来から来た。その言葉にこれから聞かされる近未来的話を覚悟する、がんばれ私の脳。フェイ君が持っていた不思議な投影機を使って説明された内容は私が思っていたよりもすんなりと入っていった。というよりも、あの自分以外がサッカー部を忘れてしまった日々に理由がついたからなのかもしれない。パラレルワールドの原理、自分たちは雷門サッカー部が消されたパラレルワールドにいる子と、エルドラドという敵組織の名前、なぜサッカーを消そうとするのか、彼らはサッカーを忌み嫌っているくせにサッカーができるのか…ほかにもいろいろな説明を受けたけれど、大きく分ければこんな感じ。最後のフィフスセクターのやり方は特に天馬君は受け入れがたいと思えるようなもので、サッカーは楽しい物なのに…と悲しそうにつぶやく。「そう。サッカーは楽しいものだし、人にとって必要なものだ。だから僕らはやってきた君たちを救うために」「フェイ…君はなぜ」「未来にも君達みたいにサッカーを愛している人がいるってことさ。僕にだってサッカーは必要だから」「フェイ…」「だから僕は天馬達と一緒にサッカーを守るよ!」「ありがとうフェイ!」天馬君に手を差し伸べ、屈託のない笑顔を浮かべるフェイ君に天馬君は同じように笑うとその手を取って握手を交わす。この思考はきっと場違いなんだろうけど、男の子同士の友情というものに微笑ましさを感じていればフェイ君は次に私のほうへと体を向ける。「楓花さんも」と言って向けられる笑顔の何て眩しいことか。私にも来るとはあまり想像していなかったため少し焦ってしまいそうになるのを頑張って抑え、握手に応じた。「あ!そういえば楓花さんに聞きたいことがあったんだ」「私に?」「うん」フェイ君が言うには私がサッカーにかかわるようになったきっかけは確かに特殊ではあったけれど、エルドラドの影響は私にも平等に降りかかる可能性が極めて高かったということらしい。天馬君に関して言えばパラレルワールドが発生した原因の雷門中という場所から遠く離れていたため影響がほとんどなかったというのと、フェイ君たちが途中で手をまわしていたという二つの点から覚えているのは必然ともいえる。でも私は違う。フェイ君たちも最初は私が天馬君と同じですべて覚えていた人間だったというのにとても驚いたようだ。「だから僕らが気づけなかっただけで、何かきっかけとなることがあったんじゃないかと思ってね」「…きっかけ」「そう。些細なことでもいいんだ。なにかなかったかい?」「って言われてもな…」目を閉じて思い出そうとする。サッカーに関係あるもの…。守お兄ちゃん?いや、でも…考えても考えてもそれらしいことがない。やっぱり私が影響を受けなかったのは単なる偶然だからフェイ君たち未来人でも予測できなかったのではないか。とそこまで来て止まる。未来人。あれ、私は…。ぼやけにぼやけまくった頭の奥のほうで誰かのシルエットが見えた気がした。私は、一度…「あ」「何か思い出した?」「思い出したって言っていいのかわからないんだけど…。多分、私は前に、フェイ君たちじゃない未来人にあったことがある…」「ええぇ!?」「それはほんと?」「うん…多分…。確か、サッカーで…いや、サッカーを…?」それにサッカーが絡んでいるのは確かなはずなのにそれ以上はどう頑張っても思い出せない。霧の向こう側に答えがあるはずなのに奥へ進めば進むほど霧が濃くなっていっているような気がした。これ以上は思い出せそうにないとフェイ君に言えば、彼は考えるそぶりをした後気にしないでと笑った。「うん、うん、何となく見えてきた。ありがとう楓花さん!」「えっと、どういたしまして…?」「よし、疑問も解決したし行こうか二人とも!」私が気になるんだけどなー…と思うものの霧の中の記憶は自分の役目が終わったと察するとまた頭の奥へと消えて行ってしまったため、さほど好奇心が上がることはなかった。一体どこ営くのか天馬君が問うと答えが返ってくる。雷門中サッカー部を取り戻すため、まずはサッカー部が結成される11年前…守お兄ちゃんが雷門中に入学した日にタイムスリップすると。さらに追加でこの世界は雷門サッカー部を作る段階でインタラプトに遭い、その歴史を変えられてしまったとも説明された。つまりその時代に私たちが向かって、正しい歴史に戻すということ。説明が終わったタイミングでワンダバが操作するキャラバンが空から登場し、それにやっぱりあっけにとられながらも私たちはその中へと乗り込んだ。
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タイムマシーン、詳しく言えば時空間転移装置の中は思っていたよりもいい意味で普通な内装をしていた。もともと雷門中にあった雷門キャラバンを参考にして作られたらしい車内は想像していたよりも広く、大人数が座れそうなほど快適な設定になっているようだ。その中でフェイ君たちからタイムスリップするためにアーティファクトという名の道しるべが必要になると聞かされる。強い思いの力が入ったアーティファクトがないとタイムジャンプは失敗してしまうらしい。「じゃあ11年前に行くには何が必要なの?」「サッカー部が作られたときの思いが詰まったものだ」「二人は何か思い当たるものある?」「うーん…」二人して思い当たりそうなものを考える。守お兄ちゃん達の思いがこもったもの…、今使われてる場所は昔とは違うんだよな…。ふとそこまで来て思いつくものが一つ。「あ!」と声をこぼせばどうやら天馬君も思いついたらしい。「サッカー部の旧部室!」「そうですよ!あそこは円堂監督が初めてサッカー部を作った場所なんだ!なにかあるかも!」やっぱり考えは一緒で、私たちの意見を聞いたフェイ達は頷くと時間は変えずに空間だけ移動して雷門中へと連れて行ってくれた。その感覚は本当に一瞬。流石近未来の乗り物…。雷門中に到着するとすぐに休部室へと向かうが、その見た目は私たちが知っているものとは違った。戸惑いを隠すことなく扉を開けてみればよく分からないものが大量に入った段ボールの山。サッカー部が存在しないこの世界ではどうやら休部室は物置替わりらしい。「円堂監督は自分たちが来るずーっと前からあったって言ってた。だからきっと、何かあるはずなんだ」「…よし!それじゃあ大変そうだけどさがそっか」「はい!」「うん!」重い段ボールを運びながら外と中を行ったり来たりを繰り返す。一回天馬君が足元の小物につまずいて、そのまま段ボールの山に突っ込んでしまい、ついでに誇りも大量に巻き上げられたという大事故が引き起こされてしまったものの作業は結構スムーズに進められた。「ゲホッゲホッ」「天馬君大丈夫?」「はい…っ」「ほんとにここにあるのか…?」いまだ舞う誇りに苦しめられつつ何とか床が見える範囲になった。けれどサッカー部に関するものは見当たらなくて、ワンダバが不満げに言葉を漏らす。けれど、残り少なくなった段ボールをどけた天馬君のたんまの声にみんなの意識が向いた。嬉しそうな笑顔と少し遠くにいた私を呼ぶ喜びの声に駆けよれば、手に持っていたのはサッカー部と書かれた木の板。フィフスセクターに入っていたころのやさぐれていた剣城くんに割られる前のそれ確かにあの看板だった。それが無事見つかったことを全員で喜ぶと早速この看板をキャラバンへと持ち帰った。アーティファクトに看板をセットしてワンダバは運転席に、私たちは他の座席絵と座りシートベルトを締めた。「うまくいくかな…」「う…なんだか私も緊張してきた…」「なんとかなるさ!でしょ」「そ、そうだね」ガチガチに緊張する天馬君の緊張が私にも移ってしまい、失敗したらどうしようと悪い方向に考えてしまう。けれど私たちとは違い乗りなれているっぽいフェイ君は天馬君の口癖を借りて私たちを励ます。うん、うん、そうだよね…何とかなるよね…。ゆっくりゆっくり自分を落ち着かせる。よし行くぞ!ワンダバの合図で私は人生でもしかしたら二回目となるタイムスリップを経験した。
不思議な空間を通っ手出てきた世界で初めて見えたのはピンク色に染まる綺麗な桜たち。
「ここは…」「円堂守が初めて雷門に登校してきた日のはずだ」「きれいな桜…」「まったくだ」満開の桜の向こう側は青空が広がっていた。キャラバンを人目のつかない場所へと隠して私達は雷門中正門の道を挟んだ向こう側で木に隠れながらこっそりと守お兄ちゃんが来るのを待つ。...思わず流れで1本の木に全員が隠れちゃったけど、これは逆に目立つんじゃないかな...。幸いな事にこの時代の生徒達は新学期、入学式、というウキウキ気分に浮かされて私たちに気づくことは無い。バレたら即通報されてしまう...そう危惧していると、見つけた。遠くから走ってくる懐かしいその姿を私は忘れることは無かった。「天馬くんあれあれ...!」「あっ、円堂監督!」「いいや、監督どころかキャプテンにもなっていない。それどころかサッカー部にすら入っていないよ」「サッカー部じゃない円堂監督か〜」何も肩書きが存在しなかった頃の守お兄ちゃん。っていうのも何だか新鮮な感じがする。これから守お兄ちゃんが中心となって雷門サッカー部の歴史ができるのか...なんて天馬くんと一緒な事を思うものの、フェイ君が警戒している通りこのまま何事もなければの話である。無事終わって欲しいという思いを今一度抱えながら私達は守お兄ちゃんにバレないようにしながら後を追った。フェイ君たちはともかく私と天馬くんは多少雰囲気が違えど雷門の制服という事もあり、まだ古いままの校舎内にも入る。職員室でサッカーがまだ存在しないことを告げられて驚く守お兄ちゃんと、その驚きの声につられて同じように驚く天馬くんの口を慌てて塞いだり、場所は変わってサッカー部を始めるために秋お姉ちゃんと一緒にあの旧部室を掃除しているところを小窓から見たりしてその様子を眺める。本人達からサッカー部のできた時の話とかその後の話とか、修也お兄ちゃんがまだ入部する前の話を聞いてはいたけど、実際この目で見ていると今の現状を忘れて何だか感動してしまった。「ここから始まるんだ。雷門の歴史が…!」「うん…!」「だね」そのまま二人が掃除しているところを見続けていれば、ついにあの木の看板を発見していた。説明と私自身の記憶でこの時代と私たちの時代は過去と現在でつながっている理解していたけど、やっぱり目の前で今につながるものを守お兄ちゃんたちが見つけて、あのサッカー部が始動始めるのを見ていると自然と口元がほころんだ。
結局夕方になるまで何かが起きることもなく私たちは守お兄ちゃんたちが飼える背中を追っている。家までついてしまえばきっと無事に終わるし、守お兄ちゃん達には危害が加わることがないと安心できるんだけどな…。「秋ねぇも円堂監督も若いんだ…」「だって11年前だもん」「天馬君、楓花ちゃんあの二人は付き合っているのかい?」「ワンダバ…そういうことはさ…」ワンダバの少し下世話な質問に戸惑う天馬君の代わりに素早く違うと返しておく。昔…まあ私たちが今ここにいる時代であれば、秋お姉ちゃんは片思いをしていたんだけど、守お兄ちゃんが超鈍感なせいで気づいてもらえてない。とかこっそり話したのかもしれないが、今秋お姉ちゃんは一哉お兄ちゃんっていう素敵な恋人がいて、守お兄ちゃんには夏未お姉ちゃんっていうきれいな奥さんがいるた余計なことは言わない。お口チャック。そんな感じで意識がワンダバに向いていたせいでサッカー部ができたらやりたいと夢を語っていた守お兄ちゃんの言葉を真っ向から無駄だと切り捨てる否定に反応が遅れてしまった。阿古をあげて慌てて守お兄ちゃんのほうを見るといつの仁賀あの時あったアルファを含むプロトコル・オメガが二人の道を阻むかのように立っていた。「サッカー部はできない確実に」「どうしてそう決めつけるんだ?わかんないだろ、サッカー部は作れるさ。本当にサッカーが好きなやつが集まれば!」「サッカーが好きなやつなどいない」「…いない、何言ってんだ!サッカーが好きな奴ならいるぜ。ここにな!」相手が突然現れサッカーと自分の気持ちを否定するであろうと、今と変わらないサッカーに対する熱い思いを貫く守お兄ちゃんはやっぱりかっこよかった。秋お姉ちゃんが惚れてしまったのもよく分かる。間もなくサッカーが嫌いになると告げるアルファに守お兄ちゃんは一歩も引かずに嫌いにはならないと突っぱねた。そのやり取りだけでアルファ達
が天馬君にした暴力と同じことをしようとしているのだとすぐにわかる。あきれを含むその一言で会話を終わらせるとアルファは足元にあった例の不思議なボールのボタンを踏む。私たちの時と同じように光が広がっていく光景を私たちはただ見ている事なんてしない。守お兄ちゃんたちを包み、どこかへと連れ去ろうとする光が消える前に私たちも急いでその中へと飛び込んだ。
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光が明けてたどり着いた場所はどこかのサッカーグラウンド。夜という時間帯と、私たち以外誰もいない静けさは何とも言えない不気味さを放つ。ここはいったいどこなのか不思議そうにあたりを見渡す天馬君にフェイ君はこの場所はフットボールフロンティア会場だと答えた。人っ子一人いない会場は私の記憶にあるものとなんだか違うように見えて、思わず小さな驚きのようなものがはいた息とともに出ていくが、今はそんなことをしている暇ではない。突然見知らぬグラウンドに立っていた現状と、アルファに突然申し込まれた試合に呆然としている守お兄ちゃんたちのところへ天馬君が駆け寄っていく。私も本当は行きたいけれど、今この状況で近づいてへまをやらかしてこれ以上混乱させてしまうなんてことしたくなかった。
天馬君の説得ともいえる説明と守お兄ちゃんの「サッカーが好きな人に悪い奴はいない」精神が功をなした。アルファ達に天馬君の意見を糺し、サッカーを消そうとしていることを事実だと確認した守お兄ちゃんは怒りに燃えてサッカーで勝負することに同意する。けれど勢いよく啖呵を切ったはいい物の、私とフェイ君たちが視界に入っていないお兄ちゃんは自分たちの人数が圧倒的に少ないことを思い出して、困り始める。言った後に悩み始めるのは昔から変わっていないな…。「ごめんねフェイ君、お願いできる…?」「ふふっ、もちろん任せて!」僕は君たちに力を貸すために来たからねと笑うとフェイ君は指を鳴らす。その瞬間私とフェイ君の衣装はユニフォームへと変わり、後ろに出現したのはあの時試合をやったデュプリ達。ただ今回は守お兄ちゃんがゴールキーパーを担当するからか8人ではなく7人に減っていた。「大丈夫!」頭を悩ませていた守お兄ちゃんに、ここで初めてフェイ君が声をかけた。「ほかのメンバーはここにいるよ!」「みんなサッカーが好きな仲間です」「そっか!……あれ、あの子は…」この時代すでに守お兄ちゃんとの出会いを果たし終わっているため今3歳にもなっていない今井楓花という人物が14歳になって未来から来たなんてわからないはず、と高をくくっていた私と守お兄ちゃんの目がばっちり合う。そりゃぁばっちりと。変に勘のいいお兄ちゃんだ、もしかしたら気づいてしまうかもしれないと内心冷や汗がだらだら垂れる。「あぁ!あの人は楓、」「藤丸です!よろしくお願いします!」天馬君の親切心に被せるようにして咄嗟に吐いた名前は母方の苗字だった。どうして本名とは違う名前を言ったのか理解できていなさそうな天馬君にあとで謝ろうと申し訳なさを感じつつ、今はお兄ちゃんたちのことだとニコリと笑顔を作る。それでもどこか違和感を感じたのかムムムと顎に手を置いて、どうしたのと不思議そうに聞いた秋お姉ちゃんの問いにあいまいに答える。けれどやがて、気のせいだと思ったのか「やっぱりなんでもない!」と笑うとその笑顔を私に向けて「よろしくな!藤丸!」といつもの調子に戻ったため、危なかったと安どの息を心の中で吐きつつ頷くのだった。これこれこうだと私が考えている事を天馬君とフェイ君にこっそりと打ち明ける。天馬くんは納得してこの時代にいる間は私の事を藤丸先輩と呼んでくれる事になったがフェイは最後までどこか納得してないようで首を傾げる。「楓花さんちょっと聞いてもいい?」「ん?」天馬くんが守お兄ちゃんの方に走っていったため周りには誰もいない。フェイ君が感じてた疑問はこの時代で自分達がアルファ達に勝利して正しい歴史へと戻し元の世界へと帰れば、修正された影響で私達とアルファ達の事もこの出来事も守お兄ちゃん達の記憶からは消えるため、私の正体がバレたとしても特に影響はない。そんなちょっと初耳も含まれたような内容。記憶ちゃんと消えるんだ...。「うーん、でも出来ればこのままでお願いしたいな」「どうして?」「だって守お兄ちゃんただでさえ今の状況に着いていけないのに、さらに「久しぶり未来から来た楓花です」なんて言った暁には、情報過多で倒れるかもしれない...」「流石に大丈夫だと思うけどな...」苦笑いのような笑みを浮かべるフェイ君だったが、彼は優しくて私の気持ちを汲んでくれる。ありがとうフェイ君...。昔から守お兄ちゃんは自分で気づいたり考えたりする分には平気なのに、誰かに言われたり気付かされたりした情報は多ければ多いほど頭の機能が停止するパターンの人。無いとは思うが頭が働かないまま試合をさせたら一大事なのだ。そんな心配を察したのかフェイ君はまた「多分大丈夫だと思うけどな」と先程と同じような言葉を小さく呟いて自分のポジションへと向かう。繰り返し言われた言葉に私が心配しすぎているだけでもしかしたら守お兄ちゃんなら普通に受け止めて笑うのかもしれない、なんて今更の事を考えつつグラウンドの中へと入った。
またしてもあの時と同じように連れてこられていた男の人が実況を担当する。「さぁ皆、サッカーやろうぜ!」ゴールを守るお兄ちゃんの言葉が会場内に響きわたった。まだキャプテンですらないはずなのにこのフレーズで仲間を鼓舞するその姿勢はこの頃には既に出来上がっていたらしい。実況者の笛で試合が始まった。この時代にであったアルファ達はあの時出会った彼等ではないと事前に聞いていたはずなのにアルファ達はデュプリがフェイ君から生み出された化身の1種だと言う情報を耳にしたのか素早すフェイ君を囲み、その視界を塞いだ。そしてボールを持っていたアルファは得点を奪いに行くでもなく、私や天馬くんを無視してそのボールをわざとデュプリに蹴りつけて間接的にフェイ君を苦しめる。また天馬くんにした時のような暴力だった。「待てよ!サッカーは...サッカーはそんなんじゃないぞ!」アルファの卑劣とも言えるやり方に守お兄ちゃんは怒りを露わにする。サッカーを愛しているからこそ、サッカーは他人を痛めつけるものでは無いとゴール前に佇むアルファに叫ぶ。そして自分に対してシュートを打ってこいと告げたのだった。まだサッカー部ができる前のお兄ちゃんからの挑戦とも言ええる言葉は正直聞いてるこっちがハラハラしてしまう。特にアルファの実力も知っているため心配は加速だ。けれど守お兄ちゃんはサッカーは人を傷つけるための物ではないという至極まっとうな啖呵を切り、自分と同学年であるからか感化を受けた天馬君はそれに続くようにして「サッカーが悲しんでる!」とアルファのやり方を真っ向から否定した。本当にこういうところはよく似ている。「ボールだってそんな風に使われて、泣いているぞ!」「サッカーは滅ぶべきもの。よって円堂守、サッカーによってお前自身が滅ぶ。これより円堂守のインタラプト修正を行う」結局二人の言葉はどれもアルファに響くものはなく、彼は淡々と任務遂行のため守お兄ちゃんに向けて強烈なシュートを撃った。今の守お兄ちゃんはまだ帝国とも戦ってないから一つも必殺技は持っていない。しかも持っていたとしても天馬君の化身も打ち消したほどのシュートを止められる保証なんてないんだ。守お兄ちゃんを信じているけれどこの状況は誰から見ても格差がありすぎた…。けれど絶対にこのシュートを止めて見せるという守お兄ちゃんの気持ちからか、歴史の流れから考えて起こりえない奇跡が起きた。「ゴッドハンド」秋お姉ちゃんや有人お兄ちゃん、そして本人である守お兄ちゃんたちが話していた内容ではこの必殺技は帝国との練習試合で始めて出すことができた必殺技なんだと記憶していた。今のお兄ちゃんたちはその練習試合が行われる一年ほど前だというのに何で…。繰り出されたゴッドハンドはアルファのシュートを止める。試合の最中だというのに自分の目の前で起こった光景に私は言葉を失い、目を見開くしかない。この土壇場で出された必殺技には流石のアルファも驚きを隠せずにいるし、フェイ君たちも驚愕しているようだった。「って止めた?……できた!とうとうできたぞ!」「…さすが守お兄ちゃん…」昔から練習していたゴッドハンドが完成したことに喜びの声を上げる守お兄ちゃんに言葉が零れ落ちる。ベンチにいたワンダバのパラレルワールドの共鳴現象が引き起こしたものという説明を小耳にはさめば、なおのこと流石としか言いようがない。もしかしたら勝利の女神はこちらに微笑み始めているのかも。「よし!今ので流れはこっちに来ます!フェイ!藤丸先輩!デュプリのみんなも広がって!反撃行くよ!」「行くぞ!」
守お兄ちゃんが大きく蹴ったボールはそのまま私がいるところへと飛んでくる。それも足でキャッチすればすぐにボールを奪おうとプロトコル・オメガの選手は走ってくる。このボールは絶対につなげないといけない。「クルキガル・イル・カルラ」で突破して素早く天馬君のいるほうへとパスを出す。後ろから「凄いぞ!藤丸!」と私をほめる言葉に思わず後ろを少し振り返れば守お兄ちゃんはわたしに視線を合わせて太陽のような笑顔を見せる。思わず緩んでしまった顔に気づいて慌てて軽くお辞儀して前へと戻る。昔からお兄ちゃんたちに、特に守お兄ちゃんに褒められるのが嬉しくてたまらない。きっとばれてはいないはずだと慢心しながら湧き上がる喜びを噛みしめた。天馬君がいる方向へと飛んで行ったボールは、僅差で奪われてしまう。パスで別の人へと渡され、ボールとの距離は開く。けれど天馬君は今まで見たことのない速さでその背中を追いかけ、前回の試合で見せた「ワンダートラップ」でボールを見事奪い返した。成長が早い子だとは思っていたけどさすがにこれは早すぎる。…ということは残り考えられるのは一つしかなかった。敵ゴールへと向かう天馬君をそのままにしておくはずもなくすぐさま敵二人が行く手を阻むものの、そこは「アグレッシブビート」で突破してフェイ君へとパスをする。このままフェイ君がシュートを撃つのだと勘違いしたテクがフェイ君に対してのガードを固くするがこれはおとり。フェイ君はすぐさま天馬君へとボールを返し、天馬君は「真マッハウィンド」でゴールを決めた。シュートを決めれたことに喜びフェイ君とハイタッチを交わす天馬君の後ろ姿に凄い凄い!と心の中で拍手して祝う。でも後で直接ほめよう…そう思いながら自分の立ち位置へと戻る。次は先制されたプロトコル・オメガからのキックオフ。再開早々ボールを受け取った一人がロングパスを守お兄ちゃんがいるゴール前へと出し、アルファへとつなぐ。受け取ったアルファは間髪入れずに今度は見くびることなく必殺シュートは放った。化身アームドした状態ではないにしろシュートの威力は強い、ゴッドハンドで受けきれるのか…。そんなことを考えてしまったがどうやら私の心配ははなっからいらないものだったみたいだし、共鳴現象で引き起こされるのはゴッドハンドだけではなかった。守お兄ちゃんの体を黄色く輝くオーラが包み始める、そして瞬間。そこに出現したのは普通の歴史からは考えられない存在「魔人グレイト」普通なら使えるはずのない化身の姿だった。そして化身を使った新しい必殺技「グレイトザハンド」はアルファの必殺シュートを受け止める。勝利の女神はもしかしたら微笑んでるどころの騒ぎではなかったんじゃ…。常図ねそばで見ながら勝利の女神に好かれているとは思っていたけどまさかここまでとは。驚きはもう一周回って嬉しさのような感情が巡る。今こんな状況じゃなかったら守お兄ちゃんに飛びついていたかもしれない。この勢いのまま行けばこの時代は元に戻って、サッカー部の歴史もつながる…神童君たちも元に戻る。天馬君も同じように考えたのかこのまま押し切ろうと指示を出し、試合は始まる。けれどデュプリからパスを受けたフェイ君は敵のマークにあい、ボールをサイドラインに逃してしまう。明らかに疲れが見えるフェイ君は自分も動いて、デュプリも動いているのだから消耗は誰よりも激しい。それをどうにかしたくても人数は圧倒的に足りない、フェイ君を気遣いながらどうすればとまゆをひそめた時客席から声が響いた。「俺も入れてくれないか?」その姿は遠さと暗さで詳しくは分からない。けれど格好的にアルファ達の見方ではないように思えた「…剣城?」「え…」隣にいた天馬君のつぶやきともとれる言葉にそれは本当なのかと目を細めるようにして凝視する。確かに背格好は剣城くんに似ている気がする。けれどこの時代は11年前、剣城くんはいたとしても2歳になっているかもしれない、そんな程度だ。でもあそこにいる彼はどう見ても私よりも年上。一体何がどうなっているのかわからなかった。
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グラウンドに降り立った彼は私の記憶にいる剣城くんとはやっぱり似ているようで違う気がした。けれど天馬君は剣城くんだと認識して嬉しそうに駆け寄る。私たちはその光景を目で追いかけるが、なんて言うのか…見れば見るほど剣城君ではないと示す要素は強くなる。声質とか背丈とかまとう雰囲気とか目つきとかそんな感じ。それはさすがの天馬君でも感じ取ったようで、途中で足を止めた。剣城と呼ばれた彼のほうも天馬君の知っている剣城ではないと話し、自分を剣城くんの兄剣城優一と名乗った。なるほど剣城君のお兄さんだったのかそれなら今まで感じていた違和感に説明がつく。…代わりに新たな疑問が抱てきたけど。優一さんの姿を遠目で見ていた守お兄ちゃんは突然現れた彼を不思議そうに眺め、誰なのかと不思議そうにつぶやく。その答えとしてフェイ君はパラレルワールドから強い助っ人が来たと簡単に説明するものの、サッカー以外に関しては疎い守お兄ちゃんはやっぱり訳が分からないといった感じだった。まぁ疎くない人でもきっと混乱するだろうから無理もないけど。そして向こうでの話し合いは終わったのか監督であるワンダバがここで選手交代を宣言した。10番を背負っていたデュプリと変わるのは当然優一さんだ。よかった、これでフェイ君の負担も少しは減らせる。「初めまして、今井楓花です。ここでは訳あって藤丸と名乗っているので、そちらでよろしくお願いします」「こちらこそ。聞いていたかもしれないが剣城優一だ。その訳は何となく察しているよ要望通りここでは藤丸さんと呼ばせてもらうよ」「すみません、ありがとうございます」剣城君とは違う優しさを持つ優一さんに頭を下げれば「いいんだよ」と笑顔が返ってくる。うわ〜…同じ剣城なのになんて柔らかい笑顔なんだ…。剣城君に失礼すぎることを思わず思ってしまったことに反省して、ここにはいない彼に謝る。天馬君は優一さんと一緒にサッカーができることを喜び、それに優一さんも自分もだと同調し、それにあの人と一緒にプレイできるだなんて…と付け加える。優一さんの視線の先には守お兄ちゃん。そっか、守お兄ちゃんはサッカー界の伝説って呼ばれてる人だもんな。毎回忘れそうになるそのすごさを再確認する、当の本人はこんな話がされていることに気づいてはいないけれど。そして優一さんが入った状態で試合は再開された。プロトコル・オメガのボールとしてスローインされて、敵はそれを受け取るがすぐに優一さんによって奪われた。そしてそのまま必殺技を使うことなくプロトコル・オメガの選手たちを華麗に抜いていく。もともと剣城君の兄ということもあり勝手にサッカーが上手い人だと想像していたが、そんなちゃっちなものではなかった。そのプレーの巧みさに私を含めて、フェイ君たちも目を奪われる。優一さんの隣についた天馬君に優一さんは化身を出すようにと指示を出すと、自分も秘められた能力、化身を召喚した。「魔剣士ペンドラゴン」優一さんが化身を出したこのにも驚きだというのにさらにはあの化身アームドをも披露して見せる。どれだけハイスペックなんだ…。さらには天馬君もフェイ君に君にもできる!と背中を押され、なんとかなるさという言葉通り遂に化身アームドを成功させた。もしかしたらこれも共鳴現象が力を貸したのかもしれない。けれどそんな二人の前には自信の指名を全うするために化身アームドをしたアルファが立ち塞がる。優一さんは構わずボールをゴール前に上げて、天馬君と共にシュートを放った。その強烈なシュートは化身アームドではないキーパーはもとより、さすがのアルファでも止めることはできず押し切られて遂に二点目のゴールが決まった。今戦力が足りなさすぎる私たちにとって優一さんは強力な助っ人すぎて、このまま後半戦が続いても前門に優一さん後門に守お兄ちゃんだから、もはやここまでくると負ける想像ができない。けれどこの試合がこれ以上続くことはなくアルファ達はまた突然現れたUFOのような機体に乗ると、またどこかへ消えていった。これは、これはつまり…「守ったんだ円堂守の歴史を。僕たちが守ったんだ!」「てことは勝ったんだよね?やったー!」「よかった…!」この戦いは守お兄ちゃんとサッカー部の歴史を守るための試合だったから、私たちが飼ったという事実にほっと安心する。一人胸をなでおろしていれば、優一さん自らエルドラドとの戦いに参加させてほしいと言われる。それは今回の試合を通して優一さんのポテンシャルが凄く高いことが分かったことから私たちとしてもありがたいしぜひお願いしたい。でも本当にいいのか少しの不安と大きな申し訳なさがある、それは天馬君も同じで良いのか尋ねれば優一さんはこれも剣城君のためだと頷いた。やっぱりその目は優しかった。
ユニフォームからそれぞれ元の服に戻ってみんなが抱えていた優一さんへの疑問の答えを聞くために、キャラバンの傍で円になるようにして地面に座る。私の位置は秋お姉ちゃんとワンダバのあいだ。優一さんが最初に話したのは本当の歴史では幼い時に木から落ちてしまった剣城君を受け止めて地面に強く倒れた衝撃で怪我をして優一さんのあしは動かなくなり…サッカーができなくなるのだが、その歴史は起きなかった。けれど代わりにサッカー留学が二人に持ち上がった時、家の事情で一人しか行かせてあげられないという話を優一さんたちは聞いてしまい剣城君が優一さんのためにサッカーに飽きたと嘘を言ってて、そのままサッカーもやめてしまったらしい。兄思いの彼がついた優しい嘘…。「それは剣城京介からサッカーを奪うためにエルドラドが仕掛けたということですね」「そしてそれは成功したんだろうけど、奴らは俺の前に現れた。俺からサッカーを奪おうとしてね」「優一さんも襲われた?」剣城君の代わりに優一さんという才能あふれるサッカープレイヤーが生まれて、そのプレイから多くのサッカー好きな子供たちに影響を与えたのならエルドラドが黙ってるはずがなかった。けれど優一さんは名前も知らぬ誰かに助けられ、キャラバンと同じような機能を持ちタイムブレスレットを与えられてここまで来たらしい。正直な話、名前を名乗らなかった事といい、サッカーを愛する者たちの支援をしてタイムブレスレットを渡すことといい、怪しさ満載だ。唯一分かるのはその支援者が現代人では無くて、フェイ君たちと同じ未来人であることくらい。「よく分かんないけど、サッカーを守るために戦っているってことだよな?」「そうです!」「なら俺も戦いたいぞ!」「円堂君がやらなきゃいけないことはサッカー部を作ることよ。それがサッカーを守るってことになるんじゃない?」まさかの…いや、ある程度予想していたけれど自分も戦うと参加表明してきた守お兄ちゃんに嬉しいけどこの先のことを考えると…と自分勝手ながら悶々としていると、守お兄ちゃんよりも状況を理解していた秋お姉ちゃんに止めらる。うんうん私もそうしたほうがいいと思う、とこれ見よがしにうなずいておく。天馬君もサッカー部が作られればサッカーが喜ぶと話せば、守お兄ちゃんは自分と似たような考えを持つ天馬君を面白い奴だと大層気に入った様子で、結局はこの時代に残ることに。ちょっとだけ安心の息をこぼして出発するために立ち上がる。もう行くのかと名残惜しそうな守お兄ちゃんにフェイ君はこの時代が変わったことで未来がどうなっているのか優一さんのためにも確認しなくちゃならないと話して、それぞれ別れの挨拶を済ませるとキャラバンの中へと入っていく。私はなんだか今の守お兄ちゃんたちと別れるのが名残惜しいため天馬君の隣で二人の別れを見届ける。またサッカーやろうぜ!と笑って拳をを突き合わせた二人に私も秋お姉ちゃんも笑顔を浮かべた入れば、守お兄ちゃんは次にこっちへと目を移し高と思えば突き合わせていた拳を開いて移動させる。たどり着いたのは私の頭「お前もな楓花!」「えっ!」「楓花…?」「えっ、なん…!なんで…!」今と何も変わらずわっしゃわっしゃと頭をなでる守お兄ちゃんに思考は絡まるし、突然見破られた驚きに呂律が回らない。天馬君だって私ほどではないけれどびっくりしていて、秋お姉ちゃんは「楓花ちゃんって、円堂君が前に言ってた妹さん…?」とこの世界の私を知ったうえで目をぱちくりとさせる。まだこの時点で私と秋お姉ちゃんは出会ってないため言葉通り守お兄ちゃんが話したんだろう。妹がいるって。でもなんでバレた…いつもみたいな呼び方なんてしてないし、名前だって楓花なんて一言も言ってないのに…。頭から手が離れたタイミングでなんで今井楓花だと分かったのかぼさぼさになった髪を整えつつ聞けば、守お兄ちゃんは得意げに笑う。「最初は何となく似てるなって思ってたんだけどさ、試合の最中に俺が凄いって言ったら照れてただろ。その時にあ、こいつは楓花だって確信したんだ。さっき聞いた話もよく分からなかったけど天馬達が未来から来たっていうのは分かったしな!だから未来の楓花なんだろうなって」「いや、でもそれだけで…」「だってお前は気づいてないだろうけど照れると口がこう…うにーって緩んで目をそらす癖があるからな」「へぇ〜、そうなんですね」「ま、じか…」守お兄ちゃんがたまに発揮する鋭い勘を甘く見ていた…。しかも決め手は私がこの14年間の中で自覚していなかった癖だったとかあまりにも自爆すぎる。慢心駄目絶対。そして穴があったら入りたい。なんだが守お兄ちゃんの顔が見れなくて視線を地面に移したら天馬君と秋お姉ちゃんは同時に「ほんとだ」なんて言うもんだから、いっそのことこの場から逃げ出したくなる。後ろからくすくすと微笑ましい物を見るかの笑い声が複数聞こえるし。こんな状況になってしまうと最早やけくそのように羞恥が一周回って「もうこの話はおしまい!ほら行こ天馬君!」と無理やり終わらせる。苦笑いを浮かべる天馬君の腕を引きながらキャラバンへと乗り込もうとすると「またな!」なんて声がかかるんだからたまったもんじゃない。それに返事をして残った腕を振る天馬君の後、顔だけ振り返る。にこにこと笑う守お兄ちゃんと秋お姉ちゃん。「…またね守お兄ちゃんたち」ぼそりとつぶやくように言えばその笑顔の眩しさは上がる。あぁもう本当にこの人たちには敵わない…。もう全てがやけくそとなった今の私に天馬君たちの前でもお兄ちゃん呼びしてしまったという事実は些細なことで、キャラバンに乗り込んで窓越しに見えるお兄ちゃんたちが見えるまで私はその姿を見続けた。
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あの不思議な空間をくぐっている最中アーティファクトであった看板が光の粒子となって消えていく。この現象は元の歴史に戻るとここにあると都合の悪い物はこうして消えていき元ある場所…守お兄ちゃんの時代へと帰っていたようだ。うん…私もこのSFに馴染んできたな。それと守お兄ちゃんはあの試合の最中ゴッドハンドやら化身やら、本来出せないものが出てきてしまった案件は心配ないらしい。やっぱりパラレルワールドは奥が深い。「しかし怒涛の一日で疲れた…天馬、お前のうちに行こう」「えっ!」ワンダバからの突然の申し建て。第三者の私はワンダバの言葉の内容にこれがまだ一日の出来事だったんだ…と思うだけ。無論天馬君がそれを断れるはずもなく現代に戻ってから向かった先は天馬君の家…基今の時代で秋お姉ちゃんが管理人を務める木枯らし荘。突然のキャラバンと、秋お姉ちゃんの知らない男の子二人、あと熊。ついでに私を連れて現れた天馬君に秋お姉ちゃんは少し困惑気味。さらにはみんな自分の部屋に泊まるからなんて天馬君が言うんだからいろいろとついていけないだろう。しかも熊いるし。「あ、私は自分の家に帰ろうかな」「今からかい?天馬君の家に泊まらせてもらう身だけど、もうずいぶん暗いから女の子一人で帰るのは危険だよ」「うーん、でもお母さんが心配するだろうし…」「それもそうか…なら俺が送ろうか?」「いや!それは優一さんに申し訳なさすぎます!」初めて会って一日もたっていない女子にここまで優しく接してくれることにめちゃくちゃ感動するしありがたい申し出。でもそれは優一さんに申し訳ないし、さっきも言ったように初対面でこんな優しくしてくれる彼の優しさに甘えるのも違う気がする。けれど優一さんは本当に心配らしく譲る気はないらしい。無論私にもない。断りを入れるたびに心が締め付けられるが。そんな私たちの会話を秋お姉ちゃんは聞いていたらしくそれなら、と会話に参加する。「立香さんには私から連絡しておくから、今日は私の部屋においで」「で、でも良いの…?突然お邪魔しちゃって」「もちろん!遠慮しないで」「俺もそのほうがいいとおもうよ」一人だけで心が締め付けられたというのに二人からの行為何て無下にはできない。ここにきてまで断ったらさすがに失礼だ。お母さんも秋お姉ちゃんの家に泊まるということなら何も心配しないだろうし、逆に失礼にならない程度に楽しんできてね。なんていう人だからきっと心配は無い、それに私自身秋お姉ちゃんと話したりできるのはうれしい。二人の言葉に甘えて、それじゃあ今日はお邪魔します。とお辞儀をして今夜は秋お姉ちゃんの部屋で一晩明かした。
翌日少しの不安と希望を胸にみんなで雷門中へと登校する。ワンダバはこの時代ではさすがに目立つどころの騒ぎじゃないっていうのと、もしものためにキャラバンと一緒に待機。途中あの恐怖ともいえた数日間を思い出して段々と足取りが重くなっていたのは気のせいじゃなかったし、何なら私よりも不安げな顔をする天馬君と一緒にフェイ君や優一さんに大丈夫だよなんて勇気づけられながら歩いた。そして何とかたどり着いた私たちの前にそびえたつのは新雷門中サッカー部部室。天馬君の話だと歴史がおかしくなっていた時、ここはサッカー部ではなくバスケットボール部が使っていたらしい。それがまた頭を過ったのか天馬君の表情は晴れない。あと鏡を見ていないけど私の顔もきっと同じようになってると思う。「どうしたんだい?入ってみようよ」「でももし、ほかの部活が入っていたかと思うと…」「分かる…」「その時はすぐにワンダバを呼ぶよ。タイムジャンプして問題を解決しなくちゃ」そうだよな…また直せばいいんだよな…。けれど戻っていないとそれはそれでやっぱり怖い。っていうか私は思いっきりサッカー部とは関係ない部外者になってしまうのではないか、なんて今更ながらにそのことを思い出す。いやでも、優一さんだって高校生だし、フェイ君に至っては未来人なんだから帰宅部が一人混じっていても何ら問題は…ない…はず…。うん。「あれ、天馬?」フェイ君達の言葉を受けて入る決意が固まりだした天馬君を誰かが呼んだ。全員が後ろを振り返ると、歩きながら天馬君にもう練習が始まる時間だと教えてくれる葵ちゃんで、そこには今のところ変わったところはない。しかも私に気づけば楓花先輩まで、と声をかけられる。それでも天馬君には自分と葵ちゃんが一緒に書道部に入っていた世界戦がなかなかに忘れることができずにその練習は書道部の物なのかと恐る恐る聞けば、葵ちゃんは呆れたように何を言っているのかと頭を抱えた。「サッカー部でしょ!」「サッカー部!元に戻ってる!」「よかった…!」サッカー部がちゃんと元に戻っていたことに安心したあまり座り込んだ天馬君と、胸をなでおろす私に葵ちゃんは急にどうしたんだと不思議そうな目で私たちを見る。次にその目は後ろにいたフェイ君達へと移った。もともと顔見知りである私たちに二人は誰なのか聞くが、天馬君も私も揃いも揃ってすぐにうまい誤魔化しがつけない。唯一出てきたのは天馬君のサッカー仲間の子で学校で迷っていたから天馬君の元に連れてきた。という嘘に嘘を塗りたくったもの。でもこれじゃないと天馬君と一緒に私たちが行動している理由を説明できなかった。しかしこれ以上のものは出ない。結局思いつかなかったフェイ君たちがここに来た理由の部分はフェイ君自身がサッカーが好きだから今日は雷門のサッカーの見学に来たと付け足してくれた。ありがとうという視線を送れば得意げな笑顔。もう感謝しかない。フェイ君と私の理由に納得した葵ちゃんは怪しむことなく私たちを連れてサッカー部部室へと連れて行ってくれる。初めて通るそこそこ長い廊下を歩いて突き当りが部室、私たちの緊張なんて知るはずもない葵ちゃんは自動ドアを開けてくぐると、お客さんですと室内全体に伝わるような音量の声を出した。「天馬遅いぞ!」「今日は休みかと思ったよ〜!」時間ギリギリに来たと理由で注意する神童君と天馬君に駆け寄る信介くん。正直感動でこれだけでも泣きそう…。フェイ君たちと一緒に部室内全体を見るように天馬君の傍へと移動すればその二人だけではなく他の選手もマネージャーも勢ぞろい。本当に元に戻ったのだと実感していれば出口に一番近い場所に神童君が立っていたからか私の存在に気づき「今井までどうしたんだ?」と普通はここに来るはずがない私の姿に疑問が飛ぶ。久しぶりにサッカー部のジャージを着ていた神童君に対して本当なら本当に元に戻ってる…神童君がサッカーをやってる…ジャージ姿かっこいい…と心の底から笑顔が浮かびそうなのだが、ここに来た理由も経緯も一言では表せなさすぎるため、ちょっとね…と誤魔化しきれない誤魔化しを入れる。
そんな中まさかの優一さんが雷門サッカー部と知り合いであったことが判明した。新入生である輝君達は知らないようだけど神童君達二年生はその存在を知っていたようで優一さんは雷門中のエースストライカーだった過去もち、卒業後も顔を出してくれるのだと説明してくれる。けれどその説明で気づく、慌てて周りを見渡すもののここに優一さんではない剣城君の姿はどこにもない。ましてや聞いている感じだとその存在すら神童君たちは知らなそうだった。実際天馬君が話を遮るようにして剣城君のことを聞こうとするものの、周りは天馬君の口から出た剣城を優一さんの事だと決めつけて呼び捨ては失礼だと注意する。「まだ元通りじゃないのか…?」「…こうなったら皆に協力してもらおう」「え…フェイ君それ本気なの…?」「あぁもちろん」すべてがきれいさっぱり元通り。なんて甘いことはないのが現実。本当ならこのまま何事もなく元に戻ってまた天馬君はみんなとサッカーをして、私はそれを見学する…なんて日常は手に入らなかった。フェイ君は自分たちでは限界もあることに気づいていたがために神童君たちに話がしたいと持ち掛け、場所をグラウンドへと移動させた。楚々て全員がグラウンドにつくとフェイ君は腕につけていた機会に何かを話す。おそらくその先につながっているのはワンダバだ。多分彼が現れればこの先の話は結構スムーズに進むはず。だって現代にあんな動いてしゃべって、ご飯を食べる水色の熊なんていないから。…これ受け入れることができた私ほんとにやばいな…。いつ来るか分からないワンダバを待ち続けていると、突然空中に穴が開いて私にとっては見慣れたキャラバンが登場する。まさかのワンダバだけじゃなくてキャラバンごと来た。でもそうだよなワンダバ一人歩いてここまで来たらそれこそ物珍しさから道中で捕まるよな。この時代では映画の中でしか存在し寧そうな空を飛んで自分たちの目の前にありてきたキャラバンとその中から戦車の途中だったのにと不満を言うワンダバが出てくるもんだからに初めて見たサッカー部はみんな最初の私たちのような驚きを見せる。「あわわわ…熊…?」「誰が熊じゃ」「天馬どういうことだ?」いやどう考えても熊です。見た目は。突然熊がしゃべって、テンマーズの大監督と胸を張った自己紹介に瀬戸さんはテンマーズという名前からか、それともこの状況を作り出したフェイ君をサッカー関係の友達と聞いていたからか疑問を投げかける。けれどその疑問も一番混乱を生み出している張本人であるワンダバがすべて回答と説明を引き受けた。興奮…っていうか気が高まると謎減少でピンク色になるワンダバを見つつその説明が終わるのを待つ。口頭で今まで起こったことやパラレルワールドのことをいろいろと話してくれるが多分これを全部理解できる人は少ないと思う。私や天馬君だって今の説明を加えてもやっぱり難しいものは難しいし。やっとすべての説明が終わるもやっぱりみんな難しい顔をする。頭脳明晰な神童君でさえそんな顔をするんだからもう無理はないと思う。「まぁ…こうなるよね…」「皆さん…大丈夫ですか?」「いきなりタイムジャンプなんて驚いたろうけど。今俺は偽りの中で生きてる。彼の知ってる俺が本当の俺だ。だから本当の俺を取り戻して京介にサッカーを返してあげたいんだ、そしてそれは君たちサッカー部が本来のサッカー部になることを意味する」「俺たちも偽りの時間の中にいるってことか…」「そうだ」優一さんのさらにかみ砕いたような話にやっと何人かは理解し始めて、自分が自分ではないような感覚に少しの嫌悪のような感情を抱く。けれどやっぱりすべて理解するのは難しいし、むしを謎のSF3級という資格を持っていてパラレルワールドに自分がいる感動を覚える山菜さんはあまりにも貴重。もはや絶滅危惧種並み。「てかさ、何となく理解できないのはなんで今井先輩は無事だったわけ?サッカー部ですらない今井先輩が無事ならほかの生徒にも何の影響はないはずでしょ」「それは楓花さんの過去とサッカーに出会った状況が特殊であったことと奇跡と偶然が重なったことが理由かな。楓花さんの場合サッカーやサッカー部に関係のあるものを消すとなると本人の過去は特に変える必要はなくて周りの過去、この場合は特に円堂守かな…彼を変えなきゃならないから」「一手間も二手間もあったってことか」「まあほかの偶然ももちろんあったんだけどね」その偶然は多分沖縄にいた時話した、これに似た現象に遭遇した事があるってことか。いまだに思い出そうとしても全く思い出せないけど。それにしてもフェイ君の口ぶりからすると私は守お兄ちゃんに出会わなければサッカーに興味を持たない人間になっていたということか。確かにここまでサッカーに詳しくなって、何なら趣味でプレイするっていうのはなかなかなるものじゃないしな。自分でもわかる特殊性を説明していたフェイ君は結局のところ奇跡に奇跡が重なったと締めて私の説明を終わらせた。聞いていた浜野君はそんなに奇跡が重なったためもう運が残ってないんじゃないかと冗談を含めて言うが、全く持ってその通りだと思う。
そして私の話がひと段落し、天馬君は優一さんと剣城君がどっちもサッカーができるようにならないのか、と提案した。本当の歴史では優一さんはサッカーができなくなってしまう。それが普通だとしてもサッカーをプレイしていた優一さんを見た後だとそのまま元に戻すというのは残酷な気がしてならない。周りも同調しているように私も何か方法がないのかと思ってしまう「ありがとう。でもね、本来それはやってはいけないことだと思う。俺は京介にサッカーを取り戻してやりたい。あいつはお礼状にサッカーが大好きなんだよ…。京介を救うことは雷門中サッカー部を救うことだ、みんな協力してほしい」優一さんの言葉にこの場にいるサッカー部員全員が肯定の返事を返した。けれどその中で天馬君はどこか浮かない表情をする。それは優一さんが剣城くんと一緒にサッカーができなくなってしまう現実の非道さからなのか、それともここにはいない剣城君を心配しているものなのか、はたまたどちらも何か、私には分からなかった。けれどなぜ世界はこうも私たちに優しくないのか…らしくもなくそんなことを考えてしまう。タイムジャンプする日は、優一さんのやり残した事と、アーティファクトを持ってくるため決行は明日に決まり、朝練の時間の間でできる話し合いはこれで終わった。この学校の生徒では無いフェイ君たちと優一さんと、優一さんについていった天馬君以外は普通に授業を受けるために校舎へと戻っていく。かくいう私もその一人。着替えとか準備とか、あのSFチックな話の整理とかがある神童君達の邪魔になるので部外者の私は一足先に教室へと戻った。あの子過ぎるといっても過言じゃない一日を過ごした後の教室はなんだか久しぶりに感じたし、サッカー部関連の話が絡まない限り何も変哲もなかったクラスメイトと友達の顔は懐かしさすら感じる。椅子に座った私にいの一番におはようと声をかけてきた友達に少しどもりつつ挨拶を返して、どきどきとなる心臓に声和震わせてサッカー部について聞いてみる。この子はあの時私にサッカー部が存在しないと初めて教えてくれた子だ。突然サッカー部は存在するか聞いてきた私にきょとんとするものの友達は次の瞬間笑って、サッカー部が存在することを当たり前のように答えた。よかった、やっぱり剣城君関連以外は元に戻ってる。まだまだ問題はあるものの私の根本のトラウマもどきはここだったからこの答えだけで教室じゃなきゃ泣いてた。でも続けて「楓花ちゃんの愛しの神童君が入ってる部活じゃん」って小声で言ったことは許さない。憎めないし、そういう所も好きっちゃ好きだけど…。これ以外特に変わったことなんて無いまま、一日は結構早く進んで放課後になる。唯一何かあったかあげるならたわいもないことで神童君たちと話せたこととか…?友達を含んでだからサッカー関連じゃないけど。そんな友達と笑顔で別れて一人下駄箱で靴を取り出す。そういえば明日私も参加していいのかな…サッカー部じゃないけど。人数も今回で揃うだろうし、向こうからしたら思いっきり部外者になるんだよな…。でもやっぱりサッカー部がもろに戻るまで見届けたい気持ちもある。一応明日向かってみて何となく空気的に私が行かない感じだったら見送りに来たていで話を合わせればいいか。うん。それが良い。ローファーが地面に着地した音を耳にしながら履きづらい靴に足を入れる。自分の意見にナイスアイデアと自画自賛してしてしまったのは正直恥ずかしい。「今井!」ドキリとなったのは驚きからか、それともいまだ消そうと思っているのに消えない恋心からか。落ち着け落ち着け、数回言い聞かせ平常心を装ったまま、やっと履けたローファーで振り向く。この時間はもう部活のはずなのに…、もしかして向かう途中なのかと思うものの神童君の見た目は制服にカバンを斜め掛け、しまいには上履きを脱ぐしぐさをし始める。「あれ神童君部活は?」「朝のこともあって急遽休みにしたんだ。それぞれ頭の整理をしなくちゃいけないだろうし」「そっか。そりゃあんな話をいっぺんにされちゃ混乱するもんね」「あぁ。実際俺もまだ良く理解できてないからな…」分かる分かる。心の底からわかる。体験してきた私がこれなんだから神童君が理解できないのも無理はない。心の底からの同意を「そうだよね」の一言に込める。前髪から少し見える眉毛を八の字にして笑いながら神童君は自分の下駄箱から少し高そうな靴を取り出す。代わりに上履きがその中に入れられて扉がぱたんと絞められた。「だからさ、」扉に手をついたまま少しうつむく神童君の姿はめちゃくちゃ絵になる。いつもと違って神童君から出た声はなんだか消えそうなほど危うくて、耳を澄ませた。「…一緒に帰らないか?」数秒空いてやっと出てきた言葉は私を軽く天国へ運ぶほどの威力だった。あれ、これは…これは…あれか。ついに都合のいい幻聴を聞くほど重症化してきたのか?私自身の耳を一番信用できてない私が尾もまず気の抜けた声を出せば、神童君はそれを聞き返してきたんだと判断して少し恥ずかしさからか染まったほっぺで私を見た。「ゆ、優一さんやあの熊が話してた内容をもう少し詳しく聞きたいんだ。…だから一緒に、帰らないか…?無理なら別に…構わないんだが…」「む、無理じゃない!分かった一緒に帰ろ!」やっぱり幻聴じゃなかった。神童君の言葉は最後は消えかかっていたけど確かにそう言っていた。好きな人からの誘いを断るなんてできるはずはなくて、言葉を被せそうなほどの勢いでそのもったいない申し出を受け入れれば神童君はやっぱり眉毛は八の字のままだし、ほっぺはそのままうっすら赤いけど綺麗な笑顔を見せる。この笑顔で私はこれからも頑張れそうだと思う反面、思わず少しだけ…ほんのひとつまみ分でも私に好意を寄せてくれているんじゃないかって勘違いもしそうになる。そんな奇跡は起きないのに。でも話は真剣なものにはなるけど、好きな人と一緒に帰れるなんてそうそうない青春を少しは味わってもいいよね…なんて。
私の歩くスピードに合わせてくれる神童君に軽くときめきつつ、ワンダバが言ってたことは多分こういうことで、私と天馬君はこんなことをして……。神童君が分からない部分を聞いて私がそれに予想と自分の解釈を混ぜて答える。そんな形でほとんど質疑応答のような会話をするため好きな人との会話とは思えないような内容ではあるものの、私には一緒に帰って話しているという現実だけで満足だ。しかもその数日を明かした後ならなおさら。「でも神童君たちが元に戻って本当に良かったよ」「なんか大袈裟だな」「そんなことないよ。だって突然サッカー部の存在は消えるし、神童君達はそれぞれ違う部活に入ってるしで…何の前触れもなく変わったから受け入れられなかったもん。私だけ変になっちゃったのかとも思ったし…なんだか孤独感が凄かったよ」人間突然の孤独は耐え難い。それに神童君達だけじゃなくて、お母さんとか守お兄ちゃんたちまでもがサッカーにかかわりのない人生を歩んでしまっているのかと考えたらあまりの四面楚歌状態に家で一人泣いたくらいだ。だからあの時あまり期待してなかった小さな希望だった天馬君が私にとってはすごくいいタイミングで雷門に帰ってきてくれたことと、サッカー部を覚えていてくれたことは本当にうれしかった。その感情も神童君に伝えようかと口を開けて…そっと閉じる。いや待て待て、話の流れ的に「嬉しすぎて天馬君とはぐしちゃった」なんて神童君に話せるわけがない。私のためにも天馬君のため人もこれは言わない方向で…うん。危ない危ない…。「…それは、…いや、確かに俺が今井の立場だったら同じことを思ったかもしれない。けど…その……そっちのパラレルワールドでも話せる中だったんだろ…?」「…そんなことはなかったかな…」「そう、なのか…?」「うん…。だって今はサッカー関係でこうやって神童君達と話せる仲になったけど、向こうではそんなつながりなんてないからクラスメイトとはいえ必要以上のことは関わらなかったよ」言葉の通りあの数日は残念なことに事務的なことでしか神童君と会話しなかった。ノート回収します。これ先生から。……あれ…私の精神がやられてて、サッカー関連のことも消されていたとはいえ、思い返しても本当にこんなことしかないじゃん…。唯一そんなこと以外での会話といえばやっぱり初日の私が寝ぼけてると勘違いした友達の提案で神童君に聞いたあの一回きり。お兄ちゃんたちもそうだけどサッカーからの縁でつながった人が知り合いの大半を占めるせいで、無くなった瞬間の関わり合いの薄さが凄い。こんなことで私のコミュニケーション能力が低いことを再確認したくはなかった。「そうか…」返ってきた神童君の言葉は悲しいという感情を乗せた様にくらい暗い。恥ずかしさのあまり顔を見れなかったがこれには流石に心配のほうが勝って、すぐ隣を歩く神童君の顔を向く。顔を陰鬱に染めとような顔。神童君がこんな顔をするなんてフィフスセクターに悩まされていた時以来か…よく覚えてないけど、最近になってこんな顔をするのは久しぶりだと思う。もしかしなくても私が言った内容のせい…私的には仕方ないなって思って、神童君もきっとさして問題はないと思うだろうなと勝手に想像していたのに私の予想ははるかに反れていた。どうしよう、自分の言葉のせいだと思うと軽く死にたい…。そんな顔にしたかったわけじゃないのに。軽く受け流してくれればよかったのに。「いや、だから…だからね、こうして元に戻り始めて良かったなって思ったの」「…そうだな…今更だがその話を聞いていると俺もそう思えてくる」「でしょ?」「あぁ。…記憶にはないがまたこうしてサッカーをすることができるし、…サッカー部がないと俺は今井と友達にすらなれなかったみたいだからな」影をまだ残しつつ残念そうにはにかむ。神童君、貴方はきっとお世辞なのかもしれないけど、その言葉は私の心にとんでもない威力を持って突っ込んでくるんだよ。知ってた?知らないよねきっと。心臓からじわじわと頭のてっぺんまで登る熱は、私の思考をゆっくり溶かしていく。これこそ受け流すべきものだったのに、まさかこんな形で特大ブーメランとして帰ってくるとは...。顔が熱くなっていくのがわかって、慌てて神童くんに向けた顔を地面に戻す。2人分の歩いていく足と無機質なコンクリート。そんな景色さえも私の心に追い打ちをかけるのには十分で、どうにか収めようとするものの私がこんな状況だと気づいてない神童くんの話す声がそれを許さない。この後神童くんと何を会話していたのか、どう別れたのか、ついでに言えば家に着いて迎えてくれたお母さんになんて返したのか...そんな記憶は曖昧のまま気がつけば私は自分の部屋で力なく座り込んでいた。心臓は未だにうるさくなり続ける。もしかしたら、まだ私には神童くんと一緒に帰るという行為は早すぎたのかもしれない。
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翌朝、昨日聞いていた時間よりも早く家を出て学校へと向かう。もしかしたら私以外人がいなかったりして...なんて思ったもののいざサッカー棟に着いてみれば、もう見なれたキャラバンと数人の人影。私よりも早い人がいた...。おはよう、と控えめに声をかけてみればキャラバンから天馬くんとフェイが1番にひょっこりと顔を出して変わりのない笑顔で返してくれるしワンダバの声も奥から聞こえてくる。良かった、これでお前なんで来てるんだよって顔を一瞬でもされたら見送りに来たって付け足すところだった。「おはよう、今井」「あ、神童くんおはよう」キャラバンの陰に隠れていたせいで全く気づけなかったが神童くんも早めに来ていたらしい。神童くんの性格からしてそりゃそうか...。昨日が昨日なため単純な心臓はまたドキリと強く動くものの、私はちゃんと学んだ。顔に熱が上がらない限りはそんな私の一挙手一投足に誰かが気づくことは無いため、そんなもの気づいてませんと言う鈍感を装って笑顔を作る。そうすれば、ほら、神童くんは気づかないまま私にキャラバンの話を持ちかけてくる。うん、うん、近くの間はこれで頑張ろう。どれぐらい持つか分からないけど。
「それと、」と少し言いづらそうに言葉を詰まらせる。私に向いた眼はどこか気遣うような感じがした。「…これは楓花さんにも言ってなかった事なんだけど、エルドラドが楓花さんを変えきれなかったのはそれだけじゃなくて、多分、流石の彼らもタブーには触れたくなかったんだと思う…」「タブー…」「うん。これ以上は楓花さんのデリケートな部分に足を踏み入れることになるから詳しくは話せないけど…。まぁ結局奇跡に奇跡が重なった感じかな!」「そんな奇跡なら今井今回のことで運全部使い切ったんじゃね」「あー…そうかも」これ以上の暗い話は避けようとわざと明るめに最後は話たフェイ君に浜野君がつられて、私もそれに同調するように返す。これでまたあの何とも言えない気まずさから元通り、この時だけはみんながパラレルワールドとか過去改変とかあまり理解できていなくてホッとする。けれど私の脳内ではいまだフェイ君の言うタブーが渦巻く。タブー…普通に考えて思いつくものは前にどこかで読んだ本に載っていた殺人とか、食人とか、本当に犯罪なもの。でも私の過去が人より特殊だからと言って、そんなやばい物が絡むような波乱万丈な人生は送っていない。じゃあ別の物…例えばクローンとか…そういう命や生死、論理にかかわるような……。………。……あ…。一つだけある。写真の中でしか見たことのない人。赤ん坊の私を一度しか抱くことができなかった人。…そっか、そりゃそうだ。エルドラドだって人を生き返させるような禁忌を犯せるはずがない。気づけば私の話から