― ドラキュラ ―

 マントをバサリと翻す姿にひどく遠い昔を思い出すような感覚になる。

「血を吸われるのと菓子をよこすのとどちらを選ぶ?」
「血を吸うって……なんか蚊みたい」

 衣装の雰囲気に合わせてセリフを変える杏寿郎だけど違和感しかない。
 楽しそうに近寄ってくる杏寿郎にさっき感じたデジャブを頭の隅に追いやった私は準備していたものを印籠を見せるように出した。

「ドラキュラ寿郎にはこれをあげよう。悪霊退散!」
「はっはっは! 生憎俺ににんにくは効かん!」

 にんにくを見て不敵に笑う杏寿郎の予想通り過ぎる反応に、してやったりの私は表情筋が機能しなくなる。
 相当変な顔をしているらしい私に杏寿郎が眉根を寄せて、なんか失礼だな。

「これ本当ににんにくだと思う?」
「む?」
「見た目はにんにく、しかしその実態は! ハロウィン限定超レアな薩摩芋を使用したお菓子です!」
「よもや!」

 自分の大好物の名前を聞いたドラキュラ改め杏寿郎はもう私の血ではなく手元のお菓子に釘付けだ。

「ぐっ……、血を吸うのは諦めるから……菓子を、っくれ!」

 イタズラを諦めて手を差し出す杏寿郎にお菓子を乗せれば途端に破顔するから朝早く並んで良かったと報われた。
 私も自分用に買ったにんにく型のお菓子の包みを広げ、二人仲良く食べ始める。

「すごいな、形もにんにくみたいだ。うむ、うまい……うまいっ!」
「ここまで徹底してたんだね、あー、おいひぃー」

* * *

 そんな平和で美味しいハロウィンを過ごしたはずなのに、次の日私の首元にはそれはもうくっきりと吸われた痕が付いていた。

「お菓子あげたのにイタズラされるとか……」
「血は吸わないと言っただけだ」

……解せぬ。

2022/10/31:Twitter初出
2024/01/04:サイト用に修正