参
男たちは目を覚ますと、重傷の田子作を抱え、そそくさと逃げていった。
蘭丸は洗濯を、源太郎は夕餉を作る。
二人は食事の後、互いのことを語り合った。
「蘭てのは、本名か?」
「いえ、私、名を森成利、幼名を蘭丸と申します。信長様は元服した後も、お蘭と呼んで下さいました」
「蘭…。綺麗な花だな。じゃあ、おらもそう呼ぶだ」
「また、そのように呼んで頂けるとは、思いませんでした」
「信長…、本能寺で自害したって話だな」
「はい、信長様も、弟たちも…」
「…そうか。辛かったな」
「源太郎様のことも、教えてください」
「おらはただの百姓だ。三年前、妹が病気で死んでから、一人でここに住んでる。だから、お蘭がいてくれたら嬉しいだ」
「源太郎様…」
「いや、いれる限りでいいだ。森家って言ったら、立派な…」
蘭丸は骨張った源太郎の手を握る。
「蘭は、決めました。蘭は、源太郎様に仕えることにしました」
「え!?」
「いけませんか?」
蘭丸は潤んだ瞳で源太郎を見つめる。源太郎は顔が赤くなっていくのを感じて、視線をずらした。
「い、いげなくはねぇけど、おら、ただの百姓だし、仕えるったって、やることねえだよ」
「身の周りのお世話を致します。お食事のお世話や、お召し替えや、畑仕事だって」
「こげな綺麗な手、畑仕事させられねえよ。お前、いいんか?そげん、簡単に決めちまって」
「簡単などと、仰らないで下さい。信長様がいないこの世に私が生きる意味がありませんでした。穢されたこの身では、家族に合わせる顔もありませんし、ずっと、死のうと思っていました。源太郎様の優しさに触れて、私はこうして笑うことが出来るようになりました。蘭は、救われたこの命、源太郎様の為に…」
源太郎は視線を戻すと、蘭丸は真っ直ぐに源太郎を見つめていた。蘭丸の顔を見ても、源太郎には既に妹の面影は見えなくなった。蘭丸は、蘭丸。妹のように、蘭丸は唯一無二なのだ。
「お蘭…」
「あっ…」
源太郎は、握られた手を握り返し、少し強引に蘭丸を抱き寄せた。突然のことで、蘭丸の体は源太郎の体に大きくもたれた。
「いいだか?帰りたいっつっでも、帰さないだ」
「私はもう、帰る家などありません。家督は兄が継いでいますし、仇は秀吉さまが打ち果たしました」
「おめえは、おらを買い被りすぎている。おらは、おめえが近くにいたら、おめえの嫌がることをしてしちまうだ。それでも…」
「嫌がることとは…?」
「それはだな…」
源太郎が返答を考えていると、蘭丸は、源太郎の膨れ上がった中心に手を触れた。
「な、何するだ!」
「源太郎様、昨夜、蘭に口付けましたね」
「…気付いてただか」
「とても、優しくて…」
「おら、もっと、強く口付けたかっただ」
蘭丸は、静かに源太郎の唇に触れた。少し、口を開けて。源太郎は目を見開き、間近で視線がぶつかり合う。蘭丸は目を閉じた。源太郎は歯の間からゆっくりと舌を挿し入れ、小さな舌に絡ませた。何と可憐な舌だろう。受け入れ体制の蘭丸を確認した源太郎は、口内のあらゆるところを舐めまわし、唇を啄む。
「ん、はっ…」
蘭丸は、僅かな隙間から、甘い吐息を漏らす。その音は源太郎をより掻き立て、吐息ごと包み、吸い上げる。深く口付ける音が吐息交じりにに響く。蘭丸の呼吸が激しくなり、源太郎はすぐさま唇を放す。
「苦しいだか?」
「平気です。源太郎様も、触れられるより、触れる方がお好きなのですね」
信長も、蘭丸の唇を強く吸ったのだろうか。源太郎はもう存在しない、信長に嫉妬した。
「そんなこと、ないだ」
源太郎は蘭丸の手を股間に引き寄せた。察した蘭丸は、座ったままの体制で器用に褌を解き、躊躇わずに一物に舌を伸ばした。手で端を揉みほぐし、先端や裏を舐めあげ、びしょ濡れの先端を口に含む。女日照りだった源太郎には刺激が強く、あっとゆう間に果ててしまった。その放つ量は蘭丸の口内だけに収まらず、蘭丸の顔や髪を濡らした。
「悪い、おら…」
蘭丸は口の中のものを飲み込んだ。
「そんな、飲んだら体に悪いだ」
「いいえ、蘭は、幸せです」
体液塗れの蘭丸の頬に、涙が伝う。
「大切な方の為にするのは、辛くありません」
源太郎は蘭丸の瞳の涙を舌で掬い取った。涙の塩分と、体液の苦味。
「まずいだな」
「大切な方の為ならその味も愛おしいです」
源太郎はたまらず抱き締め、床に寝かせた。
「お蘭、本当にいいだか?おらは、ただの百姓だ」
「私こそ、あの男たちに辱めを受けた穢れた身。お嫌ではありませんか?源太郎様と契りを交えることなどおこ…、んっ」
烏滸がましい。その言葉は源太郎の唇によって遮られた。蘭丸の口の中は、源太郎の体液の味がした。
「穢れてるかは、おらが確かめるだ」
「あっ」
源太郎は蘭丸の浴衣を大きく開いた。
昨夜、直視出来ずにいた肢体を眺める。肩や胸は未発達で、筋肉も薄い。それでいて腰や脚の線はしなやかな形をしている。平らな胸の頂は、男と同様に小さく、桜の花弁のような鮮やかな色。そして、華奢な体では持て余しそうな男の証は、淡い桃色をしている。
「なして、同じ男であって、ここまで違うだ」
源太郎は蘭丸の手を取り、指に口付けた。
「綺麗だ。何処もかしこも」
「本当に…?」
「触れていいだか、お蘭」
「はい」
蘭丸は、堅く瞳を閉じた。
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