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特に何かをする予定なんてないリンカはファンタジアの準備をするため街を歩いていた。マカロフに拾われたあの日からマグノリアで過ごしてきたお陰か足を進める度に色々な人から呼び止められる。「今日は頑張ってね」「これよかったら食べて」「あの時はありがとう」なんて話したり何かものを貰ったり、気づけば小物しか持ってなかった彼女の腕にはたくさんの食べ物やら小物やらが袋に入ってぶら下がっている。

『俺が変わりに持とうか?』
『大丈夫。これぐらい自分で持たなきゃ』

ジャスティスの好意に甘え過ぎてもいけない。断りを入れながら下がりそうになった袋を元の位置へと上げ直し、欲しいものも揃ったためそろそろギルドに戻ろうと踵を返した時だった。

パチッ、まるで静電気が起きたかのような一瞬の痺れに足を止める。その正体は本当に静電気などではなく意図的に彼女に送られた小さい魔力であった。まるで「こっちへ来い」と誘うように発せられるそれはまたパチリ、パチリと音を立てる。挑発とも取れるそれに乗るようにリンカは町の外れへと向かって行った。

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着いた先は廃墟となった家。少し不気味に思えるがリンカは戸惑いもなく扉を開けた。それは中にいる人物が誰だか分かっていたからだろう。

「よォ偶然だな」
「あんなわかりやすい魔力を流したくせして何が偶然なの。ラクサス」

崩れかけた階段に座っていたのはリンカにわざと魔力を当てた張本人で、彼女が今1番会いたくなかった人物であった。
何でこんな日にここにいるの、とでも言いたげな顔で言い放つリンカにラクサスは面白そうに笑う。

「急に冷たくなったな、前まで気まずそうな顔をしてるだけだったていうのに」
「私結構考えちゃう人間だからね…どうすればいいのか分からなくて迷ったし悩んだ。でも結局貴方は私が嫌いで、私も貴方の事が大っ嫌い。それがあの時ハッキリしたからもう悩んだりはしない」
「…ああ、そうだな、俺とお前はお互い嫌いあってる。だから、」

そう自身に彫り込むようにゆっくり言葉を紡いだかと思えば手を小さく振り合図を出した。
隣家を囲むように紫に発光した文字が浮かび上がり半透明な壁を作り上げる。慌てて出ようとするがもう遅く、伸ばした手は弾かれた。

「っ!!術式!?」
「お前は俺の作戦の中の駒にすら必要ない」
「これフリードの魔法か…!」

昔、まだ二人の中もよかった時にフリード本人から教えてもらった事があった。術式から出ようとジョブである彼等の力を借りようとするが魔法が使えない、念話すら繋がることがない。
半透明の壁から浮かんできた文字には「この作戦が行われている間は外に出ること術式の中にいる人間が魔法を使うことを禁ずる」という彼女の行動を制限するもの。これでは彼等に助けを求めることすら出来ない。

「あぁそういやお前フリード達とも仲良かったんだっけか?まあそれもお前だけがそう思ってただけかも知んねぇけど」
「ッラクサス!!」
「そんな怖い顔すんなよ。ただ俺の作戦が実行されている内はここで大人しくしてればいいだけなんだから」

作戦。一体彼はこの町でなにをするつもりなのか、それを聞こうとしてもラクサスはもうこの場所を去った後であり、リンカはこれから何が起きようとしているのか何もわからないまま術式の中に閉じ込められたままであった。