妄想、愉悦。





  


 洗濯物を畳んで、風呂を沸かす。湯の温度を高めにして、夕餉の準備をした。

「よし」

 今日は上手く出来た。米の水加減も間違いないし、魚もちゃんと焼けた。蘭丸が囲炉裏の火を消していると、足音がした。蘭丸が開けるより先に戸が開く。

「源太郎様、お帰りなさい」

「ただいま、お蘭」

 源太郎が草履を脱いで顔を上げた。驚いたように目を見開いてから、一瞬で笑顔になる。

「驚いただ、おらの予想よりずっと綺麗だ」

 源太郎が少し距離をとって、蘭丸の全身を眺めた。未だに女性ものの服には抵抗があるが、源太郎の喜ぶ姿を見て、着て良かったと思った。しかし、源太郎が臆面もなく誉めてくれるので気恥ずかしい。

「後ろ、向いて」

「は、はい」

「あ、帯が花みたいだな。自分でやっただか?」

「いいえ。今日、知り合った女性が着付けて下さいました」

「知り合った?何処でだ?」

「川で泳いでいたら…。そう、今日魚を取ってきました。上手く焼けましたよ」

 蘭丸は源太郎に手拭きを渡して、炉端で食事の用意を始めた。

「今日は、先に風呂に入るだよ」

「では、お背中を…」

「いいだよ。まだ、それ着てろ。脱いだら勿体無いだ」

 源太郎は風呂場へ行ってしまった。






 源太郎は、蘭丸が作ったものなら出来に関わらず誉めてくれた。飾らない笑顔で食事を口に運ぶ姿は、蘭丸を幸せにしてくれる。
 食後に源太郎が貰ってきた酸っぱい夏みかんを食べながら、蘭丸は今日の出来事を蘭丸に話した。少年たちに襲われたことは省いて、源太郎の好きな絵描きの女と出会ったこと、絵を忘れ届けたら、着物を着付けてくれたこと、絵を快く見せてくれたこと、そして、蘭丸の姿を絵にしたいと言われたこと。

「絵って、まさか裸か?」

「いいえ、春画は全力でお断りしました」

「そっか。なら、いいだよ」

「え?」

 源太郎はあっさり了承した。

「裸は絶対駄目だけどな。へへ」

 源太郎は蘭丸の体を引きずり寄せて、胸に抱き止める。風呂上がりの源太郎は下帯一枚の姿で、清潔な肌に直接頬が触れた。源太郎に比べたら、今の自分は汗臭いかも知れない。蘭丸は源太郎の腕から離れようと胸に手を当て押し付けると、より強く拘束された。

「や…ん」

 源太郎が耳を口に含んだ。熱い息や、舌が蠢く音が直接届いて、くすぐったさに顔を上げると、すぐに口を塞がれた。源太郎の唇はまだ夏みかんの味がして、爽やかな酸味が残る唾液が喉を通っていった。
 源太郎に特別な巧技があるわけではない。けれど、純粋さや、熱い想いが唇を通して直接伝わって、脳が痺れて、体がとろけそうになってしまう。肌がどんどん熱くなってるのが自分でも分かる。

「堅いな」

 源太郎が両腕をまわして、帯に手をかけた。結び目が解けると、体の力が抜けた。あまり感じなかったが、やはりきつく結ばれていたのだろう。源太郎は腕を交互に回しながら帯を解いていった。面倒な服は脱がせるのも大変だ。けれど、源太郎はこの作業すら楽しそうだった。帯を取って襟を開き、襦袢を丁寧に脱がして、ようやく素肌が現れた。
 下帯をはぎ取られていたのをすっかり忘れていた。おぞましい記憶が蘇り、蘭丸は源太郎に抱き付いた。素肌同士が触れ合い、膝に源太郎の猛りが白い布越しに当たる。

「源太郎様、今宵は、蘭と…、その……、貰って下さいますか?」

「う、うん…」

 今、源太郎とどちらの方が、顔が赤いだろうか。二人はまた顔を引き寄せて、熱い唇を押し付けあう。何だか初めてする時みたいに緊張して、鼓動が早まった。
 口吸いしながら、源太郎は胸を撫で始めた。柔らかい手付きだが、たまに指先が敏感な箇所を掠め、ぴく、と全身が反応してしまう。

「今も、ここ感じるか?」

 唇を離して、顔間近で問いかけられた。蘭丸は、源太郎の指先を見つめた。中心の淡い色付きに、指先が沈んでいた。

「先っぽ、出てこないだな」

「蘭は、やはり異常なのでしょうか?」

「違うだよ。顔や体格が違うみたいに、胸だってそれぞれ違うだ」

「ですけど、源太郎様は、大きい胸がお好きなのでしょう?」

「いいや、小さい方が好きだ」

「だって、あの絵は…」

「あん時はなあ。でも、今は小さいのが好きだ。お蘭のせいで」

「わ、私の?」

 源太郎は指先で薄紅色の柔らかい皮膚をつまんだ。小刻みに擦って、弱く引っ張って離すと、僅かながらに小さく盛り上がった。

「あ」

 源太郎は這うようにして、蘭丸の腰に抱き付き、乳首を口に含む。吸われながら舌で転がされ、甘く噛まれた。

「んんっ」

 腰に力が入らなくて、つい前に倒れて、源太郎の頭を抱えてしまった。これでは強要しているみたいだ。源太郎は歯の力を強めた。

「い、痛いです」

「でも、こうした方が気持ちいいだよ」

 源太郎の熱い息が乳首に当たる。また温かい粘膜に覆われて、強く吸引された。

「あっ…」

 蘭丸は、源太郎の頭を抱えながら膝をもじもじと摺り合わせていた。源太郎の手が中心に伸びる。

「駄目、其処は…」

 胸だけでこんなに昂っているのに、これ以上触れられたらどうにかなってしまう。

「ん、分かった」

 源太郎は蘭丸から体を離した。炉端から三歩進んで畳んで布団を広げる。

「干してくれただな。布団がふかふかだ」

「ええ…」

 急に布団の上とは。まだ蘭丸は体を洗っていない。それにまだ後片付けだってしていない。

「先に皿を洗ってきます」

「駄目だ。こっち来い」

「はい…」

 立ち上がって、源太郎の元へ行く。源太郎は蘭丸の胸をじっと見ていた。まだ噛まれた箇所が疼いて、明らかにもう片方よりも盛り上がっていた。

「わっ」

 源太郎が少し乱暴に腕を引っ張って、蘭丸を布団に倒した。

「すまね、痛かったか?」

「いいえ」

「悪かった、小さくなったから、力加減間違えちまう」

「平気です」

「そっか」

 源太郎が優しく笑んで、蘭丸の胸に顔を伏せた。もう片方を、甘く噛んで強く吸う。

「こっちも可愛くなっただ」

 少しだけ立派になった乳首を指で突かれた。蘭丸が快楽に抗うように唇を噛んでいると、源太郎に下唇をめくられる。

「駄目だ。血が出る」

「すみません…」

「お蘭は力が強いからな」

 源太郎は蘭丸の両手を取り、布団の縁を握らせた。足を広げ、中心に顔を近付けた。

「お蘭、閉じてるのに、露が零れてるど」

「えっ?」

 源太郎に割れ目の肉を捲られた。ぴちゃりと粘着質な音がする。

「凄いな。溢れてる」

「ふあっ!?」

 一際敏感な箇所に舌が触れた。蘭丸の反応を見ながら、源太郎は其処ばかりを舐め始めた。

「ん、んんっ…、あ、あっ…!」

 夢中で身を捩り、体の中に流れてゆく快楽に挑む。耐える度にまた大きな快楽が襲ってきて、蘭丸を支配した。

「ん、んんー!」

 体が痙攣する。男であった時と感覚が異なり、この体は絶頂を迎えても、その後の余韻が強く残っていた。この状態でまた触れられたら、今度はどうなってしまうのだろうか。

「お蘭、豆がすげえ起ってるだよ」

「も…、触ったら駄目です。ひゃっ」

 源太郎が下側の孔に触れてきた。既に蘭丸の分泌液で濡れ、息づいていて容易く指が埋まる。

「あっ、そっちじゃ…」

 貰って欲しいのは其処じゃないのに。けれど、こなれた快楽源の刺激で、意識がふわふわして上手く言葉に出来ない。

「でも、ここ、欲しがってるだよ?」

 源太郎の大きな一物が埋められ、更に蘭丸を桃源郷へといざなう。

「あっ、あー!」

 奥を突かれる。以前はなかった腹の奥がきゅんと疼く感覚。そこを後ろから刺激され、蘭丸の頭の中に靄がかかる。天井も、源太郎の姿も見えない。ぼんやりとした中で、体が心地良く揺れていた。

「…!」

 中に、どくりと熱いものが通った。源太郎の大きな体が覆い被さってくる。蘭丸は両腕で抱き止めた。満たされ、中にある杭が柔らかくなる。段々と、視界が鮮明になって、呼吸も落ち着いてきた。

「…お蘭」

「はい…」

「おら、嬉しいだよ。お蘭がここ以外の場所で、誰かと過ごすことが」

「どうしてですか?」

「お蘭、ここに来てから、ここでしか生きて来なかった。おらのためだけに」

「私は、そう言った生き方しか知らないのです。それが、蘭の幸せなのです」

「でも、それでも前は仲間が居ただろう?」

「そうですけど、でも、今の蘭は充分すぎる程…」

「有難う、お蘭。けどな、時間を持て余して、ただおらを待ってるだけの時、淋しくねえか?」

「淋しくないです。蘭は、源太郎様の部屋で、源太郎様を待つの、好きですから」

「その時を、別の誰かと過ごすのは嫌か?」

「え…?」

 蘭丸は言葉を返せなかった。今、蘭丸には源太郎しかいないけれど、源太郎は違う。少なくとも、自分以外に充実した時を過ごせる仲間がいるのだ。悲しいことではない。源太郎にとって大切な人は、蘭丸にだって大切な人なのだから。けれど…。

「悪かった。お蘭を悩ませたくて言ったんじゃないだ」

「分かっております。蘭がいけ…」

「いけなくないだよ!」

 源太郎が蘭丸の自責の言葉を遮った。

「お蘭は何も悪くない。なあ、お蘭が関わったその人、いい奴だったか?」

「はい。不思議な人でしたけれど」

「なら、その関わり合いも大切にしてみるといいだよ。おらも手伝う」

「手伝うって…?」

「明日、一緒に行く。絵も見てみたいし、お蘭が関わりを持った奴、見てみたい」

 源太郎の目が優しく蘭丸を見守っていた。






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