陸
しとしと降る雨音に、蘭丸は目を開けた。蘭丸は、破寺のあの部屋で布団の上に横たわっていた。隣には田子作と言う男が寝ていた。
ぎょっとして体を起こすと、肩や腰が痛んだ。
「くっ…」
手や足には包帯が巻かれ、頬や肩には貼り薬で手当てされていた。辺りを見回すと、薬草や布が散らばっている。
(介抱したと言うのか…?)
体は拘束されていない。傷に障るから?こんな輩が、蘭丸を労るとは。
蘭丸の目が冷たく光る。こんなことでは絆されない。小奴らが居なければ、宝を奪われることも体を汚されることもなかった。本能寺で信長に殉ずることが出来た。短い生でも、敬愛する信長の為に果てるのならば、こうして生き残るより幸せだった。
蘭丸は白帯を手に取り、向き直る。体を庇いながら田子作の首の下に布を滑り込ませる。
殺してやる。何もかも奪った、この男を。
蘭丸が布を掴み、交差させようとした時、田子作が目を開けた。
「!」
蘭丸が力を込めるより先に、田子作が微笑む。
「起きただな、体、痛くないか?」
この状況が見えないのだろうか。今にも殺されそうなのに、どうして殺そうとする相手を案じ、優しい笑みを向けるのだろう。
蘭丸が理解出来ずにいると、田子作が蘭丸の肩を抱いた。
「触るな!」
蘭丸は手をはねのけて、後ずさる。逃げようと立ち上がろうとすると、傷付いた踵に重心を入れてしまい、体制を崩した。
「う!」
倒れ込む蘭丸を、田子作は後ろから羽交い締めにした。
「離せ、離せぇ!」
「もう離さないだよ」
「何故、助けた!何故…」
蘭丸は叫び、泣き出した。
何て愚かな。折角の好機を無にし、油断までした。この男は自分を道具としてしか見ていない。欲望を発散させる、道具。
「泣くな」
田子作が蘭丸の首を舐めた。
「止めろ、死んでやる!」
「なして死のうとするだ。おら、お前を大切にしたいだ」
田子作は蘭丸の踵の傷を踏みつけた。
「あー!」
この少年の泣き声、何と耳に心地いいだろう。田子作は、蘭丸の体を敷きながら、易々と自身を膨らませた。
「い、痛…、止めてっ」
蘭丸が痛みに震えると、田子作は体を退かし、尚も蘭丸の体の自由を奪った。手首を頭の後ろで交差させ、複雑に縛る。
「おらだって、本当は優しくしてやりたいだ」
蘭丸を抱き寄せ、華奢な体を包み込む。
蘭丸は頭を勢い良く突き、田子作を突き飛ばした。
「いでえ…」
下から顎を突かれ、勢い、歯で上唇を切った。蘭丸は田子作を睨んでいた。大きな目を鋭くさせ、怒りの炎を灯している。
「貴様、盗みを働いたな?私の刀や服だけでなく、信長様の宝を、許さない!」
「ああ、そうだ」
「混乱に乗じて、忍んだか!?」
「ああ。あんときゃあ、死ぬ覚悟だった。明智の軍は大勢いた、周りは火の海だった。だが、運が良かった。おらたちは人気のない蔵に忍んだ、其処は宝の山だった。おめえが焼こうとしてたから、止めた」
「よくも!」
「此処まで運ぶのはそりゃあ、大変だっただ。だが、良かった。信長の宝は金になっただ。おめえの服は焦げちまって売り物にもなんねえし、刀は長すぎて使い物にならねえって、大した金にならなかっただ」
田子作は蘭丸の怒りに震える顔を見ているうちに、もっと泣かせてみたいと思うようになった。
「返せ!」
「そげんこと言われてももう売っちまった。金も使っちまった」
「ふざけるな、返せ!あれは、信長様の…」
「もう、信長は死んだ。返すことは出来ねえ。墓前に添えるか?死体は灰になったって話だど」
「……」
蘭丸は泣きそうな顔をした。田子作はまた、自身を硬くする。
「生きてるもんが使った方が、宝も喜ぶ」
「ぬけぬけと…」
蘭丸は俯いた。どうやら、信長の死を受け入れ切れてないのだろう。
「お前は信長の分まで生きろ」
田子作は握り飯の包みを開いて蘭丸に差し出した。
「食ってねえんだろ、さっきやった奴、手付かずで腐ってた」
「いらぬ…、生きたくない、信長様の元へ…」
田子作は握り飯を蘭丸の口に押し込んだ。
「んぐ!」
「死なせねえ、絶対にだ」
蘭丸は咳き込んだ。ばらばらになった米粒が床に散らばる。田子作は、布を噛ませ、蘭丸の口の自由を奪った。
「外れねえように強く結ぶど」
「ん、んー!」
「大丈夫だ、おらは優しい。自分だけ楽しんだりはしねえだ」
田子作は蘭丸の体を布団に横たえ、馬乗りになる。暴れて乱れた帷子を広げ、足をこじ開ける。
「あの薬は効くな。ほれ、孔も綺麗だ」
「んっ!」
田子作は、さらけ出された窄まりに指を埋め込み、確かめるように指を回した。
蘭丸の其処は田子作の指に吸い付くように締め付けた。田子作は指を抜き、自身を埋め込んだ。
(もう耐えられない)
蘭丸は、声を出すのを止めた。男が喜ぶから。抵抗するのも止めた。その方が、ことは早く済む。
(信長様…、抗うことを止めた蘭を、お許しください)
田子作は自失する蘭丸を突き続けた。
もう、誰が来ようと、抱こうと関係ない。痛いのも、辛いのも同じだ。
(早く死にたい。信長様は、こんな蘭を迎えにきて下さるだろうか)
体を穢され、誇りを失い、抗うこともせずに。今の蘭丸に、何の価値があるのだろうか。
(否…、早く、早く蘭を連れ去ってください、信長様!)
残酷な男たちは、若さ故の衝動を、生身の人型となった蘭丸にぶつけ、吐き出し続けた。
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