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大きな聖堂教会の廃墟にリンカは立っていた。周りには大きな蜘蛛のような八足に八つのギョロッとした目、そして口には数えられないほどの牙を生やした魔物が倒れていた。
そんな足元にげんなりしながら被害の少ない教壇に移動する。もちろん魔物を踏まないように。
「倒してくれるのは凄くありがたいんだけど…少しやりすぎな気が」
「む、そうか?」
気のせいだろとリンカに言いながらまた魔物を斬り捨てる。飛び散る黄色の液体が何ともグロイ。元々虫、主に節足動物が苦手な彼女にとって代わりに倒してくれる忠臣には感謝しかないが、見ていても辛いものがある。
数が減らない魔物…いったいどこから出てくるのか辺りを見回していると右側にあった扉が吹っ飛んだ。鉄の扉がひしゃげ、魔物を巻き込みながら反対側の壁に勢いよく当たった。耳が痛くなるほどの音が響く、リンカは自身の耳を塞ぎながら扉があった方を見た。
「リンカ、忠臣こっちはもうあらかた終わったぞ」
「…リンカ我よりアイツのほうがやり過ぎだと思わないか?」
「うん…ごめん」
「なんだ?」
「いや、何でもないよ。ありがとうグスタフ」
扉を吹き飛ばした張本人は魔物ではなくリンカが忠臣と同じように召喚したグスタフだった。教壇から降りて恐る恐る彼がいたであろう部屋を見れば忠臣がまともだと思えるほどに荒れた部屋。机や椅子は見る影もなくただただ魔物のちぎれた足や飛び出た蔵物、そして一面に広がる黄色の液体。何も知らない人が見たら発狂するようなレベル。
「しかしおかしいな…」
「何がだ?」
「これほど雑魚を倒したのであれば親玉の一匹や二匹出てきてもよいと思うのだが」
「それらしいのは一匹もいなかったね」
「…それどころかさっきまでいた蜘蛛共が消えてるぞ」
グスタフの言葉通り広間にいた魔物は死骸を残しすべて消えていた。しかし今更逃げたとも思えない。その時大きな地響きが彼女たちに届いた。
「ふむ、どうやら雑魚は雑魚でも少し知恵があるようだな」
「リンカは下がって見てろ。あれは俺と忠臣だけで余裕だ」
「やる気が十分あるようで…。それじゃお言葉に甘えさせてもらいます」
聖堂の床を破って出てきたのは先程の小型をそのまま大きくしたような魔物。その大きさは天井に付いてしまうのでは、と思ってしまうほどでそいつの背中や腹には沢山の小さな魔物がくっついていた。
しかしそれを見ても忠臣たちは怯えることはなくむしろ楽しそうに口元をゆがませてた。今までがつまらない雑魚共だったのだから少しは骨のありそうなやつが出てきた喜んでいるのだ。
(戦闘狂ほど恐ろしいものはないね…)
二人が生き生きしながら魔物を倒す光景に若干引きながら見守る。斬っては投げ、殴っては投げ、流石は一国の総帥と殺戮兵器、思わず関心すらしてしまう。
すると突然リンカが持っていた小型の通信用魔法水晶が光りだした。あの魔物はどうせ二人で事足りているのだから出ても大丈夫か、鞄から取り出し通信をつなげる。すると小さい水晶の中に人が浮かび上がってきた。
「どうしたのミラ」
「リンカ依頼中にごめんなさい、ギルドで緊急事態が起きたの…」
「緊急事態?」
「…ルーシィが、幽鬼の支配者に狙われてる…多分こっちに攻め込んでくるわ…だから今すぐ戻ってこれないかしら、このままじゃ…」
「ミラ落ち着いて、マスターさんはどうしたの?」
ルーシィが狙われている、ギルドにいる人たちを自分の子供のように思ってるあの人が今の状況を黙っているはずがない。マカロフの力があればギルドがピンチになるほど追いつめられるわけがない。しかし魔水晶の向こうにいるミラノ口から出てきた言葉はそんなマカロフが持病で倒れてしまったというもの。
「マスターさんが倒れた…」
「ミストガンも連絡がつかなくて、もう頼れるのはリンカとラクサスしかいないの…」
ミラには申し訳ないがリンカは今のラクサスがギルドのため、仲間のためを思って戻ってきてくれるなんてことは限りなくゼロに近いと思っていた。
「……事情はわかった。けど今の依頼を途中で放棄してすぐに戻ることはできない」
「そう、よね…」
「だからすぐに終わらせてそっちに向かう。それまでは頑張って耐えて」
「…ありがとうリンカ」
「いいの。家族の危機なんだから」
それだけ言い通信を切る。魔水晶をまた自身の鞄にしまいながら二人の方を見ればまだ決着がついて無いようだった。しかし忠臣もグスタフも余裕そうな表情、戦っているというよりも遊んでいた。
「すごく大事な急用が入ったから、お楽しみの所悪いんだけど手短に終わらせて」
「手短に、か…なら使ってもいいんだろ」
「まあ周りに誰もいないしね、いいよ」
リンカが許可を出したとき空気中に紫色をした霧状の毒が辺りを包んだ。グスタフのヒーロースキル【グラオザーム シュメルツ】だ。その瞬間今まで暴れていた魔物の動きが止まり、そして苦しみもがき始めた。それを忠臣が見逃すわけもなく自身のヒーロースキル【グリート拘束呪式解放】で全てをチリにし、この建物に残ったのはたった三人だけとなった。
「さあ片づけ終わったぞ」
「相変わらず強すぎでしょ…」
「そうであろう。もっと褒めてもよいのだぞ」
「それはまたあとでね。今はギルドに向かわなきゃ」
「さっき話していたやつか」
「うん」
「なら俺等はいったん向こうに戻る。何かあればまた呼べ」
一瞬にして消えた二人に感謝しながら準備をし始める。
向こうで何が起こるかわからない。もしかしたら向こうに行った途端一斉射撃や威力の強いレーザーを撃ってくるかもしれない…その可能性はすべてあり得ることだ。だったら攻撃に特化してるものより、防御に特化してるものの方がいい。
「ジョブ換装【ジャスティス ハンコック】」
換装すると宇宙アーマーのズシリとした重さが体に乗っかる。しかしそれに見合う防御力、レーザーの一つや二つ簡単に防ぐことができるだろう。念話でボイドールに教えてもらいながらギルドがある方角に体を向ける。さあ準備は整った。
「カード召喚【どこでも行けるドア】」
小さな砂ぼこりを立て彼女は消えた。
そして目的地に着いた瞬間リンカの予想していたような砲撃が打たれるだなんて思いもしなかっただろう。