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帰ってくるなり好きかっていうのはいつものことだった。けれど今回は特にひどい。幽鬼の支配者にいたガジルに襲われ怪我を負ったレビィ達に向かって嘲笑い、知っているはずなのに名前も知らないなどという。
仲間が傷ついた姿を見て…何が面白いというのだ。握った手にどんどん力が入っていく。
「ひどい事を…」
「これはこれはさらに元凶のねーちゃんじゃねーか」
「ラクサス!!!」
ルーシィの方を向いたラクサスが一瞬リンカを見た。「お前がいたのになんてザマだ」そう言われている気がした。いや、実際彼はそう思っていたのだろう。そんなことわかりきってる、リンカ自身もっと自分が強ければギルドは崩壊せずに済んだ、ここ数日間ずっと自身を攻め続けていた。今までの色んな感情がぐるぐると腹の奥で渦まぐ。掌の皮にに爪が深く突き刺さる
「もう全部終わったのよ、誰の所為とかそういう話だって初めからないの。戦闘に参加しなかったラクサスにもお咎めなし、マスターはそう言ってるのよ」
「そりゃそうだろ俺には関係ねえことだ。ま……オレがいたらこんな不様な目にはあわなかったがな」
切れた。リンカが今まで我慢してきたものが切れた。ぎちぎちと握りしめた掌の皮が切れた。ラクサスとリンカの間を結んでいた唯一の細い糸が切れた。
椅子から立ち上がりラクサスに殴りかかろうとするナツの肩を掴み後ろに追いやる。そしてそのまま爪が突き刺さり血を流す拳でラクサスの頬を勢いよく殴った。
まさかリンカに殴られるとは思っていなかったため少しふらつくが所詮は女と男、勢いよくといっても受けるダメージが少ないなんてことはわかりきっていた。けれど彼女にとってはそれでもよかった。
「痛てェじゃねぇか、なにすんだよ」
「…最低」
「あ?」
イラつきを隠すことなくラクサスは自分を殴った彼女の襟元を掴み強く睨む。だがリンカはそれに臆することはなく寧ろ睨み返すほどだった。今までに見たことのない彼女の態度に周りは困惑する、こんなに怒りを面に出すリンカを見たことがなかったからだ。
「最低って言ったの。ピンチだった家族に対して嘲笑って、ふんぞり返って、何もしなかった貴方が何偉そうな口を開いてんの、ひどく不愉快だからやめて」
「…テメェこそいっちょ前に俺に説教すんじゃねぇよ。そのクソみてえな家族愛の自論には相変わらず反吐が出る」
「なら良かった、私もあなたみたいな人昔から反吐が出るほど大っ嫌いだったの」
にっこり。そんな言葉が付くほどの笑顔が顔に貼られる。無論その笑みは本物なわけが無く心の内では笑うどころが怒りが今も湧き上がっていた。そんな彼女にラクサスも一瞬反応した。最もそんな彼に気付いた者は誰もいないが。
「ククッ」
「何?」
「俺がギルドを継いだら弱ェモンは全て削除する、そしてお前みたいにはむかう奴も全てだ」
掴んでいた手を荒々しく放し、リンカ達に背を向ける。後ろによたつきながらもそんな彼に「お前がマスターになるんだったらこっちから辞めてやる」と今にも舌打ちしながら言いそうなほど顔を歪める。
「最強のギルドをつくる!!!誰にもなめられねえ史上最強のギルドだっ!!!」
ギルドを思っての行動、それは正しいはずなのに彼はどんどん間違った方向に行ってしまっている。笑いながら歩みを進めるラクサスの背中を見ながらリンカは己の苛立ちともやもやとした何とも言えない気持ちを抱えた。
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ラクサスの姿が見えなくなるのと同時にリンカも動き出した。その歩みはまだまだ怒りが収まっていないのが丸わかりで誰も彼女に声をかけることが出来ない。荒々しく掲示板から依頼書を引きちぎるとまた荒々しくカウンターに出した。
「…行ってくる!」
「いってらっしゃい」
周りが今まで見たことのない彼女に狼狽えながらもミラだけがいつも通りの笑顔とクエストに出る彼女に見送りの言葉を送った。
そして彼女の姿も見えなくなりようやく周りはいつもの騒がしさを取り戻す。しかしその話の内容はラクサスの事であったり先ほどのリンカの事だったりと似たようなものばかりだ。カウンターで自分の仕事を再開したミラとルーシィもその人グループであった。
「…もしかしてリンカさんとラクサスって昔から仲が悪かったんですか?」
あの優しい姉のような人が自分の目の前で人を殴り、きつく睨みつけていた。それだけで、どれほど彼女がその人物に嫌悪感を抱いているのか分かってしまうのではと思うくらいに。しかしミラから返ってきた返事は肯定するようなものでは無く、曖昧な返事が含まれていた。
「うーん…昔は寧ろ凄く仲が良かったのよ、いつも一緒にいるくらい」
「えっ!?そうだったんですか」
「だから彼とこれ以上溝を深めないようにしてたみたいなんだけど、今日の事でリンカの方が色々溜まっていたものが溢れ出ちゃったみたい」
我慢し続けていればいつか破裂してしまうのは当たり前のこと。それが彼女の場合今日だった。たったそれだけのこと。けれどもミラはやるせない気持ちになる。あの2人のことを昔から見てきて二人の仲がどれ程良かったか知っている数少ない人間だというのに、何も出来なかった。
仲のいい2人の想像がうまくついていないルーシィを見ながら間違った道を行く彼を見てずっと悲しんできたであろう彼女に思いを馳せた。