壱
日が傾き、屋内に夕日が差し込む頃、耳に届く足音に、蘭丸は瞼を開けた。止まる足音に続く開錠音。今日も嫌悪と絶望に耐える時間が始まった。しかし、それは何時もの百姓連中の来訪と様子が違う。やけに騒がしい。
(まさか…!)
蘭丸は手首を後ろに縛られた体制で、腰を上げ、膝を立てながら起き上がった。誰かが助けに来たのかも知れない。そんな期待を抱きながら。
戸が開き、すぐに蘭丸の期待は打ち砕かれた。いつもの百姓らが、他に仲間を引き連れていた。ぞろぞろと屋内に入って来る。
「へぇー!これが噂のお小姓か」
「本当にめんこいだな」
「ああ、それに見ろ、あの細腰に、あの脚」
「なして、口縛ってんだ?」
見知っている男二人と、知らない男が四人いる。その四人は興味深そうに蘭丸に歩み寄り、不躾な視線を送っていた。
「舌、噛まないようにだよ」
昨夜も蘭丸を犯した男が、蘭丸の首の後ろの結び目を直した。口角に布が食い込む。
「しっかし、本当に男だか?」
一人の疑問に、背後の男が蘭丸を後ろから抱き寄せる体制で、襟を開いた。平らな胸を晒し、下半身に手を伸ばす。
「可愛い顔して立派なもん持ってるだよ」
「!」
蘭丸は抵抗する力が残っておらず、なすがまま、晒されてしまった。視線が蘭丸の体に集まる。半数が釘付けになっていたが、一人だけ反応が悪い。その一人が日焼けで赤黒くなった手で、気まずそうに頭をかいた。
「確かに美人だが、やっぱ男だしなあ…」
「おめえがやってみたいって言ったんだべ」
「だってよう、あの女好きの田子作が、えれえ入れ込んでるっつうからよ」
「別に無理に抱かなくったっていいだよ。これからおらたちだけで楽しむから。なあ?」
「ん!」
大きな左手が蘭丸の胸を撫で、無骨な指で乳首を摘み、右手を足の間に潜らせ、指先で後孔を弄る。
「昨夜、あんなにやったのにもう閉じてんだな。今夜も楽しませてくれんだろ?」
「んんっ」
指が慣れた動きで中へ入っていった。内部の急所を擦り、同時に掌が小さな双球を捉え、圧迫する。蘭丸はどうにか声を抑えようと口の中の布を噛む。
「随分とまあ…」
男たちは芯を大きくさせながら悶える様を息を飲みながら見つめていた。
「どうしただ?抱きたいか?抱きたくねえか?」
「いや…、やっぱ男だからよ…」
「んなこと言って、おっ起ててるでねえか」
「それは…」
「なら、お前は黙って見てな」
「!」
蘭丸は膝裏を担がれて、全てを見せつけるように足を広げさせられた。全員の視線が釘付けになる。蘭丸は耐えられず、目を閉じた。瞼の合わせ目からぽろぽろ涙が流れる。
「見ろ、こいつの尻穴は柔らかいど。なのに、ぎゅうっと締め付けてくる。お殿様に餓鬼の頃から仕込まれてるからな」
晒された窄みを指を使って開かせると、桃色の内側が光った。迷っていた日焼けの男が手を伸ばす。窄みの縁を指先でなぞってから、その上の袋に触れる。ぴくり、と蘭丸は反応してしまう。
「はは…。ふぐりは子供みたいだな」
「んぅ…!」
中身をやわやわと揉まれ、熱を促される。
「気持ちいいみてえだな。どうだ?決まったか?」
日焼け男は立ち上がって、服を脱ぎ始めた。下腹部から腿にかけてはさほど黒くはなく、既に中心は大きくなっている。蘭丸の足の間に腰を下ろし、自身を持ち上げ、迷いを映す目で蘭丸の顔を見つめた。蘭丸は瞼を開き、頭を振りながら懇願する。やめて、お願いだから。
「やええ、やえ…」
歯の間の布が邪魔で言葉にならない。目の前の日焼け男は蘭丸と視線を合わせて、動きを止めた。
「やっぱ、おら…」
「ふん、意気地がねえな!どけよ」
躊躇う日焼け男を突き飛ばし、また別の男が蘭丸の前を陣取った。器用に前だけを露出させ、下帯の中から一物を取り出し、蘭丸の足を持ち上げた。一気に貫く。
「ううー!」
「すげっ…、吸い付くみてえな穴だ」
蘭丸の悲痛の声に構わず、抜き挿しを始める。激しさに、蘭丸の細身の体はぐらぐら揺れる。背後の男が胡座をかいて、足の上に蘭丸の頭をのせた。
「な?たまんねえだろ」
まるで、自分の所有物を自慢するような物言いだった。相手は蘭丸の上で腰を振り続けながら頷いていた。
痛いのに、快楽が強制的に促される。
「そろそろか?」
「んっ…」
腰の動きを止め、蘭丸に絞り取られるように吐き出した。
「おい、中に出すなよ。後の奴のことも考えろ」
「すまね」
蘭丸の中から杭が抜けると、白濁液が溢れた。
「すげえ量だな」
「久々だったからな」
「次はおらだ」
入れ違いに、また別の男が蘭丸の前を陣取った。起ち上がって、限界間近までになっていた蘭丸の剛直を握る。
「可愛い顔してこげんもん持っててよ」
「ううー」
「暴れんな」
蘭丸は僅かに腰をずらすことしか出来ず、簡単に制されてしまった。些細な抵抗は却って相手を楽しませることになってしまう。
また別の男が蘭丸の内部に侵入した。中に残っていたものが滑りを良くさせていた。
「や、うあー!」
快楽が混ざった甲高い叫声が響き渡る。その声音と共に、男は腰を振る。そして、握っていたものを上下に扱いた。蘭丸の吐精に合わせて、出口を蘭丸の顔に向けた。残酷な笑い声が響く。
「きたねえなあ」
「綺麗な顔が台無しだ」
「旨いか?自分の子種は」
顔に浴びた精が、涙で一筋流れ落ちた。何故、こんな目に遭っているのだろうか。目の前の現実から目を逸らそうとしても、また内側から煽られ、体は昂ってしまう。もう、激しく突かれても痛みは感じなかった。
「よし、中に出すぞ!」
「よせ、おらたちはまだやってねえんだぞ」
「うるせえ!」
また蘭丸の中に汚れが注がれた。
もう、毎日のことだ。ただ、人数が増えただけ。蘭丸は考えるのを止めた。
「ん?反応悪くなくなってんな。ほら、さっきみたいに気持ちいい顔してみろ、気持ちいい声上げろ」
蘭丸を犯す三人目の男が、蘭丸の様子が変わったことに気付いた。
「もう疲れちまったんだよ。いつもそうだ。最初は恥ずかしがって抵抗するが、段々我慢出来んくなって、さっきみたいに喘ぐ。その後ばてちまって、今みたいに抵抗も止めちまう」
「つまらねえな」
「そう言うなよ。その時々の楽しみ方があるだよ。それに、穴の具合は変わらんだろ?」
「まあな」
一旦蘭丸の体から抜いて、蘭丸を横向きに転がし、片足を大きく上げる。蘭丸が小さな抵抗すらも止めたことをいいことに、体制を変えて楽しんでいる。周りの男は犯され続ける蘭丸を見て、まだ欲求を昂らせていた。
三人目が蘭丸の中に放ち終えると、蘭丸の体を支えていた男が、躊躇っていた日焼け男と視線を合わせた。
「おい、おめえ、ずっとおっ起ててっけど、まだ迷ってんだか?」
「だってよう…」
「そういやあ、おめえはまだ女も知らねえんだったな。初めてが男ってのが嫌なら、こっち、使え」
言いながら、蘭丸の口から布を外した。
「平気なんか?」
「大丈夫だ、こんだけばてちまったら、噛まれることももうねえから」
蘭丸の口に指を入れ、歯の間に滑らせると、力のない顎は簡単に開いた。
「口ん中もな、狭くてあったかいだ」
日焼けの男は蘭丸の目の前に、むき出しのまま腰を下ろした。薄く開いた虚ろな目は、ぽろぽろと涙を流していた。どれだけ残酷なことをその身に受けたか、全て表れた惨めな姿だったが、見ていたら却って下腹部の熱は増していた。
「どうすればいいだ?」
「ここ、跨いで口に入れてやればいい」
日焼けの男は蘭丸の口の中に自身を挿し込んだ。確かに狭く、温かい。本能の赴くままに深く突くと、蘭丸がえずいた。しかし、蘭丸には逃げ場がない。繰り返し、喉の締まりと舌の感触を夢中で貪った。
「子種を飲ませてやれ」
すぐに達して、直に喉奥に流し込んで、腰を上げた。途端に蘭丸はむせてしまったが、白い液を吐き出しはしなかった。咳が止むと、ひゅう、ひゅう、と苦しい呼吸音が漏れていた。
「満足しただか?」
「否…」
「じゃあ、下、使ってみるか?」
日焼け男は躊躇うことなく細い足首を持ち上げた。犯しつくされた孔からは、だらだらと白濁液が漏れ、弱々しい呼吸と共に息づいている。汚らしい。しかし、それが却って美しい少年をみだりがわしくさせていた。
「きたねえな」
「おめえだって汚すだろ」
「違いねえ」
太腿を強引に開いて、間に腰を入れる。小さな空洞に押し当てる。
「おおっ…」
侵入すると、皺がみちみちと伸び、きつく締め付けた。さっきまで別の男のものを咥え込んでいたとは思えない締まりだった。そして温かく、この中で溶けてしまいそうだ。果てないように堪えながら、腰を押し進める。
「随分時間掛かってんな」
「初めてだから仕方ないだよ」
既に蘭丸を犯した男がはやし立てた。日焼け男は、構わず蘭丸の細腰を押さえて、抜き挿しを始めた。蘭丸の無表情が同じ律動で揺れ、止まらぬ涙が跳ねる。
「あ…?どんどん熱くなって、ああ、起ってるだ」
蘭丸の下肢が、何時の間にか反応している。虚ろな目をして絶望の涙を流しながら、体は悦んでいる。何と淫らなことだろうか。
「ああ。体は反応するんだ。随分と仕込まれてら」
「へえ、おめえが女も知らずにあくせく働いてる間に、若いうちから随分とお殿様と楽しんでたんだな」
「もともと素質があんだろ。好き者のな」
卑しい笑い声が響く。しかし、真っ最中の男はそれどころではなかった。
「くっ…」
堪らない。日焼け男は、二度目の放出も、蘭丸の中に吐き出した。息を荒げながら、腰を上げると、夥しい量の白濁液が流れた。脱力しながら、その姿を眺める。
「おい、まだやりたい奴はいるだか?好きな方を使え」
男たちが蘭丸に群がった。一番に蘭丸を味わった男が、身を乗り出す。
「なら、おらは口でして貰うだよ。ほら、綺麗にしてくれ」
蘭丸の上体を抱き上げ、膝に首を乗せて薄く開いた唇に無理やり押し込む。苦しいのか、眉間に皺が寄り、表情が変わった。
「こっちもあったかいだなあ」
「じゃあ、おらはもっかい、こっちだな」
もう一人が蘭丸の足の間に入り、下から一気に貫いた。びくりと蘭丸の体が大きく揺れ、火照った肌に汗の玉が浮いている。
「っ…」
塞がれた口から声が漏れる。
「見ろ!こいつ、またいくぞ!」
「ほら、腰振って腹ん中こすってやれ」
「そら!どうだ!」
発散すると、最中よりも状況が冷静に見えてくる。日焼け男は、この残酷な事態に参加した事実にぞっとした。そして、同時に興奮もしていた。再び熱を持った股間を握り、傍らで待っていた。また味わいたい。次は、どんな方法で汚してやろうか。そんなことを考えながら、年若い細身の少年が前後を同時に犯されているのを眺めていた。
田子作が蘭丸のいる廃寺に着いた頃、空はすっかり暗くなっていた。鍵を開け、戸を開くと、体液の匂いが満ちていて、その中に蘭丸がぽつんと横たわっている。見ただけで、何をされたか分かる。田子作は提灯を翳し、蘭丸に歩み寄る。
「大丈夫か?」
ひゅう、ひゅう、と息苦しそうな呼吸に合わせて、胸が上下していた。生きていることに田子作はほっとして、提灯を置き、蘭丸を抱き上げ布団の上へ移動させる。手首の拘束を外し、服を脱がせて体を拭く。
皆勝手だ。散々汚した後、そのまま放置して帰ってゆく。しかし、田子作はこの時間が嫌いではない。蘭丸も、汚れた身のままで過ごすのは嫌なようで、この一時は大人しくするようになった。今は単に抵抗する余力がないのだろうが。
「きょう…」
蘭丸が何やら呟いている。田子作は口元に耳を当てた。
「沢山、来た…」
「何人来ただ?」
蘭丸は返事をしなかった。体が小刻みに震え、闇を映した瞳が次第に濡れ始める。
「何故、こんな目に…」
手は感覚が戻らず、泣き顔は隠せずにいる。田子作は指先でそっと目尻をなぞると、蘭丸は拒みもせず泣き続けていた。
田子作の考えとは異なるが、他の者を呼び入れた拐かし仲間の気持ちも分かる。誰も蘭丸に個人的な恨みがある訳ではない。そんな相手を虐げることは、快楽を得ながらも心は罪悪感で常に揺れていた。しかし共犯者が増えれば、罪悪感は減り、僅かな良心も麻痺していくものだ。拘束された蘭丸と引き合わせれば、誰も彼もが同じ行為をする。ならば、自らが罪を犯してしまうのもそれは仕方のないことなのだと、自分自身に言い聞かせることが出来る。
「だが、おらは違う、お前を独り占めしたい」
蘭丸は反応せず、まだ泣き続けている。田子作は蘭丸の体を拭き終えると、新しい浴衣を体に掛けた。
「明日も、また沢山来ると思う。そんで、疲れ果てるまで、犯し尽くされて…」
蘭丸のか細い嗚咽が続く。
「だが、おらんとこに来れば、そんなことされずにすむだ」
田子作は蘭丸の頬を撫でた。虚ろな瞳に自分の姿はない。
「おらんとこ、来ないだか?」
「…ころ、して…」
「あ?」
「殺して…」
ひゅー、と風が抜ける。
「おらんとこに来れば、優しくしてやるだよ?」
「……死にたい……」
か細い声だったが、ちゃんと耳に届いた。怒りがこみ上げてくる。田子作は拳を握って、堪える。大丈夫、こっちには切り札がある。
田子作は蘭丸を抱き起こす。相変わらず力が入っておらず、支えなしでは座ることさえままならないだろう。田子作は、そんな蘭丸の両手首を先と同じ様に後ろに縛った。
「死んじまって、いいだか?」
次の言葉を口にした瞬間、蘭丸の瞳に光りが戻る。
「信長が生きてたってのによ」
蘭丸の表情が蘇る。動揺と、隠しきれない期待。力のある眼差しを田子作に向けた。
「い、今更…」
「死んだっつっでも信じなかったし、生きてるっつっでも信じねえだな」
「今まで、何度も騙したじゃないか!」
信長の名を出した途端、生命力が戻ったようだ。やはり、こっちの方がいい。田子作は睨みつける蘭丸を見下ろした。
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