妄想、愉悦。





 

 二人は仲睦まじく、幸せな時間を過ごしていた。だが、平穏な生活は長くは続かない。
 切っ掛けは、些細な出来事からの嫉妬心だった。




 蘭丸が高熱を出し、魘されていた。源太郎は甲斐甲斐しく看病した。

「はぁ、はぁ、」

 蘭丸の苦しそうな息遣い。

「大丈夫だか、お蘭」

「…ま」

 蘭丸が何か呟いている。源太郎は、耳を近付けた。

「信長…様、お逃げ、下さい…」

 本能寺での夢を見ているのか…。源太郎は悲しげに見詰める。そして、以前から抱いていた嫉妬の根が深くなるのを感じる。

「お蘭…」

 それから蘭丸は、二度、前の主君である信長の名を呼んだ。




 翌々日、源太郎の看病の甲斐もあり、蘭丸は回復した。出会ってから、抱き合うことを二日と開けたことがない。源太郎は、病み上がりの蘭丸を再び布団へと誘う。

「源太郎様…え!?」

 誘われ、瞳を輝かせた蘭丸は、源太郎に組み敷かれる。そのやり方が乱暴で、驚きの声を上げた。
 源太郎は蘭丸の唇を強く吸う。余りに力強く、蘭丸に呼吸する暇も与えない。両手首は源太郎にしっかり掴まれ、胴体は大きな源太郎の下に敷かれいる。蘭丸は、自由の利く足先だけをばたつかせ、息苦しさを訴えた。
 ようやく、源太郎は唇を離した。蘭丸は、開放された口で深呼吸をする。

「苦しいか、お蘭」

「は、はあ、いえ…」

「お蘭、眠っている時、本能寺の火事思い出してただな、魘されてただよ」

「はい、信長様が煙の中で…。私は、何も出来ずにうずくまっていて…。悲しくて、怖い夢でした」

「もう、あのことは過ぎたことだ。信長もいねえだ」

 握られた手首の力が強くなる。源太郎の表情は、どことなく不安げだった。

「はい…」

 源太郎の心情を察知した蘭丸は悲しげに瞳を伏せた。自分はこの優しい源太郎を傷つけてしまった。

「申し訳ございません、源太郎様」

「何故、謝るだ?お蘭は悪い子だか?」

「はい…」

「じゃあ、お仕置きをしなくちゃならねえだ」

「お仕置き?」

「んだ。お蘭、今日は何をされても痛がっちゃいけないだ。泣いたり、声を上げたりも駄目だ」

 源太郎は蘭丸の浴衣の細帯を外し、着物を剥ぎ取る。蘭丸の両手を首帯できつく縛った。

「痛いだか?」

 帯が手首に食い込んでいるが、蘭丸は首を横に振った。

「いい子だ」

 源太郎は蘭丸の着物を取り、体に舌を這わせた。いつもは愛でる、薄い胸板の鮮やかな頂きに歯を立てる。痛みで蘭丸の体がびくりと跳ねる。歯を立てたそこからは僅かに出血していた。白い肌に、鮮やかな薄紅。薄紅から滴る深紅。
 蘭丸の瞳から、涙の粒が浮かぶ。

「いけないだよ、お蘭、痛がっては。おら、もっとお仕置きをしなくちゃいけなくなるだ」

 源太郎は、蘭丸の潤んだ瞳を自分の着物の帯で隠し、後頭部で縛った。蘭丸の視界が真っ暗になる。
 源太郎は、蘭丸をうつぶせにして、腰を上げさせる。源太郎は入り口を指で開き、何の処置も施さないまま、自身を打ち、挿入した。

「ぐ、あ、ああ!」

 蘭丸は苦痛の声を漏らした。

「いけないだ、お蘭」

 源太郎は後頭部の長い帯を器用に蘭丸の口で交差させ、後ろできつく縛る。そして、蘭丸の狭い中心に、遠慮なく入り込んでゆく。その強引なやり方は、監禁し、傷つけ、辱めた男たちと似ている。目隠しの帯から、とめどない涙の染みが広がる。
 源太郎は、構わずに根元まで挿入し、腰を突く。

「ほら、お蘭も腰を振るだ」

 蘭丸は、無言で従う。装着部分から僅かに出血し、律動の手助けをした。
 溜め込んだ欲求を中で放つと、源太郎は容赦なく自身を引き抜いた。

「うっ」

 蘭丸は悲痛な声を漏らした。
 源太郎は体液を静かに拭き取り、出血部分を舐め、血を掬い取った。指や舌の動きは優しく、蘭丸の体を解した。しかし、心は強張ったまま。
 源太郎は蘭丸を拘束する帯を解かず、服も着せず、布団を掛けて仕事へ出掛けてしまった。





  一人になった蘭丸は泣き続けていた。くすん、くすんと嗚咽が止まらない。
 優しい源太郎を傷つけてしまった。あんなに優しい人に、こんな仕打ちをさせてしまった。罪の意識は、縛られた手首より、出血した部分より、心に深い傷を作った。今、大切なのは源太郎を除いてはいないのに。

 一人きりになってから一刻程経った頃だった。誰かが家の戸を開けた。源太郎が、心配して来てくれたのだろうか。蘭丸の嗚咽が止まる。
 その人物は、蘭丸の前に立ち止まる。水の音がする。喉が渇いた、と蘭丸はぼんやり思った。ごくごくと液体を飲み込む音がする。すると、蘭丸の口に巻かれた帯が解かれる。蘭丸は喋ろうとしたが、それよりも早く塞がれてしまった。塞いだ口から、生暖かい液体が注ぎ込まれる。

「ん…」

 苦くて、何だか甘い。酒だ。蘭丸は口の中の酒を飲み干した。

「源太郎様、あの…」

 その人物を源太郎だと疑わない蘭丸は、源太郎の目的が分からなかったが、早く帰ってきたことが嬉しかった。

「もう、蘭を怒ってはいませんか?あっ」

 布団を剥ぎ取られる。腰を持ち上げられ、四つん這いの形になる。肩に掛けているだけの着物の裾を捲りあげられ、後ろの入り口に冷たい何かを塗られた。そして、滑りやすくなったそこに、固い細い物が侵入してきた。

「ま、まだ、蘭を許しては頂けませんか?ああ!」

 冷たい液体がその細いものの中を通り、侵入してきた。その液体は、蘭丸の全身に染み渡り、たちまち火照ってくる。この感覚には覚えがある。

「酒…?」

 筒のようなものを抜き取られ、体を起こされる。顎を持ち上げられ、口付けられた。さっきの口移しと違い、強く唇を吸われた。蘭丸の顔に、ちくちくとしたものが当たる。
 髭だ。蘭丸は相手が源太郎でないことに気付く。しかし、その口付けは、蘭丸を不快にはさせなかった。後ろからも飲酒をさせられた蘭丸は、酔いが廻り、理性が曖昧になる。

「ん、や…、だっ…」

 蘭丸は時折出来る隙間から、言葉を紡ごうとする。嫌だ、止めて下さい、と。だが、すぐに塞がれ、上手く繋がらない。絶妙な技に溺れそうになる。この動き、身に覚えがある。

「信長様…?」

 口髭や、舌使い、そして酒を使った戯れ方も、何もかも、以前の主君と似ている。

「ふっ」

 相手は鼻で静かに笑った。信長が、よくやったように。
 蘭丸は歓喜の声を上げる。

「信長様…!ご無事だったのですね」

 信長は、無言で蘭丸を抱き寄せた。手首や視界の拘束は解かないまま、蘭丸の首筋に吸い付く。

「信長様、いけません、蘭は、蘭はもう…」

 蘭丸の脳裏に源太郎の優しい笑顔が浮かぶ。信長に伝えなければいけない。もう、自分は他の人に仕えていて、信長に奉仕することは出来ないと。

「駄目、あ、あ…」

 舌の動きに理性の糸が切れそうになる。蘭丸の諫めの言葉は徐々にくぐもり、吐息混じりの甘い喘ぎになる。
 首筋や肩を少しだけ歯を立て噛みつき、胸板へ移動した舌は傷付いた突起を弄る。

「い、痛!」

 刺激して出血をし始めたそこを今度は唇でそっと包み込む。
 気持ちいい。酔いが廻りきった蘭丸は、信長にもたれた。

「信長様、信長…様!」

 蘭丸の下肢は既に大きくなり、先端を濡らせている。信長はそれに手を伸ばす。

「あ、ああ!」

 片腕で肩を抱かれ、もう片方の手で上下に素早く扱かれ、時折長い指で先走りを撫でられる。泥酔の蘭丸は器用な手中であっという間に果ててしまった。
 信長の技は、蘭丸を僅かな時間で骨抜きにしてしまった。力の抜けた蘭丸を寝かせて、信長は疼いて呼吸をする入り口に、自身を挿し入れた。
 太く硬いが、先程塗られたものが、侵入しやすくさせている。信長は腰を振りながら、蘭丸に快楽を至る所に与える。唇で耳朶を噛み、時折息を吹きかけ、乳首を弄び、後ろでは太い肉槌で穿つ。
 蘭丸の触れられていない中心は、果てたばかりだというのにまだまだ逆立ち、滴らせている。

「の、信長様!ああ!」

 信長は蘭丸の中で放つと、ずる、と自身を引き抜いた。すると、口で蘭丸を咥え込む。
 それと同時に、蘭丸は放ち、快楽と酔いに、そのまま意識を失った。




 源太郎が帰って来たのは、それから半刻後だった。拘束し、置いてきた蘭丸を案ずる気持ちと、傷つけた罪悪感、そして嫉妬心。色んな気持ちが源太郎の中を巡っていた。そればかり気になって、源太郎は仕事を早めに切り上げ、戻ることにした。
 源太郎は、開いた戸が不自然なことに気付く。嫌な予感がして、中に入ると蘭丸の姿はなかった。

「お蘭!何処だ!?」

 その瞬間、源太郎は頭部に鈍い痛みを感じた。


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