壱
始まりは歴史を変えた夏の日の本能寺。
織田信長はいつもの弓稽古で、精悍な顔を汗で濡らしていた。
信長が視線を的から外し、弓を置くと、傍らの小姓が清潔な布で汗を拭き取った。小姓の名は森蘭丸成利。信長が宝と称した少年である。
「湯殿の準備が整っております」
信長は無言で浴室へ足を進めた。蘭丸は、黙って後ろを付いて行く。信長の身の回りの世話をするのが蘭丸の役目である。
信長は広めの岩風呂に浸かっていた。蘭丸は襷掛けした湯帷子姿で信長の傍らに正座をした。
「湯加減は如何で御座いますか?」
良い、と信長は短く言った。蘭丸は嬉しそうに目を細める。
「お蘭は入らぬのか?」
「まだ、仕事が残っております」
「信長の相手も大事な勤めよの」
信長は蘭丸の手首を強引に引っ張った。
「わあ!」
蘭丸は腕を引かれ、肩から勢い良く広い浴槽へ落ちた。信長の逞しい腕に受け止められた。
「くっく…」
間近で呆けた蘭丸を見詰め、信長は目を細めて微笑んだ。無表情な上、余り感情の揺るがない主の優しい顔。蘭丸は安心して、その肩に腕を回した。
「お蘭、汝は、時折憂愁な目をするが…」
「え…?」
「そんな目だ」
「そ、そんなことはございません」
蘭丸は顔を背けた。
「信長が気付かぬと思うたか?」
信長はぐいっと顔を寄せる。蘭丸は瞳を伏せた。
「私なんかを…、蘭は果報者です」
「言わぬのか?」
蘭丸は数秒黒目を泳がせてから、信長に目線を戻す。
「蘭は、信長様が、時折空虚なお顔をなさることが気になります」
「ほう…」
「目指した天下はすぐそこです。ですけれど、信長様は、最近は特に、そんな目をなさいます。蘭に、信長様の思いを、器を知り尽くすことなど出来ませぬ、それは分かっています、ですが…」
信長の切れ長な目が優しい形になる。蘭丸は言葉を失った。
「だが、何だ?」
「蘭は、何時だって信長様を見ています」
蘭丸の頬が赤に染まってゆく。これは、湯の温度のせいではない。信長がこんな目をするときは、蘭丸を愛でようという合図なのだ。蘭丸が幼い頃からの付き合いで、言葉を交わさずとも、こんな風に思いを伝えあうことが幾つもある。蘭丸は期待を抑えながら、冷静になろうと言葉を繋いだ。
「信長様、何もかも、手に入ろうとしています。一体何が…」
「そんなことで…、愛らしいことよ…」
「ら、蘭にとっては、信長様が全て!そんなことなどと、仰らないで下さい」
信長が顔を寄せてきた。蘭丸が目を閉じると、信長は唇を吸った。
「んっ…」
信長の器用な舌が蘭丸の小さい舌を捕らえた。舌を絡ませ合いながら、絞り取るように吸い立てた。
信長が蘭丸の唇を解放した頃、蘭丸は出来上がりつつあった。
「…信長様、蘭は、不安になるのです。信長様が望むものは、天下ではなく…」
「何も言うな。汝は、ただ信長の傍におれば良い」
「信長様…!」
信長は蘭丸の腰に手を添えた。蘭丸が下帯を着けていないのを確認すると、脚の間を割って入る。
「仕事、と申したな?」
「蘭の、大事な勤めですから…、ですが、この中ではのぼせてしまいます」
信長が蘭丸の下肢を掴んだ。
「うう…!湯が汚れてしまいます」
「立派になったな」
信長が蘭丸の成長を確かめるように手を這わせる。蘭丸は信長に身を任せ、促されるまま自身を大きくさせた。信長は根元の膨らみを握る。
「あう…、痛!」
蘭丸が痛みに震えると、信長は蘭丸の体を湯に浮かせ、小さな桃のような先端に指をなぞらせた。
「…信長様…!」
信長の指は先端を集中的に責める。割れ目を広げるように指先で出口を塞ぐ。
「の…」
蘭丸は快楽に身を任せながら信長を見た。優しい眼差しに身が蕩けそうになる。すると、信長の手は激しい上下運動に移行し、蘭丸を掻き立てた。
「あ、あー!」
「出るか?」
「で、出ますう…」
信長は蘭丸の体を岩場に乗せた。濡れて貼り付いた帷子が華奢な体の線をくっきり映し、裾の間から主張した分身が顔を出している。
「信長様…?」
あと少しの所でお預けを食らったようで、蘭丸は哀願の目で主君を見上げた。信長は蘭丸の高く括られた髪に手を伸ばし、飾り付きの結い紐を解いた。
「お蘭、手を上げよ」
蘭丸が従うと、信長は手首を交差し、縛り上げた。細い紐が食い込む。
「足を広げよ」
蘭丸は従いながらも、羞恥に耐えきれずに目を閉じた。
「あ!」
「硬い…、な」
信長の指先が蘭丸の蕾に辿り着いた。
「前に汝を抱いたのはいつだ?」
「半月程…、あう!」
信長は指を埋めると、奥まで容赦なく進めた。
「痛むか?」
「い、いえ…。あ、あー!」
信長の指が蘭丸の体内の秘所を何回も刺激した。蘭丸は思いがけず、精を放った。塊のような粘液が降り注ぎ、自分の体と主君の顔を汚した。
「申し訳ありません!」
信長の顔を洗い流さなくてはと、蘭丸は立ち上がろうとするが、力が入らずに変に身を捩るだけになってしまった。信長は、指で掬って蘭丸の子種を舐めた。
蘭丸は主の放つ艶に胸を高鳴らせた。出したばかりなのに、またもや分身が反応してしまいそうになる。信長は、そんな気持ちに気付いているのか、もう一度白濁を啜る。
「…随分、溜めていたな」
「はい…」
「信長が欲しいか?」
「……」
「欲しくはないか?」
「…欲しいです」
信長は満足げに笑いながら、蘭丸の脚をぐいと開く。形よい尻の間から、綺麗な色の蕾が顔を出した。信長は可憐な佇まいの其処に、剛直の先をあてがった。
「あ!何もなく…!?」
蘭丸は信長以外の男は知らないが、その大きさは準備もなしに受け止めるのは辛い。蘭丸は身を縮めた。
「ふむ…」
信長は洗い場の石鹸を取り出し、蘭丸の体の上を滑らす。邪魔な襷を解き、帷子を開いて、石鹸の角で蘭丸の急所の一つでもある乳首を掠めた。
「ひゃ!」
信長は十分に擦られた石鹸の跡を、掌で撫でる。脇や首筋、取り分け、二つの突起を集中的に。
「ん、んん…」
石鹸の滑りを蕾に移行させ、入り口を丁寧に解す。
「の、信長様…、お気遣い、感謝します…」
「お蘭…」
信長の猛りが、蘭丸を突き刺した。勢いが良く、蘭丸は声すら出なかった。
「お蘭、締め付け過ぎだ。力を抜け」
「んぅ…!」
蘭丸の体が小刻みに震え、結合部がひくついている。
信長は装着した状態で蘭丸を抱え、体を下へずらして湯船にざぶんと浸かった。蘭丸の体の泡が流れ落ち、肩に掛かっただけの帷子が浮いた。信長は蘭丸の結んだ手首を自分の首を潜らせて、蘭丸を抱き寄せて震える唇をそっと吸う。蘭丸が信長の口内で熱い息を漏らすと、それを包み込んで角度を変え、また塞ぐ。
「ん…」
次第に、蘭丸も反応を返すようになった。信長は唇を頬に、耳朶に徐々に移動させ、首筋に歯を立てた。力を込めず、優しく。その頃になると、蘭丸の硬いままの蕾が信長に馴染んできた。
「信長様…」
蘭丸の表情から苦痛の色が消え、二人は見つめ合った。
「お蘭は、信長に仕えていかほどだ?」
「四年以上が経ちました」
「変わらぬな」
信長が目を細めて笑った。優しくも妖艶な瞳。
「…身の丈は、伸びました」
「それだけか?」
「…えっと」
蘭丸の体は、大人に成り切れぬ少年の危うさを持っていた。成長期も終わりの頃の年齢にもかかわらず。首や腕も細く、吸い寄せるような肌は幼子のように柔らかい。
「あ!」
急に信長が蘭丸の下肢を掴んだ。蘭丸は体を硬くし、再び信長を締め付けた。
「立派なことよ…」
「信長様には遠く及びません…」
蘭丸は信長の肩に寄りかかる。
「愛い奴…」
信長は手を蘭丸の腰に添え、蘭丸の片足を抱え上げた。浮力に負けないように蘭丸の背中を岩場に押し付けて下半身を固定させる。下半身を前に押し込んで、蘭丸を突き上げた。
「あー!」
蘭丸の声が浴室内にこだまする。
「お蘭…、皆に聞こえるぞ」
「も、申し訳…」
蘭丸は唇を噛んで、声が漏れぬように耐えた。潤滑させるための石鹸の滑りが流れ落ちてしまい、信長を久方振りに体に収め、体は悲鳴をあげている。
「お蘭…、唇を切るか?塞いでやる」
信長が舌先で蘭丸の堅く閉じた唇に触れた。蘭丸が口を開くと、信長は舌を挿し込み、唇を包み込んだ。
「あむ…、んっ」
信長の口付けは優しく、蘭丸は心と体が解れていくのを感じた。蘭丸が信長の舌に自身の舌を絡めると、押し上げ深く突き上げられた。歯列や内側の頬を舌で擦られ、分泌された唾液を啜られる。
蘭丸が返そうとしても、信長はそれを覆してしまう。信長は自分よりもずっと大人で、蘭丸にはとても適わない。力も、技も。
蘭丸がうっすらと瞳を開けると視線がぶつかった。信長の瞳に自分の睫が映る。
(そのまま、蘭だけを映して下さい)
蘭丸はもう一度目を閉じた。
ふと見上げた時、信長の瞳に何も宿していないと蘭丸は言いようのない不安に駆られた。蘭丸は、誰よりも信長の天下を求めていた。けれど、信長の求めるものは自分とは違うのかもしれない。怖かった。認めたくなどない。
信長が蘭丸の唇を解放する。
「お蘭…、悲しいのか?」
「はい…」
「憂い顔も美しいな」
「信長様…。私は、信長様を、尊敬致しております。信長様を御守りする為なら、命も厭いません」
「ほう…」
「けれど、信長様と、蘭の道が違えた時、蘭は信長様の意志に背くこともあるかも知れません」
「違える…?信長の命は聞けぬと?」
「はい。蘭は、自分自身の意志を貫き通したいのです」
「抗うのも、また良し」
「んっ…」
信長が蘭丸の体を固定し、腰を引く。そして、前に突く。浴槽の湯が蘭丸の快楽に比例するように波立つ。
「抗わぬか?」
蘭丸は首を横に振った。信長は、今自分の求めていることをやっている。抗うこともない。
「あ…、あ…」
蘭丸の分身が再び角度を上げていく。蘭丸は結ばれた手首のせいで自由が聞かず、腕を曲げて信長にしがみついた。信長は項の辺りにある蘭丸の手首の、固定していた結い紐を解いた。
「信長様…」
蘭丸は力一杯、抱き締めるように腕を回した。
「いつも、こんな風に、気持ちが一緒ならば、どんなに…」
信長の瞳が曇ったのを蘭丸は見逃さなかった。次はどんな言葉を口にするのだろう、蘭丸は瞬きせずに待った。
「それだけではつまらぬ…」
信長は重みのある自身を引き抜き、立ち上がった。座り込んだままの蘭丸の顎を掴み、口に無理矢理射し込んだ。
「ぐ、ん…」
信長は、体内の子種を勢い良く流し込んだ。量と勢いに咽せそうになりながら、蘭丸は飲み込んだ。
「上手に出来たな、褒美を取らせよう」
蘭丸が体液を全て飲み込むと、大きな掌が額を撫でた。
「そのようなことは…、蘭にとっては、このご奉仕こそが、何よりのご褒美です」
「では、次は共に参ろうぞ」
「ん…もう、熱いです…」
帷子を剥ぎ取られ、四つん這いにさせられた。蘭丸の蕾は結合後間もないのにも関わらず、閉じかかっていた。信長が指で広げ、充血した粘膜を覗かせた。
「愛らしいことよ…」
「ひぁ!」
信長はニ本指を挿すと広げるように指を回す。
「んう…」
蘭丸は襲ってくる快楽に耐えようと、足を閉じた。すると、容赦なく信長の手が足の間を通り、根元の膨らみを弄ばれる。
「くく…」
背中から信長の笑いが聞こえた。蘭丸が振り返ろうとすると、信長の体がのし掛かってきた。そして、指を抜かれ、代わりに猛々しい肉柱が埋め込まれる。
「あ!」
悲鳴が出そうになった。しかし、信長の指がそれを遮った。
「んん!?」
首を上げると、すぐそばに主の顔があった。舌で項の辺りを舐められると、ぞくりと肌が総毛立つ。
「んっ、はぁ…」
信長の長い指で舌を撫でられ、ざらついた舌で首を舐めらる。そして、もう片方の手で湯船の中でふやけて柔らかくなった乳首を摘まれる。
「んぁ…!」
体に力が入り、信長の指を噛みそうになった。蘭丸は焦って口を広げると、指が深く入ってきた。信長は蘭丸の体を知り尽くしている。快楽を煽り、困った様を楽しんでいるのだ。信長は乳首を引っ張り、起った球体を指先でくりくりと揉んだ。
辛い体制のまま、蘭丸の体が震えると、信長が蘭丸の体を引き寄せた。
腰を浅く打ち付けられる。熱気が乗じて意識が朦朧としてきた。倒れそうになると、今度は痛い程に指先や腰で攻めてくる。
「ぐっ…!」
信長が蘭丸の口の中から手を抜いた。無意識に力んだせいで、信長の指を強く噛んでしまった。
「の、信長様あ…、ああー!」
湯船の中で蘭丸は放出した。
「ら、蘭は何てことを…」
「くく、先に出してしまったことか?」
「湯船を、汚してしまって…」
「皆、この湯で体を清めるか」
「ご、ご冗談を…、洗って、お取り換えを…」
「まだ、良い」
信長は強引に蘭丸の顎を引き寄せて、口を吸う。
「っ…!」
そして再び腰を打ち付けて来た。ぶつかり合う肌が痛い。けれど、舌の動きはとても優しい。
(信長様…)
体制的にも腕を肩には回せない。代わりに、首を出来るだけ後ろに回した。頬や顎に、信長の短く生やした髭が当たる。濡れているせいで、感触がいつもより柔らかい。
「ぷは…」
唇を離した時、蘭丸は息苦しそうに呼吸を整えた。そんな蘭丸の顔を、信長はただ優しい眼差しで見下ろしている。
「信長様…、蘭の我儘を聞いて下さい」
「何だ?」
「蘭も、信長様を抱き締めたい」
「愛い奴…」
信長は立ち上がり、浴槽の縁に座る。蘭丸も続こうとするが、体に力が入らず、信長に縋るようにもたれると、体を湯船から引き上げられた。跨るようにして座り込み、信長を後孔で呑み込む。
蘭丸は、勇気を出して自ら信長の口に、唇を重ねる。
「信長様…」
すぐに離して視線を絡ませあった。
「……」
照れくさくなって蘭丸から視線を逸らし、信長の肩に腕をまわした。
「信長様、蘭は、幸せです…」
信長は何も言わない。また、あの空虚な目をしているのだろうか。
「蘭だけではありません…、信長様にお仕えする全員が…、くうう!」
信長は座った状態で蘭丸を突き上げた。
「ああ!信長様!」
むせかえるような熱気と、こみ上げる快楽。心臓が破裂してしまいそうになる。
蘭丸も応えようと腰を上下に揺さぶり、信長を刺激した。その律動の間がちょうど良く合わさった時、信長の呼吸も乱れ始めた。
「の、ぶながさ…」
「お蘭…!」
蘭丸の中に信長の熱が溢れた。
「ああー!」
放ち終えると、信長は蘭丸の体を抱き締めてくれた。震える信長の体に、それ以上に忙しなく揺れる蘭丸の体が密着する。
「信長様…」
湯煙のせいで、信長の顔がぼやけて見えた。
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