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この世界にリンカが飛ばされてもう10年以上経っていた。これで彼女は二度目となる成人だ。ここに来てすぐの頃よりも自分が持つ力の使い方にも慣れ、ギルドの中で中々に高い戦闘能力を持っているのだと彼女は自覚し始めていた。
無論その力はリンカ自身が強いから、というわけではなくコンパスのキャラクターであるアタリ達が戦闘に特化していて尚且つ、彼女のとんでもない課金が合わさっていたためである。そのためS級クエストですらリンカがビビりさえしなければ簡単にこなせるようになってきていた。
そんな変わったことがあればこともあれば変わらないこともあった。その代表的な一つとしては今もラクサスとは関わりを持てていないという事だった。幼い頃に遊んでいた仲がまるで幻想だったかのように、まともに会話すらしていない。
しかし話せたところで向こうから来るいちいち人の神経を逆撫でするような言葉と態度にリンカはイラつきとストレスを抱えるだけ、なにより顔を合わせただけで馬鹿にするような顔か、睨んでくるかの二択なのだから彼女からすれば会話するどころの話ではなかった。
更にはラクサスがグレてしまってからというものそれにフリード達雷神衆も疎遠になっていった。元々彼等はあまり周りと関わりを持ってはいなかったがラクサスとよく一緒にいたためかリンカとは友人と言える程度の関係を築いていた。そのため今の彼等にも彼女はどうすればいいのかと頭を悩ませていた。
(うぅ…最近このことを考えると胃がキリキリしてくる…)
思わず胃のあたりをさすればカウンターの向こうにいたミラに心配されてしまった。個人的なことで狛レせてはいけないとリンカは笑顔を作りながらなんでもないよ、と言えば向こうは特に気にすることなく笑って止めていた手をまた動かし始めた。
ミラも昔と変わった。彼女の妹でもありリンカの友達でもあったリサーナがなくなってからというもの彼女の性格は少し凶暴性のあったやんちゃの子から少し天然の入ったお姉さんのようになっていった。
皆、皆変わっていった。だからこそその分変わらないものがリンカには嫌に目立って見えてしまってしょうがなかった。
「そういえば新しい子が入ってきたのよ」
「そうなの?」
「えぇ、ルーシィって名前の可愛い子」
「へぇ…」
そのルーシィを探すためギルド内を見まわしてみるがそれらしい子は見当たらない。するとそれを見たミラが「今はナツとハッピーと一緒に初めてのお仕事中よ」と続けた。残念、なら挨拶はまた今度にしよう。ミラの入れてくれた紅茶の残りを飲み干しながら自分が次に帰ってくるであろう日を思い出す。
(っていうか初めての仕事がナツとハッピーって…その子がちょっと心配だな)
リンカですらたまに手を焼く存在だというのにそれを入ったばかりのルーシィと組ませて大丈夫なのか心配になってくる。下手したら彼女の方だけボロボロになって帰ってくるのではと思うほどだ。
「さてと、じゃあ私も仕事に行こうかな」
「あら、もう行くの?」
「うん。特にやることもないしね」
「そう…たまにはゆっくりすればいいのに」
寂しそうに笑うミラにリンカは曖昧な笑みで返す。正直なところ彼女もゆっくりしたい、本を読みたい、というかダラダラとベッドの上にいたいと思っていた。しかしそうやってサボっていれば彼らがウズウズし続けてしまう。特に忠臣やグスタフ、乃保辺りが。
それに加え、ギルドに居続けてラクサスと会ったりしてしまった日にはリンカの精神と胃腸が擦り切れることだろう。もはやズタボロとなっているそれらに追い打ちをかけられるようなことをされたくない。
結局、逃げていることには変わりないのだが。
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ナツとハッピー、そして新入りのルーシィがギルドに帰ってきたのはその日の夜だった。まだまだ元気が余っている二人とヘトヘトになり疲れきったルーシィ。その2人をミラはカウンター越しに出迎えた。
「2人ともおかえりなさい」
「ミラさんただいま〜…」
「たっだいまー!!メシー!!!」
「メシー!!」
「ふふ、はいはい」
笑いながら二人の要望に応えるために支度していたとき、ふと今日の昼ギルドにいた彼女のことを思い出し食器を出していた手を止めた。
「そういえば今日リンカが帰ってきてたわよ」
「リンカが!!!???」
「もう行っちゃったけどね」
「もう行ったのかよー…」
「残念だったねナツ」
勢いよく椅子から立ち上がってギルド中を見渡したかと思うと目当ての彼女がもう居ないと分かった瞬間、今度はひどく残念そうな顔でふてくされてしまった。そんなナツを慰めるハッピーも残念そうな顔だ。そんな二人を見て一人ルーシィは話についていけなくなっていた。そんな彼女の様子に気付いたミラは笑みを浮かべたままリンカという人物について説明し始める。
「リンカって子はねここのギルドの魔導士なの。それも結構昔からいるね」
「そうなんですか?」
「そう、だから子供の時からこのギルドにいたナツ達にとってはお姉さんみたいな存在なのよ。無論私にとってもね」
「ミラさんがそう思える人って、何かあんまり想像できないなー」
「ルーシィもきっとすぐに仲良くなれるわよ、彼女もたまに召喚魔法を使うみたいだし話が合うと思うわ」
それにルーシィのことを話したらとても会いたがってたから。そんなミラの言葉にルーシィは自分がどうリンカという人物に伝わったのか気になった、もしかしたら変な感じに伝わっているのでわないかと。そんな杞憂な考えを持ちながらも、ルーシィ自身ナツやハッピー、ミラが姉のように慕っている彼女に会ってみたいと思った。
「召喚魔法かーリンカさんってどんなものを召喚するんだろ…」
「よくわかんねーけど魔法少女とかロボットとか花火師とかいるらしいぞ」
「…なんか、凄く個性的ね」
「ルーシィの星霊にわ負けるけどね」
「うぐっ、た、確かに…」
ハッピーに痛い所を突かれ何も言い返せなくなる。しかし向こうも向こうで個性的な人たちがいるのには変わりない。
種類は違えど同じ召喚魔法の使い手、しかも後から聞けば彼女はとても強いらしい。これは是非ともお近づきになりたいなー、なんてルーシィは少し欲深い感情を抱えた。本人は気づいていないがその考えはばっちり表情に出てきていて、周りは何か企んでいるなと感じ取っていた。