― ミイラ ―
💎嫁s要素あり
二人で住んでいる家の近くの商店街がハロウィンイベントの一環として、仮装姿で買い物すると割引をしてくれるらしい。
そんな情報を仕入れた私たちは大学時代に買ったコスプレ衣装を引っ張り出した。
腕や首にヒラヒラした布が付いたミイラ男になるためのチープな白い全身タイツは、確か一番安かったからだったっけ? とか理由なんてもう覚えてないねと杏寿郎と笑い合う。
一緒に宅飲みしようと二人共通の友達を誘ってみると杏寿郎が扮したミイラ男が地味すぎると言い放ち、サラシを追加で買って体に巻き始めた。
その効果もあってかミイラ感がだいぶアップした杏寿郎は派手なドラキュラの仮装をした友達と二人で意気揚々と商店街へ買い出しにいき、私と友達の彼女たちは仮装せずに家でまったりお喋り。程なくして杏寿郎たちは酒屋で大量のお酒とつまみを半額近くで買えたと両手に大きな袋を持ちながら笑顔で帰ってきた。
「おかえり。沢山買ってきたね」
「今日でなくなりそうだがな。布を巻きすぎて苦しいから先に着替えてくる」
「俺はこのままでいーや。苦しくねーし何より派手だしな」
リビングへ来ずにそのまま寝室へ入っていく杏寿郎と反対に、友達はベルベットのマントを翻しながらリビングのソファに座る。足を組む様が絵になるなーなんて思っていると案の定彼は彼女たちのもてなしと持て囃しを存分に受け始めた。
* * *
グラスも氷も出して、買ってきてもらったつまみも出していつでも乾杯できる状態なのにテーブルを囲む人数が一人足りない。
「なー、煉獄まだ着換え終わんねーの?」
お酒を飲むのを我慢して部屋のドアを見る友達に釣られてみんなの視線がそこに集まる。
「確かに遅いですね」
「私もーお腹空きました!」
「サラシ何枚かに切ったけど途中で面倒になって長いのも巻いたから絡まってるかもなー」
「ちょっと様子見てきたら?」
矢継ぎ早に繰り出される早く飲みたいの圧力に腰を上げて、ドアをノックしながら部屋に入ると杏寿郎は何もせず立ちすくんでいた。
「あれ? 着替え全然終わってないじゃん」
「……少し手間取ってな。手伝ってもらっていいだろうか?」
「いいよ。早く着替えて乾杯しよー……ってこれどこから解くの?」
端を教えて貰って引っ張れば簡単に解け始める布。
私が回るか杏寿郎に回ってもらうか――。後者を選ぶと両手を上げてくるりと回る杏寿郎の様子がなんかの時代劇みたい。
「なんか悪い顔したくなっちゃうね」
「悪代官か?」
「そうそう、それそれ。よいではないかー! よいではないかー!」
杏寿郎をくるくる回していたら解けた先が床に溜まり始め、回りすぎたとしゃがむ杏寿郎に休んでていいよと言いながら解くのを続けていると足に違和感を感じる。
なんだろうと視線を下に向けるとしゃがんだ杏寿郎が解いたばかりの布を私の足に巻いていた。
「……なにしてるの?」
「ミイラ取りをミイラにしようと思ってな」
「なーに言ってんの。みんな待ってるよ」
お代官様ごっこも楽しんだし早く戻らないと。杏寿郎の頭に指を埋めてわしゃわしゃしていたら部屋の外から声を掛けられる。
「おーい煉獄ぅー、俺たち帰るわー。鍵は言いつけどおり玄関ポストに入れとくからなー」
「ああ! また今度ゆっくり来てくれ!」
「お邪魔しました。お酒とか半分くらい貰って帰りますね」
「私たちも早く帰ってハロウィンの続きしましょー。最初に血を吸うのは私がいいです!」
「馬鹿だね、アンタは吸われる側だよ!」
ワイワイ騒がしく部屋の外を通り過ぎる四人分の足音、その後に玄関のポストに何かが入れられる甲高い金属音が小さく聞こえた。
この家に私たち二人きりになったのが分かると杏寿郎は私の戸惑いにもお構い無しで布を巻き付けるのを再開する。
布で隠れたふくらはぎの上、まだあらわになっている膝を撫でながら上目遣いで見てくる杏寿郎の手から逃げようと足を抜こうとすれば、今度は指先を太ももに埋めて爪で浅く引っ掻いてきた。
「ん……。ねえ、いつから企んでたの?」
「はて? なんのことだろうか?」
「ミイラ男の正体は悪代官ってこと?」
「よもや!? まあ、ナマエが望むなら今度は俺がその役を請け負うのも吝かではない」
私の足から伸びる布を辿れば杏寿郎に繋がっている。
吝かではないなんて全然思っていない指も、声も、表情も。妖しく私を誘うのに包帯を模した布が全て解けて、私の視界いっぱいに広がるのは悪代官でもなく白い全身タイツの杏寿郎。
雰囲気と視覚のギャップに笑い涙で干からびて本当にミイラになりそう。これは明日、さっき帰ってしまった友達に話すネタとして決定だ。
笑われてふてくされ顔の杏寿郎に布の端を持たせて「早く解いて」と言えば口角を上げる杏寿郎はやっぱり悪代官じゃないな。
だって「お主も悪よのう」なんて可愛く思えるくらい杏寿郎はワルーい顔をしていた。
グラスも氷も出して、買ってきてもらったつまみも出していつでも乾杯できる状態なのにテーブルを囲む人数が一人足りない。
「なー、煉獄まだ着換え終わんねーの?」
お酒を飲むのを我慢して部屋のドアを見る友達に釣られてみんなの視線がそこに集まる。
「確かに遅いですね」
「私もーお腹空きました!」
「サラシ何枚かに切ったけど途中で面倒になって長いのも巻いたから絡まってるかもなー」
「ちょっと様子見てきたら?」
矢継ぎ早に繰り出される早く飲みたいの圧力に腰を上げて、ドアをノックしながら部屋に入ると杏寿郎は何もせず立ちすくんでいた。
「あれ? 着替え全然終わってないじゃん」
「……少し手間取ってな。手伝ってもらっていいだろうか?」
「いいよ。早く着替えて乾杯しよー……ってこれどこから解くの?」
端を教えて貰って引っ張れば簡単に解け始める布。
私が回るか杏寿郎に回ってもらうか――。後者を選ぶと両手を上げてくるりと回る杏寿郎の様子がなんかの時代劇みたい。
「なんか悪い顔したくなっちゃうね」
「悪代官か?」
「そうそう、それそれ。よいではないかー! よいではないかー!」
杏寿郎をくるくる回していたら解けた先が床に溜まり始め、回りすぎたとしゃがむ杏寿郎に休んでていいよと言いながら解くのを続けていると足に違和感を感じる。
なんだろうと視線を下に向けるとしゃがんだ杏寿郎が解いたばかりの布を私の足に巻いていた。
「……なにしてるの?」
「ミイラ取りをミイラにしようと思ってな」
「なーに言ってんの。みんな待ってるよ」
お代官様ごっこも楽しんだし早く戻らないと。杏寿郎の頭に指を埋めてわしゃわしゃしていたら部屋の外から声を掛けられる。
「おーい煉獄ぅー、俺たち帰るわー。鍵は言いつけどおり玄関ポストに入れとくからなー」
「ああ! また今度ゆっくり来てくれ!」
「お邪魔しました。お酒とか半分くらい貰って帰りますね」
「私たちも早く帰ってハロウィンの続きしましょー。最初に血を吸うのは私がいいです!」
「馬鹿だね、アンタは吸われる側だよ!」
ワイワイ騒がしく部屋の外を通り過ぎる四人分の足音、その後に玄関のポストに何かが入れられる甲高い金属音が小さく聞こえた。
この家に私たち二人きりになったのが分かると杏寿郎は私の戸惑いにもお構い無しで布を巻き付けるのを再開する。
布で隠れたふくらはぎの上、まだあらわになっている膝を撫でながら上目遣いで見てくる杏寿郎の手から逃げようと足を抜こうとすれば、今度は指先を太ももに埋めて爪で浅く引っ掻いてきた。
「ん……。ねえ、いつから企んでたの?」
「はて? なんのことだろうか?」
「ミイラ男の正体は悪代官ってこと?」
「よもや!? まあ、ナマエが望むなら今度は俺がその役を請け負うのも吝かではない」
私の足から伸びる布を辿れば杏寿郎に繋がっている。
吝かではないなんて全然思っていない指も、声も、表情も。妖しく私を誘うのに包帯を模した布が全て解けて、私の視界いっぱいに広がるのは悪代官でもなく白い全身タイツの杏寿郎。
雰囲気と視覚のギャップに笑い涙で干からびて本当にミイラになりそう。これは明日、さっき帰ってしまった友達に話すネタとして決定だ。
笑われてふてくされ顔の杏寿郎に布の端を持たせて「早く解いて」と言えば口角を上げる杏寿郎はやっぱり悪代官じゃないな。
だって「お主も悪よのう」なんて可愛く思えるくらい杏寿郎はワルーい顔をしていた。
2023/3/28:Twitter初出
2024/01/04:サイト用に修正