― 贈り物の意味を教えて ―
錆兎生存if同期設定
いつもなら気にする事もない店。だけど不意にその店先に並んでいるものを見たときまっ先にあいつの顔が浮かんだんだ――。
* * *
「とりあえず私を最初に出すのは止めていただけますか?」
「え? あ……はい……え?」
丸椅子に座って傷の具合を見てもらっていたら蝶屋敷の主であり、蟲柱の胡蝶しのぶさんに意味の分からないことを言われた。
「ご都合だか何だか知りませんが貴女はただの切り傷です」
「そうです、ね?」
「まあそれは置いといて……。もう少し位置がズレていれば失明していたかもしれません」
何気に怖い事を言いながら手際よく診察と処置を受けつつ曖昧な返事をする私。
「傷跡が残らないようにちゃんと薬塗るんですよ」
「はーい、ありがとうございました」
丁寧にお礼を言って診察室を出ると数歩歩いて立ち止まる。やっぱり何度考えても最初の〈ご都合が〜〉のくだりの意味が分からない。
うんうん唸っていると一緒に任務に行っていた同期の義勇が壁に凭れて立っていた。
「……」
「只の切り傷だって。傷は問題ないよ」
「傷“は”?」
「うん。髪の毛はやっぱり切った方がいいって」
任務中に鬼の攻撃を避けたつもりが紙一重間に合わなくて髪と額をばっさり切ってしまった私。
隠の人から一応診てもらってくださいと言われてこうして蝶屋敷に来たけど傷に関しては問題ないのお墨付きをいただいた。
しのぶさんの別の意味不明な言葉ですっかり忘れてたけど、髪の毛も切り揃えた方がいいと言われたんだ。
「髪は女の命なのにー」
「……命?」
こてんと首を傾げる義勇にこれだから女心の分からないやつはと心の中で毒づく。
「義勇も早く女心が分かるようになるといいね」
心外! みたいな顔をしている義勇と蝶屋敷の前で別れて髪を切り揃えてもらいに行く。
今日はこの後真菰とあんみつ屋さんに行くんだ。任務が終わるのが今日だって伝えてあったから真菰もこっちに来ているはず。
何年か振りにうなじまで見えそうなくらいに短くなった髪型は頭が軽い。足取りまで軽くなった私はあんみつ屋に向かった。
「とりあえず私を最初に出すのは止めていただけますか?」
「え? あ……はい……え?」
丸椅子に座って傷の具合を見てもらっていたら蝶屋敷の主であり、蟲柱の胡蝶しのぶさんに意味の分からないことを言われた。
「ご都合だか何だか知りませんが貴女はただの切り傷です」
「そうです、ね?」
「まあそれは置いといて……。もう少し位置がズレていれば失明していたかもしれません」
何気に怖い事を言いながら手際よく診察と処置を受けつつ曖昧な返事をする私。
「傷跡が残らないようにちゃんと薬塗るんですよ」
「はーい、ありがとうございました」
丁寧にお礼を言って診察室を出ると数歩歩いて立ち止まる。やっぱり何度考えても最初の〈ご都合が〜〉のくだりの意味が分からない。
うんうん唸っていると一緒に任務に行っていた同期の義勇が壁に凭れて立っていた。
「……」
「只の切り傷だって。傷は問題ないよ」
「傷“は”?」
「うん。髪の毛はやっぱり切った方がいいって」
任務中に鬼の攻撃を避けたつもりが紙一重間に合わなくて髪と額をばっさり切ってしまった私。
隠の人から一応診てもらってくださいと言われてこうして蝶屋敷に来たけど傷に関しては問題ないのお墨付きをいただいた。
しのぶさんの別の意味不明な言葉ですっかり忘れてたけど、髪の毛も切り揃えた方がいいと言われたんだ。
「髪は女の命なのにー」
「……命?」
こてんと首を傾げる義勇にこれだから女心の分からないやつはと心の中で毒づく。
「義勇も早く女心が分かるようになるといいね」
心外! みたいな顔をしている義勇と蝶屋敷の前で別れて髪を切り揃えてもらいに行く。
今日はこの後真菰とあんみつ屋さんに行くんだ。任務が終わるのが今日だって伝えてあったから真菰もこっちに来ているはず。
何年か振りにうなじまで見えそうなくらいに短くなった髪型は頭が軽い。足取りまで軽くなった私はあんみつ屋に向かった。
* * *
真菰と無事に合流してあんみつ屋の暖簾を潜る。
ここのあんみつ美味しいんだ〜。んふふ、この黒蜜の艶堪らーん。垂れない内に口の中にいらっしゃーい、ってしようとしたら店先が何やら騒がしい。
何か揉め事かなとも思ったけど私はあんみつが優先なんだ。揉め事は警吏にでも任せとこ。
「……おいっ!」
「へっ?」
店先の騒ぎが近付いてきてその元凶が私の右手を掴んだ。
「錆兎?」
「お前生きてるのか!?」
「はあ?」
今日は意味の分からない事をよく言われる。しのぶさんの次は錆兎か!? 私も真菰も何言ってるんだというように錆兎を見上げる。
「義勇が! お前の命がなくなったって!」
「生きてるし。錆兎の目の前に居るのは誰なの?」
っていうか、義勇とは任務も一緒だったし私が死んだとか何でそんな嘘を言ったの? ……もしや私嫌われてる? 同期なのに!? さっき女心の事話したから!?
冷静を取り戻したのか錆兎は咳払いを一つして私の手を離した。
「髪……切ったのか?」
「ああ、これは任務でちょっとやらかしまして。髪の毛整えたらこんな短くなっちゃった」
「額の傷は任務のか?」
「いやー、お恥ずかし……」
私の短くなった髪を抑えながら額の傷を覗き込む錆兎に言葉が途中で止まってしまった。
「任務とはいえ女が顔に傷をなるべく作るな」
「ごめん」
「それにその髪」
「?」
「髪は女の命っていうだ――」
「「「あ」」」
錆兎の“髪は女の命”発言に私、真菰、錆兎の声が重なる。
今三人とも考えているのは同じ事だ。義勇の“命が無くなった”発言の真相が分かった。髪の毛ね、髪の毛。知ったばかりの知識を披露するのは構わないけど端折るな。
「……義勇の言葉足らずも程があるだろう」
おでこから手を離すと錆兎は溜息を吐きながら私の隣にどかりと座った。
「ふふ」
「……何だよ真菰」
「錆兎ってば慌て過ぎちゃったね」
真菰が錆兎をからかっているけど私にそんな余裕はない。錆兎の触っていたおでこがとても熱い。炭治郎か私は! 落ち着け。落ち着け私!
必死に呼吸を整えている私を他所に真菰と錆兎はお喋りを続けている。いいなあ真菰は。同門だし、錆兎と同じ呼吸の使い手だし。義勇と最近は炭治郎も加わって仲良しで羨ましい。
いじけてうじうじしているのを頭を振って止める。甘いあんみつ食べて元気になろうそうしよう。
さっきから放置されているあんみつは相変わらず艶がかっていて輝きを失っていない。私もこの黒蜜に負けないように凛と艶を放てるようになろう。うんうん。
そうやってあんみつを頬張っていたら向かいの真菰が何かに気付いたみたいだ。
「ねえ錆兎、その隊服のポケットから見える包みは何?」
「包み?」
横に居る私からは見えないけど錆兎は何か持っているみたい。
「いや、これは……」
「誰かへの贈りものかな?」
「そうなんだが……」
ちらりと私を横目で見て勘が働く。私はお邪魔ですね。その視線に気付かないふりをして残りのあんみつを急いで胃に収めていく。折角の美味しいあんみつなのに!
「さ、食べ終わったし私帰るね。錆兎と真菰はもうちょっとゆっくりしていって」
できる限り棒読みにならないように席を立つ。髪は切る羽目になるしあんみつは味がしないし今日は良いことない。頭も心も軽かったのに今は全部重い。早く帰って寝よう。もう泣きそう。
踵を返して背を向けようとしたらさっきと同じように右手を掴まれた。
「何で帰る?」
何でって……。
「お邪魔しちゃ悪いかなって」
「邪魔って何だよ。座れ」
私の目の前で錆兎が贈り物を渡すの見たくない。例えそれが仲良しの真菰でも。その場から動かない私に痺れを切らしたのか錆兎が仕舞っていた包みを出して私に押し付けてきた。
「これはお前に渡すために持ってたんだ。だから座れ」
掴んでた手を引っ張っられてそれに逆らうことなくまた椅子に座って押し付けられた包みをゆっくり開ける。
「簪?」
「お前の髪に似合うと思ったんだ」
簪は大きめの玉が一粒付いていて水の呼吸みたいな色がとても綺麗。
「可愛い」
「そういった色好きだろ」
「うん……あ! ねえこれ!」
私の好きな色を知っていてくれた錆兎に照れてしまってそれを隠すように色々な角度から簪を見る。簪をくるりと回して見ていたら水色の中に桃色が差しているのを見つけた。桃色といよりこの色は……。
「錆兎の髪の色と同じだね」
見つけた嬉しさに錆兎にも見えるように近付くと思ったより近付いてしまい身体が触れてしまう。
「あ、ごめん」
「あー……」
気が高揚し過ぎたと謝ったら錆兎はそのまま席を立った。
「お前が生きている事が分かって良かった。とりあえず勘違いの元の義勇を叱ってくる」
頬を掻きながら私を見ない錆兎は早口気味に言うと私たちの返事も聞かずに店を出ていってしまった。
あっという間に去っていった錆兎にぽかんとしていたらくすくすと真菰が笑っている。
「ふふ、良かったね」
「真菰……もしかして気付いてる?」
「何のこと?」
にこにこしながら頬杖付いている真菰は私の気持ちとか何もかもお見通しみたい。そんなに態度に出てたかな。
「簪はね、贈り物として意味があるんだよ?」
「どんな意味があるの?」
櫛に意味があるのは知っていたけど簪は知らなかった。先が尖ってるから“お前を刺す”とかだったらどうしよう。
「知りたい?」
「そこまで言って教えてくれないのは意地悪だよ真菰ー」
思わせ振りな真菰に教えてよーと何度か言うとまた笑われてしまった。
「自分の代わりに貴女を守ります」
「えっ!」
「まあ錆兎も気付いていないっぽいけどね」
「だよねえ」
そんな意味知ってたらくれないでしょ。
「でも……ふふ」
「?」
「呼吸を表す色に自分の髪色を混ぜたのを贈るんだから気持ちは籠もっていると思うよ」
ちょっとだけ。ちょっとだけ期待してもいいかな。
でもその前に!
「わ、私! お礼言ってくる」
錆兎に続いて慌ただしく店を出る私を真菰は最後まで笑顔で見送ってくれた。
髪が伸びて簪がつけられるようになったら真っ先に錆兎に見せよう。それまではここに。私は簪を隊服のポケットにそっと仕舞った。
真菰と無事に合流してあんみつ屋の暖簾を潜る。
ここのあんみつ美味しいんだ〜。んふふ、この黒蜜の艶堪らーん。垂れない内に口の中にいらっしゃーい、ってしようとしたら店先が何やら騒がしい。
何か揉め事かなとも思ったけど私はあんみつが優先なんだ。揉め事は警吏にでも任せとこ。
「……おいっ!」
「へっ?」
店先の騒ぎが近付いてきてその元凶が私の右手を掴んだ。
「錆兎?」
「お前生きてるのか!?」
「はあ?」
今日は意味の分からない事をよく言われる。しのぶさんの次は錆兎か!? 私も真菰も何言ってるんだというように錆兎を見上げる。
「義勇が! お前の命がなくなったって!」
「生きてるし。錆兎の目の前に居るのは誰なの?」
っていうか、義勇とは任務も一緒だったし私が死んだとか何でそんな嘘を言ったの? ……もしや私嫌われてる? 同期なのに!? さっき女心の事話したから!?
冷静を取り戻したのか錆兎は咳払いを一つして私の手を離した。
「髪……切ったのか?」
「ああ、これは任務でちょっとやらかしまして。髪の毛整えたらこんな短くなっちゃった」
「額の傷は任務のか?」
「いやー、お恥ずかし……」
私の短くなった髪を抑えながら額の傷を覗き込む錆兎に言葉が途中で止まってしまった。
「任務とはいえ女が顔に傷をなるべく作るな」
「ごめん」
「それにその髪」
「?」
「髪は女の命っていうだ――」
「「「あ」」」
錆兎の“髪は女の命”発言に私、真菰、錆兎の声が重なる。
今三人とも考えているのは同じ事だ。義勇の“命が無くなった”発言の真相が分かった。髪の毛ね、髪の毛。知ったばかりの知識を披露するのは構わないけど端折るな。
「……義勇の言葉足らずも程があるだろう」
おでこから手を離すと錆兎は溜息を吐きながら私の隣にどかりと座った。
「ふふ」
「……何だよ真菰」
「錆兎ってば慌て過ぎちゃったね」
真菰が錆兎をからかっているけど私にそんな余裕はない。錆兎の触っていたおでこがとても熱い。炭治郎か私は! 落ち着け。落ち着け私!
必死に呼吸を整えている私を他所に真菰と錆兎はお喋りを続けている。いいなあ真菰は。同門だし、錆兎と同じ呼吸の使い手だし。義勇と最近は炭治郎も加わって仲良しで羨ましい。
いじけてうじうじしているのを頭を振って止める。甘いあんみつ食べて元気になろうそうしよう。
さっきから放置されているあんみつは相変わらず艶がかっていて輝きを失っていない。私もこの黒蜜に負けないように凛と艶を放てるようになろう。うんうん。
そうやってあんみつを頬張っていたら向かいの真菰が何かに気付いたみたいだ。
「ねえ錆兎、その隊服のポケットから見える包みは何?」
「包み?」
横に居る私からは見えないけど錆兎は何か持っているみたい。
「いや、これは……」
「誰かへの贈りものかな?」
「そうなんだが……」
ちらりと私を横目で見て勘が働く。私はお邪魔ですね。その視線に気付かないふりをして残りのあんみつを急いで胃に収めていく。折角の美味しいあんみつなのに!
「さ、食べ終わったし私帰るね。錆兎と真菰はもうちょっとゆっくりしていって」
できる限り棒読みにならないように席を立つ。髪は切る羽目になるしあんみつは味がしないし今日は良いことない。頭も心も軽かったのに今は全部重い。早く帰って寝よう。もう泣きそう。
踵を返して背を向けようとしたらさっきと同じように右手を掴まれた。
「何で帰る?」
何でって……。
「お邪魔しちゃ悪いかなって」
「邪魔って何だよ。座れ」
私の目の前で錆兎が贈り物を渡すの見たくない。例えそれが仲良しの真菰でも。その場から動かない私に痺れを切らしたのか錆兎が仕舞っていた包みを出して私に押し付けてきた。
「これはお前に渡すために持ってたんだ。だから座れ」
掴んでた手を引っ張っられてそれに逆らうことなくまた椅子に座って押し付けられた包みをゆっくり開ける。
「簪?」
「お前の髪に似合うと思ったんだ」
簪は大きめの玉が一粒付いていて水の呼吸みたいな色がとても綺麗。
「可愛い」
「そういった色好きだろ」
「うん……あ! ねえこれ!」
私の好きな色を知っていてくれた錆兎に照れてしまってそれを隠すように色々な角度から簪を見る。簪をくるりと回して見ていたら水色の中に桃色が差しているのを見つけた。桃色といよりこの色は……。
「錆兎の髪の色と同じだね」
見つけた嬉しさに錆兎にも見えるように近付くと思ったより近付いてしまい身体が触れてしまう。
「あ、ごめん」
「あー……」
気が高揚し過ぎたと謝ったら錆兎はそのまま席を立った。
「お前が生きている事が分かって良かった。とりあえず勘違いの元の義勇を叱ってくる」
頬を掻きながら私を見ない錆兎は早口気味に言うと私たちの返事も聞かずに店を出ていってしまった。
あっという間に去っていった錆兎にぽかんとしていたらくすくすと真菰が笑っている。
「ふふ、良かったね」
「真菰……もしかして気付いてる?」
「何のこと?」
にこにこしながら頬杖付いている真菰は私の気持ちとか何もかもお見通しみたい。そんなに態度に出てたかな。
「簪はね、贈り物として意味があるんだよ?」
「どんな意味があるの?」
櫛に意味があるのは知っていたけど簪は知らなかった。先が尖ってるから“お前を刺す”とかだったらどうしよう。
「知りたい?」
「そこまで言って教えてくれないのは意地悪だよ真菰ー」
思わせ振りな真菰に教えてよーと何度か言うとまた笑われてしまった。
「自分の代わりに貴女を守ります」
「えっ!」
「まあ錆兎も気付いていないっぽいけどね」
「だよねえ」
そんな意味知ってたらくれないでしょ。
「でも……ふふ」
「?」
「呼吸を表す色に自分の髪色を混ぜたのを贈るんだから気持ちは籠もっていると思うよ」
ちょっとだけ。ちょっとだけ期待してもいいかな。
でもその前に!
「わ、私! お礼言ってくる」
錆兎に続いて慌ただしく店を出る私を真菰は最後まで笑顔で見送ってくれた。
髪が伸びて簪がつけられるようになったら真っ先に錆兎に見せよう。それまではここに。私は簪を隊服のポケットにそっと仕舞った。
初出:2021/04/28
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