妄想、愉悦。





  


 百姓たちの間で、たちまち蘭丸は評判になった。
 ここにいる若き百姓三人も、友人が手に入れた麗しき少年の話題で盛り上がっていた。

「何でも、こねぇだおっちんだ織田信長の小姓がえらい別嬪らしいだ」

 栄二は息を荒げて言う。

「ああ、田子作が攫って監禁したって、やつだべ?別嬪つっでも、男じゃなあ。おんらあ、そげな趣味なか」

 反して、文太は冷めていた。

「そげなこど言って、田子作も女のけつばっが追ってたけど、その小姓を手に入れてがら、さっぱど女っ気なぐなったがなー」

 栄二は得意げに言う。

「三度の飯より女のけつが好きな田子作が?」

「んだ。今はもうその小姓のけつにしか興味がねぇらしい」

「いっぺん見てみてぇなあ。なあ、源太郎?」

 すっかり蘭丸に興味を持った文太は、会話に参加せず、弁当を貪る源太郎に同意を求める。

「おらには、興味なか。だが、監禁はよぐねぇ。おら、その小姓助けるだ」

 源太郎は持ち前の正義感で目を光らせた。田子作は傲慢で鼻持ちならない性格で、源太郎は嫌っていた。

「そだな。別嬪小姓を独り占めするのはよぐね」

 と、栄二。

「ああ、おらもいっぺん見てみてえ」

 と、文太。

「じゃあ、今夜助けに行くか」

 源太郎は思い付きだったが、この決断が自らの人生を大きく変えることになる。




 その夜遅く、三人は小姓が監禁されている破寺に向かった。
 入り口には貧相な鍵がかかっている。鍵を壊し、中に入ると、奥に人影があった。
 目隠しに猿轡、両腕を縛り上げられた半裸の蘭丸の姿があった。
 月明かりに映し出された妖しくもしなやかな肢体は、華奢で男には見えない。男たちは目を奪われた。

「何だ、おなごでねーか」

 美しい少年を見たかった栄二は肩を落とした。

「何て艶めかしい脚だあ、おらぁ、おらぁ…」

 文太は蘭丸に抱き付き、美しい脚を撫でた。

「んー!」

 自由の利かない蘭丸は、悲鳴をあげる。源太郎は声を荒げる。

「やめろ!おらたちはこんなことしに来たんじゃねぇ!」

「こげないい女、今逃したら二度と抱けねえ!」

「よぐ見ろ!胸がまったいらだ!こいつは男だ!」

 栄二が蘭丸の着物を大きく開いた。それを見て、文太は体を離す。

「おらに貸すだ」

 栄二は蘭丸の細い腰に手を当て、太腿の間から男の証を握った。

「んあっ!んんっ!」

 蘭丸は声を荒げる。

「ひひ…体に似合わず、いいもん持ってるだな」

 栄二は猿轡を外し、握ったものを上下に扱きだした。

「ほら、存分にあえいでみるだ」

「あ、あ!や、やめ…」

「ひひ、体は求めてるだ」

「……っ、ううっ…」

 蘭丸は必死に声を殺したが、堪えられずに体をくねらす。その姿はあまりにも淫らだった。

「お願い、止めて…」

「可愛い声だなぁ…、もっと鳴かせてやるだあ」

 栄二は蘭丸の体を抱き上げ、着物を捲る。小さく形よい尻が露わになる。栄二は下衣を下ろし、褌を解いた。
 きつく縛られた縄で、蘭丸の手首は血が滲んでいた。言葉を失い、立ち尽くしていた源太郎は我に返る。

「やめろ!」

 源太郎は栄二を突き飛ばし、ふらつく蘭丸の体を支える。

「何するだ!」

「お前に人の心はねーんけ?こげな暗いとこさ閉じ込められて、犯され、傷ついた人間を、更に痛めつけてんだど!」

「悪い、おら、一回味見したかっただ…」

 栄二は褌を巻き直し、立ち上がる。
 源太郎は乱れた着物を整え、締め上げた縄を解いてやる。体が自由になった蘭丸は、衰弱していたのか冷たい床にしゃがみこんだ。

「安心するだ。おらたちは助けに来ただ」

 源太郎は、蘭丸の目を隠す布を外した。

「こらぁ、また別嬪だなあ」

「ほんとにおなごでねーのか…?」

 理知的な眉に、大きな瞳。長い睫は涙に濡れていた。まだ少しだけ幼さの残る、少女のような顔立ち。栄二と文太は見入った。

「…誰かに似てねーが?」

「誰だっけなあ?なあ、源太郎?」

 しかし、一番見入っていたのは源太郎だった。

「おりん…」

「思い出しただ!源太郎の妹のおりんだ!」

「ああ、三年前死んだ源太郎の妹だ」

「何てことだ、おりん…」

 源太郎は蘭丸の細い肩を掴み、瞬きを忘れ、見つめた。蘭丸は、状況が把握しきれなかったが、解放され、安堵の笑みを浮かべた。その笑みはより一層、死んだ妹と似ていた。

「お前、おらんちに来るだか?」

 源太郎の言葉に、蘭丸は一瞬顔を綻ばせたが、またすぐに瞳を伏せ、悲しげに俯いた。

「嫌か?」

 蘭丸は首を横に振る。

「じゃあ決まりだ。いいな?お前たち」

「ああ。おらんちにはおとうもおっかあも、弟もいるし。栄二に預けるには危険すぎらあ」

 文太は賛成したが、栄二は納得いかない面持ちだった。

「独り占めは狡いだ」

「そげな見方する奴にゃあ、預けられん」

 源太郎は蘭丸をおぶってやる。ろくに食べさせられていなかったのか、蘭丸は、見た目以上に軽かった。

「帰ったら何か食わしてやっからな」

 蘭丸は大きな背中によりかかり、肩に手をかけた。

 蘭丸は、帰り道、何も言葉を発さなかった。
 帰宅した源太郎は、まず蘭丸の体を清めることにした。風呂を沸かし、着物を取る。
 明るい場所で見る蘭丸の肢体は、より危うい色香を放っていた。無駄毛の一切ない艶やかな肌、流れる黒髪の隙間から覗く白いうなじ。細いのに手足は骨張っておらず、背中や腰は滑らかな線をしていて、まるで成長途中の少女のようだった。それに加え、不自然な胸板の、その小さな頂は淡く鮮やかで、体に不似合いな中心と同じ色をしていた。蘭丸の体は、白と薄紅だけで出来ている。
 源太郎は目のやり場に困り、背中を流してやる時、その肌に触れる度、中心が疼くのを感じた。
 湯浴みを終え、着物を着せてやる。長身で、筋肉質な源太郎の着物は蘭丸には大きく、帯で調節するも、胸元がはだけてしまう。源太郎は大きくなっていく自分自身を誤魔化しきれず、目を逸らし、畑へ向かう。

(おら、どうしちまっただ?男なんてちっとも好きじゃねーのに、何より、妹にそっくりな、男に…。これじゃあ栄二と変わらんな)

 源太郎の心に罪悪感が生まれる。
 畑の野菜を採って洗い、部屋に戻ると蘭丸は既に眠っていた。
 肌蹴た襟から、可愛い突起が覗き、折り曲げた脚は剥き出しになっている。源太郎は衝動を抑え、薄い掛け布団を掛けて、淫らな体制を隠した。

 改めて寝顔を見つめる。寝顔はあまり似てないと思った。
 妹は鼻は低かったし、唇は少しばかりめくれていた。蘭丸は鼻も唇も整っている。
 小さくやや薄い唇の隙間から、小さな寝息。その淡く綺麗な色は、源太郎を駆り立てる。
 源太郎は妹を思い出し、熱は自然に収まりつつあったが、またもや昂ぶる。
 口付けたい、源太郎は思った。源太郎は濡れた蘭丸の髪を撫で、口付けた。柔らかい。吸い付き、舌を入れたい。だが、源太郎は理性を保ち、唇を離し、部屋を出た。
 下衣を脱ぐと、自身は褌を押し上げ、染みをつくっていた。褌を解き、解放してやると、空を目掛けた。

「こんなになっちまって…」

 源太郎は月明かりの下で、自身の熱を放出した。





- 1 -

*前次#


ページ: