あまくてほろにがいふたり
服がボロボロで機嫌の悪そうな蘭とバッタリ会った。どこかで絡まれたらしい。私を見るなり「なんか奢れ」などと言い出したので、相当イラついてるみたいだ。「うーん……じゃあさ、最近新しくオープンしたケーキ屋さん、モンブランもあるらしいから行ってみる?」
蘭は不機嫌な顔のまま黙っている。これは「案内しろ」って意思表示だな。
「ついてきて」
と私は声をかけて、そのままケーキ屋さんへの道を歩き始めた。
オープンしたてのお店だから、まだ外観もピカピカだ。店内には塵一つ落ちていない。ショーケースは新品特有のつややかさを持ち、指紋なんてどこにも見当たらない。そこに並んだ多種多様なケーキの中から、これだと思うものを一人一つ選ぶ。
蘭はモンブラン。私はガトーショコラ。お会計を済ませ、併設されていたイートインスペースで早速食べることにした。
開いているテーブル席に向かい合って座り、小さなフォークで選んだ洋菓子をつつく。
「……ま、悪かねぇかな」
「よかった」
美味いマズいはわりとハッキリ口にする男が、悪くないと言ったことで私も胸をなでおろす。機嫌を直すためにケーキ屋まで連れてきたのに、逆効果だったら手に負えなくなってしまう。
安心していたのも束の間、蘭は私のガトーショコラにぶすりとフォークを突き刺してきた。そのまま一欠片掬い取って口に運ぶ。
「ちょっと、勝手に食べないでよ」
「こっちも美味いじゃん」
満足そうな顔。自分は何をしても許される、とわかっている奴の顔だ。
モヤモヤしたまま残りを食べようとすると、蘭はモンブランを一欠片掬い取る。それを私の口にぐいと押し込んだ。
「んぐ!?」
「美味ぇだろ?」
「……うん」
ゆっくり噛んで、飲み下す。そして彼が口にしたフォークから食べさせられたことを改めて思い出す。
これもしかしなくても間接キスでは、と考えた瞬間顔が熱くなった。蘭は、そんな私を見てニヤニヤ笑っている。
「一口ずつ交換、それなら平等だろ?」
ずるい。これ以上、怒れない。
