陸拾玖
「お蘭」
耳元に温かい囁きが落ちる。まだ眠い蘭丸は、殆ど無意識に声から遠ざかるように寝返りを打った。
「お蘭、起きるだ」
「うぅ」
布団を剥がされ、冷気が直接肌を刺す。蘭丸は体を縮こまらせた。
「しょうがないだ…」
「ひゃあっ!」
冷たい感触に、蘭丸は飛び起きた。首に触れていた濡れた布が胸に落ち、顔を上げると笑顔の源太郎と目が合う。
「お早う、お蘭」
「お、お早うございます」
源太郎は布を拾い、蘭丸の顔を拭いた。まだ体がだるく、火照った肌に心地いい。
「起こして悪かっただな。だが、体、拭かなきゃなんねえから」
源太郎はとうに起きていたらしく、既に身を綺麗にして、着替えを終えていた。
「すみません…」
「ん?なして、謝るだ?」
出来れば、源太郎よりも早く起きて寝起きの世話をしたかった。悩まずにさっさと寝てしまえば、同じ時刻に目覚めたかも知れないのに。
「さ、体、拭くど」
「あっ」
蘭丸の膝を開くと、源太郎は手拭いで下腹部を拭き始めた。
「ひゃっ…」
「変な声出すな」
くすぐったく、寝起きの敏感な肌が一気に総毛立ってしまった。段々と、冷たい布が下へ下りてゆく。
「源太郎様!そ、其処は蘭が…」
蘭丸は膝を閉じて源太郎に背を向けた。源太郎に触れられた付近が一瞬で熱くなってしまった。
「じ、自分で致します故…」
蘭丸は源太郎の手の中の布を握った。しかし、源太郎は離さず、渡してくれなかった。振り返ると、源太郎は無言で蘭丸を見詰めていた。拒否してしまったことで怒らせてしまったのだろうか。
「嫌なんか?」
「い、いえ…。その、源太郎様は親切心でして下さっているのに、触れられると、体が反応しそうになってしまって…」
蘭丸は羞恥で俯いた。
「蘭は卑しくて…」
言葉の途中、源太郎は吹き出した。
「そんなことないだよ」
「あっ」
源太郎は蘭丸の手を取り、自分の股間に引き寄せた。服の上からでも硬さが伝わる。
「おらも、ただ、汚れ取ってやろうって思ってたのに、お蘭があんまり色っぽいから…」
「源太郎様…」
源太郎の手の中で、源太郎自身を確かめるように握ると、びくんと反応した。
「で、では、致します故…」
「え?いいだか?」
「け、けれどもう朝ですし、蘭は力も残っていないので、口で良ければ…」
「十分だよ!でも、おらもお蘭にしたい。一緒にしよう」
「え?」
「おらがここに寝るから、お蘭は頭をこっちにして、こう…」
「あの…、えぇ…?」
源太郎の指示通りの体制になる。源太郎は下になり、布団に仰向けになる。蘭丸は源太郎とは上下逆になり、源太郎の首を跨ぐようにし、肩の近くで膝を着く。互いの眼前に互いの局部がある状態になっている。源太郎の中心は中身が布を押し上げていた。
「可愛いふぐり」
「うあっ…」
源太郎は茎や蕾よりも先に袋を口に含み、中の実を転がすように舌を擦り当てた。蘭丸は衝撃で体制を崩しかけ、鼻先に源太郎自身が当たる。
「あ、うう…」
腰に力が入らず、このままでは源太郎の体の上にしゃがみこんでしまう。蘭丸は、腰紐をほどいて服をずらし、下帯を緩め、引っ張った。勢い良く中身が持ち上がり、先走りが数滴顔に跳ねた。
「凄い…」
ずっしりとした質量に、先端が蘭丸の顔に向かった角度。目を奪われた蘭丸は、本心を口に出してしまった。すると、ちゅっと源太郎に後ろの球体を吸われ、また体制を崩しそうになる。これでは口淫もままならない。蘭丸は口を開けて一気に源太郎を頬張った。
「んっ?」
蘭丸の胸の下にある源太郎の腹筋がきゅっとしまった。源太郎も堪えているようだ。
「……っく」
源太郎が後孔に指を埋めてきた。中がまだ濡れていて、容易く侵入していく。このままでは、すぐに弱点を責められてしまうだろう。蘭丸は、首を下げて一気に喉奥まで押し込んだ。
「っ…!」
源太郎の小さな喘ぎが舌にのり、源太郎の口内に収まる蘭丸の敏感な箇所に刺激を加えた。同時に綺麗にくっきり割れた腹筋が揺れて、蘭丸の口内に熱が満ちる。
「んぅ…」
昨夜もしたのに、また濃い。蘭丸は溢さないように顔を上げ、先端に唇を添えながら口の中のものをゆっくり飲み込んだ。出しきると、源太郎自身はくったりと柔らかくなって、激しく体全体で呼吸していた。手は投げ出され、指や舌での愛撫は中断されていた。蘭丸は源太郎の体から降りて、源太郎の隣に座り、顔を覗き込む。折角綺麗にした肌も、汗が浮いている。
源太郎が手を伸ばし、蘭丸の唇に親指を添えた。歯を開き、舌をなぞる。
「飲んじまっただな…」
蘭丸は頬を染めながら頷く。
「小さい口だ。苦しかったら、無理に奥に入れなくていいだよ」
「確かに、苦しいですけれど、昨夜は源太郎様がして下さいましたし」
源太郎が蘭丸の肩に腕を回し、抱き寄せてきた。腕枕をされながら寝ころぶと、今度は汗ばむ額に熱い唇が寄せられた。間近で視線が絡み合う。相変わらず優しい形の、少し潤んだ目をして、源太郎は意外な言葉を告げた。
「一緒にするのは危ねえから、もう止めよう」
「何が危ないのですか?」
「気持ち良すぎて、ふぐり噛みそうになっただ」
「それは危ないですね」
蘭丸は笑った。
「実は蘭も、歯を当てないようにするのが大変で…。集中しなければって必死になってしまいました」
「ん。じゃあ、次からは順番にしよう。次はお蘭の番だ」
「え?」
源太郎は蘭丸の尻を撫で、割れ目をなぞり窄みを指先に添えた。濡れて解されていたせいで、力を入れずとも簡単に先が埋まった。
「源太郎様、もう、宜しいですよ。時間もあまりありませんし」
「平気だよ。唐八が起きるまでまだ間がある」
「あっ」
源太郎は指を増やした。
「孔が柔らかい。でも、おらの指、離そうとしない」
源太郎が微笑みかけてくる。艶を帯びた目もとに、胸の高鳴りが激しくなってゆく。
「そ、それ以上は、駄目です」
「ここ、こんなにして。出しちまった方が楽だよ」
「ああっ…」
指が進み、弱点に近付いてくる。
「駄目です、これ以上は…」
「なしてだ」
「だって、源太郎様を欲しくなってしまいます…」
「欲しくなる?昨夜みたいにだか?」
「はい。けれど、それは駄目です。蘭にはかような体力が残っておりません」
「なら、さっと出しちまおう」
「あんっ…」
源太郎が中で角度をつけた。
「駄目ですったら、意地悪なさらないで下さい」
「意地悪?」
「ひゃっ…」
体内に、振動が加わり、強弱をつけながら刺激される。力加減が絶妙で、じわじわと蘭丸を追い込んでゆく。
「あっ…!蘭が困っているのに…、止めて下さらないのは意地悪ですっ」
下腹部が熱い。陥落を覚悟した時、源太郎は指を抜いた。
「悪かっただ。お蘭が可愛すぎて、調子にのっちまっただよ」
源太郎は濡れた指で、もう一度蘭丸の肩を抱き寄せた。
「嫌がってんのに、ごめんな」
「……」
詮を抜かれ、ひくつき熱せられた風穴が、やけに冷たい。こんなにぎりぎりまで追い込んで、急に止めてしまうなんて。蘭丸は、体を擦り寄せて、源太郎の服の袖を握った。
「意地悪しないで下さい…」
源太郎は戸惑いを浮かべ、頬を赤らめ同じことを訊ねる。
「意地悪?」
「さっきよりも、意地悪です」
源太郎はがばっと蘭丸を抱きしめて、口付けを繰り返した。
「可愛いだなあ、お蘭。すまね、おらが悪かっただ」
やはりわざとだったのか。悔しいけれど、それ以上の期待が胸を占めて、すぐに消えてしまった。
「源太郎様も、脱いで下さい」
「ん」
源太郎は蘭丸の体を布団の真ん中に寝かせると、起き上がって服を脱いでいく。逞しい体と、日焼けの残った薄い褐色肌と、汗の匂い。下履きを取ると、下半身も完全に復活していた。
「いいだか?お蘭」
蘭丸は頷いて、視線をずらした。やはり、恥ずかしくて顔を見ながらねだることが出来ない。
「下さりませ…」
蘭丸が膝を開くと、源太郎はその間に座り、蘭丸の太腿を抑えながら、熟れた窄みに熱杭を挿し込んだ。
「ああーっ」
蘭丸はその瞬間達してしまい、びゅるりと上体と顔に粘液が降った。ぱちりと目を開け、源太郎と目が合う。蘭丸は自分の頬の温かいものに触れた。
「これ、蘭の…」
源太郎は顔を姿勢を変え、胸に付着した白濁を舐め取る。
「うぅ」
舌が乳首を撫で、丁寧に左右とも吸って、甘く噛んで立ち上がらせると、両の親指でくにくにと潰す。舌は顔に移動し、頬や鼻梁を通ってゆく。
「そうだ、これは、お蘭のだ」
顔間近で語りかける源太郎の舌に白い雫が垂れている。源太郎は、その舌を蘭丸の口に押し入れた。
「んむっ…」
口を吸い合う。体液と互いの唾液が混ざる。甘く感じてしまうのは、源太郎のせいだと思う。
「はっ、ん…」
首の角度を変えまた唇を吸う。源太郎は乳首から指を離すと、蘭丸の背の下に腕を入れ、強く抱きしめて肌を密着させながら、腰を強く揺すった。隙間などなく、抜き挿しはせずに何度も内側で小刻みな振動を与えられ、蘭丸は達したばかりにも関わらず、またすぐに昇りつめていく。
「は、あっ…くっ…」
唇は角度を変えてはすぐ塞がれてしまう。苦しいけれど、それ以上の快楽に、身心が侵食されてゆく。そして、源太郎も蘭丸の中で膨張していって、強く擦り上げていく。
「あ、あっ…、源太郎様っ…」
「お蘭…っ」
源太郎がくっと腰を押し付けたまま動きを止めた。
「い、いいだか?中…」
「欲しいです」
蘭丸は、腕と脚を源太郎の体に巻き付けて、自らも体を押し当てた。中で蠢いて、熱が満たされてゆく。
「お蘭、お蘭…」
源太郎が耳元で囁く。熱い吐息。幸せでいっぱいになってしまった。
「ん…」
腰を上げようとする源太郎を、蘭丸は脚で抑えた。
「離れては駄目です」
「さっきから駄目、ばっかだな」
「離れては寒いです」
「大丈夫だ。お蘭の肌、空気に負けないくらい熱い」
源太郎は、腰を浮かせて杭を抜く。白濁液が敷布を汚した。源太郎は蘭丸の体を敷布で包み込んだ。蘭丸は体が上手く動かせず、なすがままになっていた。やはり、寝起きの情交は堪える。
「汗、いっぱいかいちまったな」
「…源太郎様も」
蘭丸は源太郎の逆立つ短い前髪を撫でた。源太郎は笑いながら、薄い布の下の蘭丸の体をなで回す。
「本当に汗を拭いているだけなのですか?」
「ううん。まだ、触りたい」
「け、けれど、そろそろ…」
「ん。唐八が起きる頃だな」
言いながら、源太郎は蘭丸の口を吸ってくる。体力の有り余る源太郎はまだ足りないのだろう。求めてくれる想いが、肌を通して伝わってくる。
「蘭も同じです」
「同し?」
「はい」
今度は蘭丸から短く口付けて、すぐに離した。源太郎の真っ直ぐな視線が気恥ずかしく、俯いてしまった。
「可愛い顔して。また誘ってるだか?」
「い、いませんよ。源太郎様こそ、触れたり、何度も可愛いって仰ったり…」
「だって、可愛いし」
「また…」
他の誰かに言われても、こんなに心は動かない。源太郎は蘭丸の頬に手を当て、顔を上げた。
「こんなに可愛いお蘭といれて、おらはこの世で一番の幸せ者だ」
源太郎が満面の笑みを浮かべる。細くなった目が幸せだと語っていた。
「……」
忘れていた。昨夜、蘭丸の眠りを遮った懊悩を。この笑顔を前にしたら、とてつもなくちっぽけなものだった。
「そ、その…」
「ん?」
「源太郎様も、お可愛いらしいです…」
「どうしただ?急に」
源太郎は、瞳を輝かせたまま問いかける。
「可愛い源太郎様が傍にいて下さる蘭は、世界一の幸せ者です。こんなことを忘れてしまう蘭は、とても間抜けです」
この気持ちをどうしたら全て伝えられるのだろうか。
「間抜け?」
「はい。間抜けな蘭は、これからも、つまらないことで悩んだり、苦しんだりして、優しい源太郎様を困らせてしまうことがあると思います」
「いいだよ。おらが全部受け止める」
「けれども誓います。蘭は、生涯、源太郎様をこの世で一番の幸せ者に致します」
「お蘭…」
笑ったのに涙が零れた。
「嬉しいからですよ?」
源太郎は蘭丸の目尻に口付けて、視線間近で返す。
「おらも、お蘭を世界一の幸せ者にする。生涯誓うだ」
「源太郎様…っ」
やはり、この気持ちを言葉のみでは伝えきれない。蘭丸は源太郎の肩に抱きつき、押し倒した。口を吸い、舌を挿し入れる。源太郎は戸惑ってか強ばっていたが、直ぐに解れて、蘭丸の口内に舌を忍ばせてきた。熱く絡んで、このまま溶けてしまいそうだ。
「ふはっ…。どうしただ?いつもは恥ずかしがってんのに」
「堪らなく嬉しいのです。羞恥の気持ちが消えてしまうくらい」
「なら…」
源太郎が腰に手を回してきた。
「お蘭が恥ずかしがってしてくれなさそうなこと、頼んでみるか」
「どのようなことですか?」
「あのな…」
源太郎が蘭丸の耳に唇を寄せた時、壁の向こうでかたんと鳴った。雨戸の開く音だ。
「唐八だ…」
「お目覚めのようですね」
「うん」
蘭丸は起き上がって、手拭いを取って源太郎の汗を拭う。互いに手伝いながら、服を着付けた。朝の準備に遅れては、唐八に迷惑をかけてしまう。
「あーあ」
蘭丸が敷布を拾っていると、源太郎は布団を畳みながらため息をついた。
「お蘭が恥ずかしがらないなんて、滅多にないのに…」
素直な発言に、蘭丸は笑ってしまった。
「何笑ってるだ?」
「いいえ。先は、何を言おうとしたのですか?」
「内緒。また、お蘭が恥ずかしい気持ちが消えちまうくらい嬉しくなった時に言う」
源太郎は歩き出し、蘭丸はその後を付いていく。草履を履いて表へ出ると、外は雲一つない秋晴れだった。
見失いかけていた。けれど、この美しい色に、今なら映し出せる。
(見ていて下さい、信長様)
もう大丈夫。何があっても負けはしない。
「どうしただ?」
「空が綺麗です、とても」
「ああ、本当だ」
立ち止まり空を見上げる蘭丸の肩を源太郎が抱き、並びながら青天井を見上げた。
「さ、顔洗うど」
「はい」
二人は眩しい朝日を受けながら、同じ歩幅で進んだ。
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