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「リンカは今年もミス・フェアリーテイルには出ないのか?」
「うん、そのつもり」
怒りを数日かけて抑えたある日新しく出来たギルドのカウンターにいれば、ショートケーキを手に持ったエルザにリンカは話しかけられた。内容は今年開催されるファンタジアというお祭りの出し物の一つであるミス・フェアリーテイルについて。これは現代のものでいえばギルド内のミスコンのことである。
「今年こそリンカにも出て欲しかったな」
「いやいや。ミラとかエルザとか綺麗な人が沢山参加するのに私みたいなのは場違いすぎるでしょ」
「そんなことないだろう。リンカだって綺麗だ」
「うんうん」
「ありがとう、お世辞でも嬉しいよ」
誰から見ても美人だと思われる2人にお世辞でも褒めて貰えるとは気恥ずかしさと少しの嬉しさが入り交じる。
しかし言った本人達はお世辞とは全く思っていなかった。実際リンカの人気というものは彼女が知らないだけでとても高い。試しに彼女の姿を模したフィギュアを数体売りに出したところ一瞬にして完売で「在庫を増やして欲しい」という声が上がるほどであった。
そんなの当たり前だ。なんせ彼女はこのギルドの唯一と言っていいほどの常識人で、面倒見が良く、誰かを守ることが出来る強い力を持っている。外見だけではなく内面に引かれたものも多いことだろう。無論ビジュアルだってリンカが低く見ているだけで周りと負けず劣らずだ。そんな彼女を嫌う人がどこにいるというのだろうか。
しかし自分のことになると謙遜が酷い彼女はその周りからの好意に気づくことは無く思わず呆れた溜息が漏れそうになる。
「何でそう人の好意を素直に受け取らないんだ」
「そうよ、それがリンカの唯一悪い所よ」
「何でって言われても…」
明確な理由は出てこない。別に彼女達を疑ってはいないし、自分を褒めてくれることは嬉しい限り。けれどだからといって現世では平々凡々で役割を与えるとすれば村人Bというモブになるであろう生活をしてきたリンカに人生勝ち組とも言える2人からの言葉というのは何とも巨大で抱えることが出来ないのだ。
うーん…という言葉が思わず漏れ出ながらなんて答えようか考えていると、柱に隠れながらこちらを見てくる女の子が目に入った。
「ねえ、あの子…」
「…ああ、ジュビアの事か」
「そういえばリンカは初めて顔を合わすわよね」
マカロフから新しく幽鬼の支配者から2人入ったと聞いていた。ジュビアとガジル。幽鬼の支配者に対してもう怒りも消え、純粋に新しい仲間ができたことに喜んだ。しかし、ジュビアはともかく彼は仲間を傷つけギルドを壊した。そんな彼をマカロフが引き入れたことには少し意外性があった。けれどきっとあの人の事だから何も考えずに入れたわけでは無いのだろう、だったら自分は何も言わないし素直に受け入れる。
ジュビア!そうエルザが呼べば肩を揺らしてリンカ達のところへ向かってくる。何故かここまでくるのにずっと恨めしそうな顔をして睨んでくる、まさか彼女に恨まれるようなことをしたのか心配になるが何も思いつかず逆に怖い。
「あー…えっと、私はリンカ。よろしく…ね?」
「グレイ様の…恋敵…」
ボソリと呟かれた言葉に何となく理解出来た。「グレイ様」「恋敵」つまり彼女はグレイの事が好きで、何故かリンカも彼の事が好きと脳内変換され、ライバルという位置に立たされているのだ。何故こんな位置に立たされてしまったのか分からないが。
「…ジュビアはグレイの事が好きなんだね」
「えっ!あ!そ、それがどうしたんですか!」
「いいね青春だ。応援してる」
自分には無かった恋心が眩しい。顔を真っ赤にした可愛らしい彼女に対してリンカは素直な気持ちで応援する、と言えば目を丸くさせた。
勝手に恋敵と思っていた彼女から自分の気持ちに背中を押すような言葉に、まさか騙し討ちをするのではと疑うも即座に本人から否定される。
「グレイは確かにかっこいいけど、私は別に異性として見てないから」
「じゃ、じゃあグレイ様の事どのように思っているんですか!」
「どうって……弟?」
「おとうと…」
血も繋がってないし私が勝手にそう思っているだけなんだけどね。と付け足した言葉は残念ながら俯き何かを妄想しているジュビアの耳には届かなかったようだ。
「お姉様!」
「んん?」
突然顔を上げたと思えばお姉様と言われ思わず聞き返してしまう。しかし帰ってくる言葉は変わることはない。思わずリンカはエルザ達の方に顔を向けるが1人はショートケーキに夢中でもう1人は楽しそうにこちらを見るだけ。
先ほどの顔とは変わってキラキラとした目で見てくる彼女に思わず引きつった笑いが出るが、ジュビアが気づくことはない。
「お、お姉様とかそんな畏まった感じに言わなくていいんだよ?普通に名前で…」
「ではリンカ様ですね!」
「それもちょっと…」
様付けするような人間ではないためリンカは否定するが「もしかして、迷惑でしたか…?」と悲しそうにいう彼女に耐えきれなくなり許可を出してしまった。やはり美人はずるい、なんでも許したくなってしまう。
しかし嬉しそうに返事をする彼女に甘くなってしまうのはもうしょうがない事なのだろう。