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仕事から帰ればいつもよりもなぜかナツが騒がしかった。走っては食べて、また走っては飲んで。しかもたまに「自由だ」「シャバの空気は美味い」だの前半はいいとしても後半は聞き捨ててならない言葉がリンカの耳に届いた。
「…マスターさん」
「……」
「今のナツの発言、どういうことですか?」
シャバだなんてこの人生でそうそう使う事のない言葉だ。またあの犬のように走り回るナツが何かしたのかとマカロフに聞けば少し冷や汗をかきながらリンカが返ってくる前に何があったのか教えてくれた。
「…まぁナツが知らないのも無理ないですよね」
「うむ…」
「今回のことで評議員からの目は確実に厳しくなったと思いますが」
「や、やっぱりそう思う…?」
「思う思う」
評議員の面を建てるための形だけの逮捕、そんな事ナツが知るわけがない。困り果てたように皺をさらに深く刻むマカロフを横目に思わず苦い笑みが漏れる。
(ナツらしいといえばナツらしいんだけど)
仲間のために危険を見返らないで突っ込む彼の姿は、あまり勇気のないリンカからしてみればとても憧れるものだ。しかしだからと言って度が過ぎる行為でもある。評議員という彼女からしてみても少し面倒くさいものを敵に回す事だけはやめてほしいとひそかに願った。
「エルザ―!!!この前の続きだーっ!!!」
「よせ…疲れてるんだ」
「行くぞーーーーっ!!!」
「やれやれ」
勢いよくエルザに向かって行ったナツだったがエルザが魔法で出し振りかぶった大きなハンマーが見事直撃。ギルドの壁まで勢いよく飛んでいき、のにてしまった。
結果はわかったいた。しかしリンカ#の予想よりもエルザが強くなっていたのかそれともまだナツに力がなかったのか…一瞬で終わってしまった勝負に少し呆気にとられる。
「…あれ、あの金髪の子」
「ルーシィのこと?」
「あぁ、あの子がルーシィなんだ」
「挨拶しに行ったら?まだ顔も合わせてないでしょ」
「そうだね、ちょっと行ってくる」
ミラに後押しされるようにカウンターを離れてルーシィのもとに向かう。
リンカが自分の所に向かっていると知らない彼女はエルザに吹っ飛ばされたナツを見てまた店の一部が壊れてしまったことに呆れていた。すると突然自分の肩を小さくトントンと叩かれ振り向くと見知らぬ女性が立っていた。一瞬服の袖から見えたギルドマークでここの人だと分かったが、なぜ自分の所に来たのかがわからない。
そんなルーシィよりも早く反応したのは同じテーブルにいたグレイやエルフマンだった。
「おっ!リンカじゃねえか」
「久しぶりだな!!」
「うん久しぶり」
「リンカ…?」
その名前に聞き覚えがあり自分の過去を振り返る。
そして彼女の初めてとなる仕事があった日、ミラが自分と同じ召喚魔法の使い手がいると教えてくれたのを思い出した。
「突然ごめんね、新しく入った子がいるって聞いたから挨拶しに来たの」
「あ!い、いえ!あの、私ルーシィって言います!」
「リンカです」
あと敬語は使わなくていいからね、なんだか慣れないし。そう恥ずかしそうに言う彼女がルーシィにはなんだか意外に思えた。みんなのお姉さん的存在と聞いていたもんだから勝手に大人びた女性を想像していたが現に目の前にいるリンカはどちらかと言えば子供っぽい感じがし姉のような括りには見えない。
「どうかした?」
「う、ううん!なんでもない!これからよろしくリンカさん!」
「…よろしくルーシィ」
さん付けもいらないんだけど、思いながらも新しく入ったとても可愛い彼女に頬を緩める。そしてルーシィの頭に手を置き「何かあったら遠慮せずに頼ってね」とだけ言うとまたカウンターの方へ行ってしまった。
「……」
「おいルーシィ大丈夫か」
「…リンカさんがみんなのお姉さん的存在ってなんだかわかった気がする」
「だろ」
俺もあの人には頭が上がんねえよ。と笑うグレイに心の中で頷きながら先程彼女の手が柔く置かれた自分の頭を触る。子供っぽいと思っていたのにふと彼女が見せた笑みが大人の余裕を醸し出して
いて、その差に心が落ちそうになる。
その頃リンカはカウンターで項垂れていた。幼い子供でもないし今日初めて会った仲だというのに気安く頭を撫でてしまったあの行為を後悔していたのだ。そんな彼女を今までのことを見ていたミラが元気づけようと慰める。
のろのろと#リンカ#が顔を上げたとき、とても強い魔力がギルドを包んだ。
『リンカさんこの魔力…ミストガンです』
『うん…毎回眠くなるな、これ…』
ばたばたと周りが倒れていく。リンカも眠気に襲われていたが他の人達よりもかかりが弱かったため意識を保てていた。それは彼女が異分子のため状態以上が聞きづらかったのだ。
『相変わらず不気味な方だ…素顔が全く見えない。まるでどこかの死神のようですね』
『…それ絶対13のことだよね』
『えぇ』
相変わらずアダムは特定の人間に厳しい。
ミストガンがクエストボードから依頼書を取りマカロフに渡してから外に出るまでを見ていると一瞬彼と目があった。あの布の奥で彼はいったい何を考えているのか…皆が目を覚ますまでリンカはそんなことを考えていた。