― かぼちゃ ―

「この大きいカボチャはなんだ?」

 蝶屋敷の軒先に置かれていた中身のくり抜かれているカボチャ。
 あまりの大きさに近くの看護師に訪ねれば、西洋の風習で日本で言う盆のようなものだと教えられる。子供は霊の格好をして悪霊から身を守るとか。

「……ふむ、これだけ大きいと人の頭なら入りそうだな」

 この時、ふと俺に湧いた悪戯心が間違いの始まりだった。

* * *

「なほちゃーん、お薬くーださーい」

 携帯薬を蝶屋敷で今日補充しておいてくれという文を弟子であるナマエに出すと、急と判断しただろうナマエは文ではなく是とだけ鴉に伝言を託し早々に蝶屋敷を訪れる。
 口裏を合わせてもらった看護師の案内の元、ナマエを驚かせようと蝶屋敷の一室でカボチャを被る俺の部屋の外でナマエの気配が止まった。

「あ、あの、今薬を持ってきますのでこちらで少しお待ちください」
「そんなに長居しないし待機するなら縁側とかでいいのに」
「そんな、今日は寒いですしわざわざ来ていただいたのに……」
「ふふ、なほちゃん優しいね。ありがとう。じゃあ遠慮なく部屋で――っ!」

 廊下で看護師と日々の任務の労いを互いにしながらナマエが扉が開けた瞬間、ナマエの殺気が瞬時に頂点に達したのが否応なく分かる。
 言葉を発するより早くナマエは刀を抜き、俺が隊服を着ているにも関わらず問答無用で向かってきた。

「なんでここに鬼が!? なほちゃんここは任せて逃げて!」
「あ、あの! ちがっ……」

 臆することなく闘えない看護師を逃がす心意気とその勇ましさに、場違いにも師として感心する。

「カナヲや胡蝶様が居るならすぐに連絡を!」
「待て! 俺だ!」
「鬼の気配を隠して鬼殺隊になりすます血鬼術!? しかもお師匠である煉獄さんになりすますなんて!」

 ――これ以上はマズいな。

 コトが大きくなる前に力技でナマエを床に縫い付けるが、なおも抵抗するナマエの動きを封じるため完全に馬乗りになった。
 片手でナマエの両手を抑えたまま、俺は被っていたカボチャを壊しながら種明かしをする。

「違う! 本物の煉獄杏寿郎だ!」
「許せな――え? え!?」

 殺気が鳴りを潜め始めるナマエに謝りながら経緯を説明すると全てを理解したナマエに怒られ謝られ、挙げ句「師匠に刃を向けた」と泣かれてしまった。

「この蝶屋敷でいったい何をしているんでしょう?」

 騒ぎを聞きつけてやってきた蝶屋敷の当主の目には、俺が泣いているナマエを押し倒しているようにしか映っていなかっただろう。

* * *

「騒がせてすまなかった!」
「勝手に勘違いしてすみません……」

 ナマエに正体を晒した時よりも胡蝶によって粉々に砕けたカボチャ、畳は裂けあちこちに刀傷の付いた部屋で泣き腫らし目を赤くするナマエと並んで正座する俺。

「煉獄さん? いたずらも程々にしていただかないと私が煉獄さんの頸を落としますからね?」
「肝に銘じよう!」

 原形をとどめてないカボチャを横目に、軽挙は控えようと胸に誓った。

2022/11/24:Twitter初出
2024/01/04:サイト用に修正