身から出た錆

 聞きなれた声が耳に入り、振り返るとナマエの姿があった。息を切らして走るあいつは、オレの前で止まると、黒い紙袋を突き出してくる。
「蘭! 誕生日おめでとう、わた」
「いらねーなぁ」
 ナマエは今日オレの誕生日だってことを覚えていたらしい。黒い紙袋を差し出されたが、すげなく断る。
「そっ、か」
 ピタリ、と手が止まり、ナマエは俯いた。そのままオレに背を向けて立ち去っていった。
 いつも他の女から預かったもの渡すだけなのに、大袈裟な。

 家に帰ると、テーブルには大量の箱がのっかっていた。ソファに座っていた竜胆が俺に気づいて声をかけてくる。
「兄貴おかえりー。ナマエから誕生日プレゼントもらった?」
「……もらってねーけど?」
「マジで? じゃアイツ持ってくの忘れたのか」
「毎年恒例のアレだろ、あの子からのプレゼント預かって渡しに来たよーってヤツ」
「じゃなくてさ」
 預かったプレゼントはアレ、と竜胆はテーブルの上を指さす。
「アイツ『今年こそ自分からプレゼント渡したい』つって預かり役をオレに頼んできたんだよ」
 バイト代貯めてY⚪︎Lの財布贈るとか言ってたけど、と竜胆は続ける。それじゃ、あの紙袋は……。
 竜胆がまだ何か喋り続けてたが、オレはそれ以上耳に入らなかった。何も言わずにまた家を出て、ナマエを探すことしか頭になかった。
 日が暮れかけた街を走り回り、ようやくナマエを見つける。小さな公園で、ブランコに座っている。こっそり近づくと、ナマエは携帯電話で誰かと連絡を取っていた。
「ちょっと渡したいもの……」
 という言葉が聞こえて、思わず彼女の口を塞ぐ。まさかそれを他のヤツに渡すつもりか? ふざけんな、オレのモンだろ。
 ナマエがもがいている隙に、俺は携帯電話を取り上げた。
「おいどうしたナマエ」
 聞こえてきたのはムーチョの声。よりによってあいつかよ。
「かけ間違いだ。切んぞ」
「蘭……? なんでオマエが」
 言い切られる前に、オレは電話を切った。そのまま携帯をナマエに返して、手を離す。
「何勝手にオレ宛のプレゼント渡そうとしてんだ」
「いらないって言ってたし、どう扱おうが自由で……あっ!」
「『オマエが』オレのために選んだプレゼントだろ? じゃオレに渡すのが筋ってもんだ」
 紙袋をひったくる。自分でも無茶苦茶な言い分だということはよくわかってるつもりだ。現にナマエは理解できない、という顔でオレを見ている。でも知ったことか。
 ニヤけた顔を見られたくなくて、すぐに背を翻す。
 もらったプレゼントは、しばらく開けられそうにない。

※後日ナマエから「私があげた財布使ってないじゃん!」と問い詰められるが「当たり前だろ今使ってるやつがダメになってからだ」とそれっぽい理由で誤魔化した。本当は嬉しくて使うのが勿体無いだけ。



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