弐
此処に捕らわれてから、信長は死んだとずっと聞かされていた。なのに、今になってどうして信長が生きているなんて言い出したのだろう。この田子作という百姓が、情報として得ただろうか。それとも、蘭丸を玩具にするために思いつきの出鱈目を言っているのだろうか。
田子作は不敵な笑みを湛え、蘭丸を見下ろしていた。
「信じるかどうかはお前次第だ。おらも、本当のことはよく分からねぇ」
「どういう意味だ?」
蘭丸が話に食いつくと、田子作はふっと卑しく笑った。
「今日な、買い出しに街へ行っただよ。したら、瓦版、配ってただ。信長は逃げ延びて、合流した部下と敵を討ち取ったって話だ」
田子作はくしゃくしゃの紙を懐から出した。
「おらあ、字が読めねえかんな。自分の目で確かめろ」
蘭丸の胸が早鐘を打っていた。あの紙に、信長の安否が記されている。身を乗り出そうとすると、肩を掴まれ、向き合わされる。
「読みたいだな?」
「早く見せてくれ!」
「駄目だ、おらの言うこと聞いたら見せてやる」
肩を掴んだ指が肌に食い込んだ。
前もこんな風に騙されたことがある。捕らわれた日、従えば解放すると言われ、いいようにされた。今回だって、また好きなようにさせる為に嘘を吐いているのかも知れない。
(信長様…)
信長は、蘭丸の総てだ。この状況だって信長さえ生きていれば希望を手にしたことになる。蘭丸は顔を上げた。
「何をすれば?」
蘭丸の決意に、田子作は笑った。紙を放り捨てて、荷物から瓶を出す。栓を外し、中身を口に含む。
「っ…」
田子作は乱暴に蘭丸の顎を掴むと、唇を合わせて蘭丸の口内へ注いだ。つんとした清涼感と苦味。
「旨いか?おめえ、何も食わないかんな。わざわざ高い酒、買って来てやっただよ」
じんわりと熱いものが込み上げて来る。
「ひひっ」
田子作は卑しく笑い、また酒を口に含んで、蘭丸に口移しで酒を飲ませた。繰り返し、繰り返し。小さな瓶が空になると、蘭丸の全身は火照り、肌は桃色に染まっていた。息が上がって苦しい。熱い吐息が零れる口をまた吸われた。今度は酒の代わりに舌が入って口内を舐め回される。
「うっ」
蘭丸は、息苦しさから顔を背けてしまった。
「へへ、酒の回りが早いな」
田子作は蘭丸の体を布団に倒すと、転がしてうつ伏せにさせた。
「尻を上げろ」
「……」
蘭丸はゆっくり腰を上げ、田子作に臀部を突き出す体制になった。膝が震える。
「や…」
指が後孔に埋め込まれ、体液の残りがくちゅ、と粘膜を鳴らした。
「まだ残ってるだ」
零れた液が太腿を伝い落ち、埋め込まれた指は二本、三本と増えていった。腹の奥にある急所を圧迫され、酔いの火照りとは別物の熱が込み上げてきた。
「いいぞ、下ろして」
そのまま挿入されると思っていた。蘭丸はほっとして、膝の力を抜いた。
「来るだ」
手首を引かれ、再び体を起こされ、向き合った。田子作は蘭丸の反応させた下肢を見て、笑った。
「お前がご奉仕する番だ」
「え…?」
「咥えるだ」
田子作は蘭丸の後頭部を掴んで、顔を股間に押し付けた。まだ硬度は完全ではない。蘭丸は口を開いて、口内へ収める。酷い匂いがする。酒のせいもあり、吐き出しそうなのを息を止めてこらえた。
「ひひ、尻もだが、口の中も熱いな」
密度と硬度が容易く増し、頭を押さえる手の力が緩む。口から出した時、そのおぞましい外観に顔を背けた。
「よし、乗れ」
「乗れって…」
「早く、おらの体に跨がれ。そいで、お前の穴に填めるんだ。お前がな」
田子作は仰向けに体を倒した。
「……」
体が震える。蘭丸は膝を立て、田子作の腰に跨がった。
「あぅっ」
田子作が腕を伸ばして蘭丸の尻肉を掴み、広げた。
「ほら、入れやすくしてやっただぞ?」
蘭丸はゆっくり腰を落とした。田子作の先端が、蘭丸の蕾の下にある袋に触れる。このままの位置だと滑ってしまう。手が使えないせいで上手く出来ない。
もどかしくなったのか田子作は自らの先端を入り口に添え、腰を押し上げて蘭丸を突いた。
「あっ……!」
衝撃で、がくんと体の力が抜け、田子作の上に座り込んでしまった。膝が震え、体を支えていられない。
「ほら、腰振って、いかせてくれよ」
ぺしんと、尻を叩かれる。蘭丸は前屈みになって、上下に腰を動かして抜き挿しを試みる。しかし、体力も残っておらず、酒を飲まされたこの状態では上手く出来ない。
「へへっ…。中、あちいな。だが…」
田子作は拙い動きが歯がゆく、再度下から蘭丸を突き上げた。
「あ!」
蘭丸は先と同じように田子作の腰にしゃがみ込んでしまった。田子作は細い腰を掴んで、何度も下から突く。
「あっ、ああ…!」
弱点を擦られ、強制的に快楽が押し寄せてくる。
「これじゃあ、読ませらんねぇな」
「待って、ちゃんとするからっ…」
「ちゃんと?おらに掘られて、おめえの方がよがってるでねえか」
「や、止めて、ああー!」
茎を掴まれ、扱かれた。蘭丸は果てて、同時に媚肉を震わせ、相手に極上の締め付けを与えた。
「くっ…いいぞ!」
田子作は蘭丸の腰を押さえつけて、熱を放った。その最中も、蘭丸は体を痙攣させていた。田子作は、蘭丸を見上げながらため息をつく。
「可愛いな、お前…」
乳首を指で挟むと、蘭丸はびくりと肩を揺すった。同時に肉孔も強く締まる。
「何度抱いたって、おめえはおらのもんにならねえんだよな…」
田子作は上体を起こし、蘭丸を抱き寄せた。愛でるように背中をさすり、頭を撫で、口を吸ってくる。
「なあ、信長はどんな接吻をしてきたんだ?」
「どんなって…」
「してみろ、早く」
「……」
信長の柔らかい唇や、ざらついた舌を思い出した。優しく触れるだけの時、荒々しく貪る時、何度も合わせたことがある。その度に蘭丸は胸を高鳴らせ、幸せを感じていた。なのに、今は。
蘭丸は躊躇いながらも、唇を寄せた。震えながら舌を滑り込ませ、口内をさする。唾液が混ざって嫌悪感が込み上げ、舌を引っ込めてしまった。唇の間から唾液が零れる。
「んむっ」
田子作にうなじを引き寄せられ、また口を合わせる。口内に舌が這い回り、歯がぶつかる乱暴な接吻だった。
嫌悪感で、目的を忘れかけてしまった。耐えなければ。乗り越えたら、信長の安否が確認できる。
「ぷはっ」
唇が解放され、蘭丸は息を吐いた。そして、ゆっくり吸い込む。
「健気だな」
田子作は思いつめた表情で蘭丸を見ている。怒りや悲しみを湛えているような顔。何故、今そんな顔をするのだろうか。
「そんなに知りたいだか?信長が生きてっか」
田子作の言葉に、蘭丸は頷くことしか出来なかった。
蘭丸は、この男が一番怖かった。他の者は快楽のみを求めているが、この男は違う。優しく接することもあれば、怒りに任せて首を絞めてきたこともある。今は、殺されそうなになっても止める人物もいない。
「おらあ、お前を手放す気はない。信長が生きてたって会えない。それでも知りたいだか?」
蘭丸はもう一度頷いた。
「なしてだ」
どう答えればいいのか分からない。この男の逆鱗に触れないような、返答を考える。
「信長様がご無事なら、私はそれで…」
「くくっ…」
言葉の途中、唐突に笑い出した。
「本当に信長が大事なんだな。さっきまで死にたがってたのによ」
その通りだ。今は、殺されたくなくてこの男の一挙一動に怯えている。
「その根性、何処まで持つかな」
田子作は膝から蘭丸を下ろすと、立ち上がった。荷物を探り、手拭いを出す。
「何を!?」
「大人しくしろ」
手拭いで目隠しされて、視界が塞がれる。すると、田子作は蘭丸の後ろ手の縄を解いた。
「動くなよ、動いたら、この細っこい腕へし折るからな」
すぐに両腕を上げさせて、今度は頭上で拘束させた。田子作は蘭丸から離れ、立ち上がって何やら作業している。次は何をされるのだろうか。蘭丸は恐怖と緊張から、固唾を飲んだ。
「立て!」
「あぅっ」
縛られた手を引っ張られる。足が縺れて転びそうになるのを、田子作に支えられた。田子作は蘭丸を抱き上げ、数歩進むと蘭丸をゆっくり足先から下ろした。中に出された体液が腿を伝い、震える爪先に流れ、床を汚す。
「大人しくするだよ」
田子作は拘束した蘭丸の手首を掴み、梁に結んだ縄ごと繋いだ。これでは腕を下ろすことも、しゃがむことも出来ない。
「いい格好だな」
むき出しの脇を舌でなぞられる。気持ちが悪い。
「肌が立ってきただ。ここもだ」
きゅっと乳首を摘ままれ、先端を舌でなぞられた。目が見えないせいで、何をされるのかが分からない。蘭丸は足に力を入れて踏ん張る。
「これはどうだ?」
「んんっ」
手が尻に来て、一気に指を突き入れられた。痛みはない。蘭丸の足の力が抜けて、手首に縄が食い込んだ。蘭丸は歯を食いしばる。
「おい、気持ちいいならそう言え」
「…気持ち良くない…!」
「ほんとか?尻穿られて勃起してるぞ」
「ああ!」
中心を握られる。田子作は後孔に刺激を与えたまま、蘭丸の首筋に吸い付く。
「おかしいだな、本当に気持ち良くないだか?」
「や、やめてえ…」
「止めていいだか?紙、破いちまうぞ」
「それは駄目…」
熱を抱えきれない。
「なら、耐えるだな」
背後から片脚を抱え上げられ、指よりも太く長いものが埋め込まれ、勢い良く突かれた。
「ああっ」
「こんなに締め付けて、気持ち良いだな?」
「そんなこと、ない…!」
「そげんこと言って、おっきくしてるだよ」
「ふ、うぅぅうぅ!」
歯を食い縛る。けれど、駄目だった。急所を握られ、弱点を責められ、上り詰めて、一気に墜落した。蘭丸が意識を手放しかけた時、田子作が蘭丸の口に指を押し込んできた。
「舐めろ」
蘭丸はゆっくり舌を左右に動かした。新鮮な体液の味。これは、蘭丸自身が出したものだ。
「酒飲むと出来ねえ奴もいるけど、お前は逆なんだな。いっつも以上に敏感になって」
惨めで消えてしまいたい。けれど、消えてしまったら此処まで耐えた意味がなくなってしまう。
「よし…っ」
田子作は、蘭丸から抜くと、蘭丸の尻に向けて体液を放った。これで終わりだろうか。田子作が離れると、支えを失った蘭丸の体はがくりと力が抜けた。足が震えて、体が支えられず、手首の縄が食い込む。
「立ってるだけでも辛いだろうな」
田子作は蘭丸の冷たい手を握った。解いてくれるのだろうか。しかし、田子作は縄には触れず、蘭丸の手の中にしわくちゃの紙を握らせ、また口を吸ってきた。
「お前が欲しがってたもんだ」
「でも、これでは…」
この状態では読むことが出来ない。
「このまま、一日耐えろ。そしたら読ませてやるだよ」
「一日も…?」
「ひひ、嫌なら、おらと一緒に来るか?それも読ませてやるし、大勢に犯されることも……、つっでも、来ないよな」
「うっ…」
また、布を噛まされて拘束された。返事が出来ないのをいいことに語り続ける。
「ま、明日、朝んなったら誰か来るかもな。仲間連れて」
先のように、また大勢に辱められるのだろうか。耐えきれるだろうか。今だってぎりぎりで、縄が食い込まないように腕を上げ、足を着いて体を支えるのが精一杯なのに。
「ほんと、よく頑張るだな。会えない奴の生き死にによくここまで拘れる」
床が軋み、足音が離れてゆく。少しだけ遠い位置で、田子作は告げた。
戸の開閉音と、施錠音。本当に、行ってしまった。
蘭丸は、足の位置を変えた。足裏の体液の感触が不快だ。けれど、耐えなければ。耐えれば、今までとは別の一日が始まる。
(信長様…)
蘭丸は、手の中の紙を握った。
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